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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十四節 「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
243/329

~晒~

 二日目の進攻が始まってからおおよそ4時間後。

 D班アンディ達同様、A班の勇達とB班の心輝達もまた魔者の集落へと辿り着いていた。

 いずれも居るのは年寄りなど戦意の無い者ばかり……そんな者達を相手に戦いなど起こすはずも無く。


 特に衝突も無く素通りする彼等。

 そこから聞こえてくる声はいずれも「白い(・・)相手だから」という一言。


 『白い』……それはつまり、心の色の事。

 相手が嘘を付いたかどうか……()の鋭い者であれば察知は可能であった。

 感の鋭い者……すなわち、勇と瀬玲、そしてアンディである。


 アンディがその力に目覚めていたのは福留にとっては想定外だった。

 しかしそれは良い意味での想定外。

 それのお陰で無駄な戦闘や怪我人等が出ずに済んだのは幸運と言えよう。




 各班からの報告を受けつつ、福留が静かに進行状況を映す画面に目を向ける。

 そんな中、勇達の報告にいまいち腑に落ちない平野が声を上げた。


「でも良いのですか? このままでは後続の包囲部隊に影響が出る可能性も……」

「彼等の言う事には意味があります……大丈夫でしょう」


 平野の心配を払うと、福留は相変わらずの笑みを零す。


 後続の包囲部隊とは、魔特隊の進攻部隊とは別に用意された大隊の事だ。

 勇達が確定させた安全ルートを確保し、かつ相手の領域を狭めていく部隊である。

 勇達では補え切れない広域の領域内で、安全と思われる部分を自分達の色で塗り潰してく『陣取り』が彼等の役目という訳だ。

 これによって見落としや挟撃を防ぐ事が出来る。

 もちろん、そんな事があった場合は防御一辺倒となる為、そうならない事が前提の進攻を行っている訳であるが。


 そして彼等の目的は、戦意の無い者達の説得も兼ねていた。

 だからこそ、勇達は相手が白だとわかった時、すんなりと素通りする事が出来るのである。


「しかし……明らかに妙ですね。 その場に戦闘員らしき敵意を持った者(・・・・・・・)が居ないという所が不可解でなりません」


 顎に手を充て、「ふぅむ」と考え込む福留……周りの者もその呟きを前に思わず思考を巡らせる。


 本来仲間意識の強い者であれば、家族や友人を放って逃げたりする事はあり得ない。

 聞いた情報が違うのか、それとも、彼等がその様な文化に変わっていたのか。


 それとも、その様に仕向けられたのか。


 先日のB、C班への突発的な攻撃も、考えてみれば不思議なものだ。

 こちらから向かっているのにも関わらず、奇襲の様に襲い掛かる。

 それはまるで待ち構えたかの様に……明らかな敵意を彼等に向けていた。


 疑念は深まるばかりである。


 そんな考えを巡らせていた時、勇達の報告を聴いていたアージから突然連絡が入った。


『福留殿、おれに かんがえが ある』

「おや、なんでしょうか?」

『ふくざつなこと いえるじしんがない こうどうをおこす しんじてくれ』


 そう話す彼の声は低く意味深だ。

 何か察する事があるのだろうと理解した福留は、その顎に当てた手をそっと降ろす。

 そしてその視線を領域モニターへと移すと……静かに頷いた。


「わかりました。 アージさん、貴方に行動をお任せ致します。 マヴォさん、貴方は今まで通りの進攻をお願い致します」

『りょうかい』


 そう通信を行うと間も無く彼等との交信が停止する。

 それと同時に……進攻する二人分の信号から、アージの信号だけが突然後退する様に離れ始めたのだった。


「後退している!? なぜ!?」

「思う所があるのでしょう……もしかしたら、彼も何か気付いたのかもしれません。 別班にはこの事は通達はしない様お願い致します」

「わかりました」


 それは余計な情報で勇達の行動をブレさせない為。

 そして何より、彼等の行動に不自然な動きを見せない様にして敵に動向を探らせない為でもある。


「さて、アージさん……貴方の思い付きの結果に期待していますよ」


 彼の目が見つめるのは、進攻部隊のマーキングから離れていくアージの信号を示す点滅マーク。

 目を細め、じっと見つめたまま……彼のモニターと共にその動向の一部始終を静かに見据えるのであった。






―――






「―――という訳だマヴォ、俺はこれから別行動に移る。 後は任せた……すぐ追い付く」

「わかったぜ、吉報を待ってるぞ兄者」


 それは福留との連絡を行った直後。

 アージは突然その足の速度を緩め、後ろに跳ね跳んだ。


 振り向き様に突き出した拳をマヴォへ向けると、マヴォもまたアージへ向けて太い拳を突き出し返す。

