~影の立役者は静かに去る~
勇達が談笑し、話題に華を咲かせている頃……。
東京都のとある一角、ある一室……そこに福留の姿があった。
「鷹峰さん、今までご苦労様でした」
「ありがとう、福留さん……貴方のおかげでなんとかやり通す事が出来ましたよ」
「いえいえ、鷹峰さんのおかげで我々もとても動き易く行動させて頂きましたから……。 魔特隊の設立も貴方の尽力があったからこそ実現出来たのですよ」
その日、鷹峰総理は官邸内の自室の整理をしていた。
鷹峰総理は前年度終了を以って総理の座を降りて政治家を引退する。
政治家として最後の仕事を見届ける為に福留は彼に会いに来たのだった。
「これで最後かなァ……」
彼が最後に視線を向けたのは私物であろう鷹を象った小さなモニュメント。
細かい造形が刻まれた外装には金のメッキが施され、翼を大きく広げた鷹の雄々しさを一層強く強調させていた。
それはそれほど高いものではないにしろ、鷹峰のお気に入りの一品である。
そっとモニュメントを手に取ると……その姿を見つめる様に視線を降ろした。
掌で転がし、お気に入りの一品をまじまじと眺める。
所々細かくメッキが剥がれて中の木目がチラリと覗き、年季の入った物である事を覗わせた。
すると何を思ったのか……それをそっと、隣に立つ福留へと差し出した。
「これは……福留さん、貰って頂けませんか?」
その一言に、福留が思わず目を見開き……モニュメントに向けられていた視線を鷹峰に移した。
「これは確か……お子さんから貰った物ではありませんでしたか?」
「えぇ、随分昔の話ですけどね―――」
僅かなシワを帯びた手が大事そうにモニュメントを包み、その隙間から覗く鷹の頭部を強調させる。
作り物の鷹の瞳と鷹峰の視線が合い、思わずその眉を細めさせた。
「―――ですが……これを『鷹峰という男があなた方に尽力を尽くした』という証明にしたい。 これが在り続ける事をこれからの誇りにしたいのです」
片手で包めるほどの小さな物……そっと包んだ指を解き放つと、再び金色の外観が二人の前に晒される。
未だ輝きを失わない鷹のモニュメントは……福留へ視線を向けている様に見えた。
「そうですか……分かりました、有り難く頂戴いたしましょう」
「ありがとう福留さん……魔特隊をよろしくお願いいたします」
福留のシワだらけの掌に鷹峰から鷹のモニュメントが受け渡される。
それを掴み握ると……鷹峰が掴み伝わっていた温もりが彼の手に広がっていった。
モニュメントを受け取った福留は鷹峰にニッコリと笑顔を見せると、鷹峰もまた返す様に笑顔を浮かべ……私物箱を手に取り自室であった部屋から揃って出ていく。
官邸から出てきた二人がお互いの乗ってきた車に向かう為にそのつま先を向けた。
そんな時、鷹峰が何かを思い出した様に福留に話し掛けた。
「そうだ福留さん、少し小耳に挟んでおいて頂きたい事があります」
「なんでしょう?」
その言葉を口にした途端、鷹峰の顔が真剣な面持ちになり……福留はそれを見るや真剣な眼差しを鷹峰に向ける。
「次期総理の小嶋 由子の行動に気を付けてください……彼女は魔特隊についていい感情を持ち合わせていませんから」
「……了承しました」
鷹峰の乗る車が官邸を後にし、福留が見送る。
車の姿が見えなくなると、福留は自分の車の方へ向けてそっと歩み始めた。
「小嶋由子……これはまた面倒な事になりそうですねぇ」
鷹峰の言う小嶋由子という人物……政界にて数少ない実力派の女性議員で、福留の息の掛からない人物である。
強硬派とも言われ、様々な政策に関して積極的に取り組み国民からの支持も厚い。
その裏では汚い事にも手を染めている等の噂もあるが、その埃すら見つからず噂は噂に過ぎないと支持者に論破されてしまっている。
様々な思いを胸に福留もまた車に乗り東京の街を駆けていく。
鷹峰に託された魔特隊……それを守るのが福留の今の仕事。
鷹のモニュメントが車のダッシュボードの上で太陽の光を浴びて、煌めき神々しさを呼ぶ。
鷹の想いは老人の手を渡り、若者達へと託されるだろう。
雄々しく、気高く……鷹が如き戦士達は、多くの者達に支えられて今日も戦場へ向かう。
時は巡り巡る……人の想いも巡り巡る……。
多くの人の想い、思惑が交錯し世界を創る。
しかしその全てが全ての人に対して恩恵がある訳では無い……。
だからこそ……小さな恩恵を受け入れ、人は明日を創る。
第十四節 完