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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十四節 「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
239/329

~出~

 作戦開始……各班が目的地である包囲の中央部へと足を踏み出し始めた。


 深々と生い茂った大森林と湿地帯、そして隆起した大地が彼等の行く手を阻む。

 それをモニタリングしながら、勇達の行動を逐一確認しつつ状況を把握する福留達。

 勇達に備えられたカメラを通して映し出された光景を判断材料に、彼等に対して指示を送る。


「ではまず、B班とC班は持ち前の機動力を生かし、若干早めに進軍願います。 彼等の行動を先ずは見極めましょう」


 すると、インカムから『了解』という声が上がると共に……モニタリング画面の一つにある広域地図に光る点が二つ、大きく移動を始めた。

 西と東……まるで中央を潰す様に動きを速めていく。

 それでも広域故に、全域の大きさと比べれば微々たるものだが。


「相手が思惑通りに動いてくれればいいのですが……」

「運良く動いてくれたとしても、安心は出来ません……デジタル対アナログ……そのギャップも考慮して作戦を遂行せねばなりませんからね、過信は禁物です」


 通信によって連絡が素早く行われる事が利点になるとは限らない。

 相手の連絡が遅れる事によるラグを考慮せねば、自分達だけのペースを逆に突かれかねないからだ。

 相手側に策士が居れば……の話ではあるが。


 中国で戦ったベゾー族の件の例もある。

 一概に相手が未開人と同等であると決めつける事はもはや危険以外の何物でも無いと言えよう。


「A班とD班は進行速度を維持してください。 戦闘の報告は不要です」


 作戦領域は僅かに楕円を作り、東西に向けて膨らんでいる。

 その領域を狭め、各自の間隔を僅かに寄せていくのが現状の作戦だ。




 進攻を始めてからおおよそ30分程……遂に相手が動きを見せた。




「領域外縁部の監視班より入電、南西端部の見張りが動きを始めたそうです」

「北西部も同様……中央部へ向けて移動を開始しました」

「ふむ……恐らく見張りは元々そうする様に指示を受けていたのでしょうねぇ。 となれば我々の事は既に警戒済み……まぁこれは想定内です」


 そう語る福留の顔は以前緩い笑顔のまま。

 

 彼等の領域の外側で人間が慌ただしく動いていたのだ、気付かない訳が無い。

 拠点の設置は彼等の範疇内である事……それは福留が敢えて用意したブラフである。


 先ずは相手に『策士』が存在するか否かを確かめる為の。




 では何故策士の存在を示唆したのか。

 それは今日に至るまでに集めた情報から、彼等の動きが統率され過ぎているという結論が導き出されたからだ。




 オッファノ族の事は、アシャバ族達やその他交流を持った種族から話を聞き及んでいた。

 その性質の事、文化、ならわしなど……近い地域に住む者達であればよく知ったもので。


 本来彼等は自ら戦いを挑む事などほとんど無いとされる種族。

 転移後に現地住民との争いに発展したとしても、魔剣を持たない人間が魔者に勝てる訳が無いのは周知の事実だ。

 だが彼等はそれでも現地住民を無差別に殺害したのだという。


 そこに違和感を感じた福留は今日に至るまでに情報と状況を照らし合わせた。


 現地住民の存在する場所は彼等の領域の丁度外縁部に当たる所。

 今は人影一人すら無い現地住民の集落であるが……所々、彼等の建てた謎のオブジェクトが隠れる事無くその姿を晒していた。

 それはまるで占領の証……多大であった自分の領地がごっそりと消えている事を既に理解し、更に素早い行動を始めている。


 勇達は今までに多くの魔者達と出会ってきたが、どの魔者も数か月経過した後も世界がどの様に成っていたのか理解していない者が多かった。


 だが転移して間もないオッファノ族が短期間でこの様に動き回った事は、本来あり得ないと思っても過言ではない程に素早い行動だったのである。




 まるで、彼等が転移する事を知っていたかの様に。




 少なくとも埼玉で猛威を奮ったクラカッゾ達の様に戦闘狂でなければ、即殺戮行動など取れるはずもないだろう。

 彼等が「人間に領地を奪われた」と勘違いしているなら話は別であるが、領地を確定して移行の彼等の動きは途端に緩くなっていた。


 まるで、「いつでも掛かって来い」とも言わんばかりに……。


 それを察知した福留は、その事を勇達にも伝え……彼等も承知の上で今回の作戦に当たっている。


 当初は、空から降下し王を見つけ次第対処を行う作戦も視野に入れていた。

 だが、策士の存在や、相手の戦力の規模、そして不明瞭な地形がどの様な不利な展開を引き起こすかは想像にも付かない。

 運や不安材料の多い危険な戦いは避けるに越した事は無い……そう判断し、今回の作戦に踏み切ったのだ。




 だが策士が居るのであれば、危険が無いなどは言い切れる訳も無い。

 何が起こるかは分からない現状……勇達は警戒を深めてその足を進ませるのであった。






―――






 その頃、オッファノ族のとある集落。


 暗い大広間に多くの魔者達が集まる中、その入口から飛び出す様に一人の魔者が姿を現し声を上げた。


「まけんつかい、きた! 4ほうこう、きた!」


 途端、「オオッ」と声を荒げて慌てる様を見せるオッファノ族達。

 だが、その中央に居た小さな魔者は物怖じする事無く、あぐらをかいて座を付き続けるのみ。

 だが、その顔に浮かべた不敵な笑みは……彼の余裕を映すのだろうか。


「ウィウィ~……落ち着け、奴らはまだ俺を知らぬ。 お前達の事も知らぬ。 ここすら知らぬ。 簡単な事だ、知られなければいい。 もう一度言う、簡単な事だ」


 明らかに毛色の違うその魔者は……奇妙な笑いを上げながら彼等にその両掌を見せつけ落ち着きを促し始めた。

 すると、広場を包んでいた喧騒は暗闇に呑まれて消えたかの様に静けさを取り戻す。

 そして彼等の視線は一身にその者へと向けられた。


「お前達がしっかりやれば、負けは無い。 ウィッウィ……勝負はお前達の命に掛かっている。 いいな、俺の指示通りに動くのだ。 その命、その力を以ってな」

「「「オオオーーーーッ」」」


 途端、再び広場にけたたましい雄叫びが鳴り響く。

 その叫びを前に……小さな魔者は思わず咄嗟に耳を塞ぎ、苦悶の表情を浮かべていた。




―――チィ……面倒くせぇ、なんでこんな奴等の相手をせにゃならん―――




 そんな誰にも気付かれない小さな呟きと、僅かに怒りとも感じられる様な、歯を覗かせた口元を見せつけるが……それに気付く者は誰も居ない。


 するとその魔者がおもむろにゆっくりと立ち上がった。


「俺は寝る……今は手筈通りにやれ。 なんなら今首を取って来ても構わんぜ」

「われらがおう! われらがおう!! まけなしのおう!!」


 彼の言う事に聞く耳も立てず騒ぎ立てるオッファノ族達を前に、「やれやれ」と溜息を一つ吐くと……王と呼ばれた小さな魔者はその場から立ち去って行ったのだった。






 それは勇達が出発し始めてからおおよそ2時間後の事……アナログ的な伝達速度と比べて圧倒的に速い連絡を行う彼等は、既に次の行動へと移していた。


 勇達側でその事を知る者は、誰一人として居はしない……。




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