 それが見えたのか否か……アージはそのまま後方へ戻る様に走り去っていった。


 途中後続車両が彼とすれ違い、兵士達が驚きの顔を浮かべるが……間も無く入った福留からの通信で説明を聴かされると、納得した様に頷く彼等の姿があった。




 したたる程度だった雨脚が強くなっていく中……アージは構う事無く湿地を駆け抜けていく。




 だがその足は命力の一切籠らない普通の走り。

 体表から一切の命力を出さぬ様に完全に抑え込んだ彼の走りは実に静かな動きであった。




―――もし、集落に敢えて(・・・)人が残されているのだとしたら……―――




 途端、彼が進んできたルートから飛び出す様に外れると……深い茂みの中へとその体を突っ込ませていく。




―――それがそやつ(・・・)の意思ならば……―――




 完全に気配を殺し、巨体に似合わない細かい動きで駆け巡る。

 雨が降りしきる中で、彼は何を察したのか。


 答えは……すぐに彼の眼前に現れた。


 彼が茂みの中から身を小さくしながら見つめる先。

 そこには信じられない光景が繰り広げられていた。


 オッファノ族と思われる者がうつ伏せに倒れ、その周りに居る四人程の一回り小さい魔者達がよってたかって彼の背中を刃物で突き刺していたのだ。


 既に倒れたオッファノ族は微動だにしていない。

 

 その異様な光景を前にアージが声を殺し、じっと見つめる。

 だがその目は既に鋭く光らせており、牙を露わとする程に強く噛み締めた怒りの表情を浮かべていた。




―――ヘデーノ族……奴等はずっと北の果てに居たハズ……―――




 それは彼も知る者達。

 彼等は『こちら側』で言う所のアラスカ辺りに住むと言われている。

 狡猾で残忍、力は無いが頭は回る。

 毛が無く皮が厚い、ネズミとウサギが合わさった様な種族である。


 へデーノ族達がオッファノ族を刺し終えると……奇妙な笑いを上げながら遺体から離れていく。

 それが一体何を意味するのか……アージは察していた。




 察していたからこそ……許せなかったのだ。




バサンッ!!




「カァーーーーーーッ!!」


 茂みの中から飛び出したアージが凄まじい速さで彼等へと突撃していく。

 それに気付いた時……既に彼等の中の三人の首は、アストルディの刃によって体から切り離されて宙を舞っていた。

 悲鳴の一つすら、上げる事無く。


「ヒッヒィ!?」


 斬り残した最後の一人が悲鳴を上げて逃げる様に駆け出すが……途端アージの太い拳が彼の首を力強く掴み取った。


「ウゲッ!?」


 鈍い声を上げる魔者の首を思いっきり持ち上げ……その厳しい眼光を向ける。

 怯えて暴れるヘデーノ族……だが、その程度でアージの腕はビクともしない。


「キサマラァ!! 一体何故ここに居るッ!? 何をしていたのだッ!?」


 ギリギリと締め付ける首がヘデーノ族の顔色を青ざめさせていく。

 だが、苦しみながらも牙を見せつける不敵な笑みを浮かべた彼は、アージに対して憶する事無く減らず口を叩いた。


「カハッ……見りゃわかるだろうが……ウィウィ……お前等を潰す作戦だよォ~……ウィッ!!」

「なんだとぉ……!?」

「ウィーーーッウィッウィ!! 空っぽの脳味噌で考えて見ろよ脳筋がァ!! 考えた所でお前等の結末はなんら変わりゃ……ウビッ!?」


 だが、留まる事の知らないその口の動きを止める様にアージの拳が更に握り込まれていく。

 次第に苦しい表情を浮かべ始めるヘデーノ族であったが……一向に自分達の目的など喋る事は無かった。


「ウィ……カッ……死ね……死ね……ヒハッ」




ゴギンッ!!




 鈍い音と共に……ヘデーノ族の頭がだらりとアージの腕へと倒れ掛かり、その動きを止める。

 既にアージの口からは荒い呼吸が繰り返され、その怒りの強さを物語っている様であった。


 アージは動かなくなったヘデーノ族の体を放り投げると……両腕を深々と組み、その気持ちを無理矢理抑え込み始める。

 何度かの深呼吸後……落ち着きを取り戻したアージはおもむろにインカムへと手を伸ばした。




「福留殿、さくしは いる!」




 その声がインカムを通して福留達へと伝わり……間も無く声が返ってきた。


『なんですって……それは信用性のある話でしょうか?』

「ウム。 しょうさいは すぐ へいしに ほんやくする」

『わかりました。 早急な対応を願います』


 そう伝えると、インカムから手を放し……そっとのその視線をオッファノ族へと向ける。

 もう既に死して長いのだろう……大地を染めるはずだった血はもはや流れきり、雨に流され残っていない。

 凄惨な場面を前にその目を細めると……失意の中、アージは急ぎマヴォ達の居る場所へと走り去っていったのだった。




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