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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十四節 「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
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~妹~

 結局、勇が提案したオッファノ戦に向けた最後の一人の選定は失敗に終わった。

 とはいえ、アテがもう無い訳ではない。


 彼が信頼でき、実力も折り紙付きの天然少女……そう、あずーである。


 ただし彼女、期末テストに向けて絶賛勉強中。

 ついでに出向期間と期末テスト日程がかち合うというオマケ付き。

 そんな事もあり、今回の作戦における人員の数には加えられなかったという訳だ。

 

 だが彼女の力が必要とされる今、四の五の言っている場合ではない。

 国家間事業を言い訳にしたくはない勇ではあったが……国家間事業なだけに、あずーの制約を覆す方法が無い訳でも無い。

 既に福留とも話を付け、許可も得ている。


 全ての条件は整っていた。

 勇は覚悟を決め……真っ直ぐ、彼女の住む実家(園部宅)へと向かうのだった。






 獅堂との面会の後での直行。

 その距離は東京都を半分横断という相当なモノであったが、今の勇にとってはなんて事のない距離。

 命力が衰えているとはいえ、今の彼が命力を使って走れば短距離走の世界記録を維持しながら長距離を走る事も可能だ。

 命力が少ない故の、消耗量を極小まで抑えて強化が出来る彼ならではの特徴と言えよう。


 とはいえ、目立ち過ぎるのも問題な訳で……彼が「車を買え」と勧められるのも頷けるというものだろう。




 勇が息一つ切らす事無く……安定した息遣いを見せる中、園部宅前へと辿り着く。

 そして指をインターホンへあてがうと、おもむろに呼び鈴を鳴らした。


「はぁい、どなたですか?」


 インターホン越しから聞こえたのは心輝達の母親の声。

 勇の母親にも似たゆったりした声遣いが特徴な彼女……あずーにその血が流れているとは思えない程だ。


「あ、こんばんは。 藤咲です」

「あら藤咲君? どうしたの?」

「ちょっとお話があって……今大丈夫ですか?」

「え? ええ……」


 園部母にそう伝えると……間も無くして玄関の扉が開き、屋内の淡い光が漏れ出す。

 そして園部母が姿を現すと、勇は彼女に誘われる形で園部宅へと足を踏み入れた。


「お邪魔します」


 屋内もまた勇にとっては見慣れた光景だ。

 上がり馴れたとも言える屋内へ靴を脱いで踏み入れると、彼女にリビングへと誘われる。

 まだ彼等の父親は帰っておらず、屋内は静かな様子を見せていた。

 心輝であれば勇の声が聞こえようものならすぐさまにでも駆け下りて来そうものだが……物音一つ聞こえないとなると、彼も居ないのだろう。


「心輝は?」

「しん君は今お友達と晩御飯食べに行くって。 あずちゃんは今上に居るけど……勉強中だと思う」

「そうなんだ……真面目にやってるんだなぁ」

「そうそう、あの子ねぇ、最近本当に真面目になっちゃってぇ……前みたいなやんちゃ振りが嘘みたいなの!」

「俺も驚きましたよ……突然ああなっちゃったから。 まぁ今日来たのは、そのあずの事でちょっと相談があって」


 リビングにある椅子に座る様誘われると、勇は好意に甘えて席に着く。

 彼女もどこか空気を察したのか、その顔を僅かに強張らせていた。


「えっと、その……いきなりで申し訳ないんですが、明日から始まる作戦にあずを連れて行きたいんです」

「はいはーい!! いきまーす!!」


 勇がそう言いだした途端、階段の影から飛び出る様にあずーが姿を現す。

 「ピョーン!」と言わんばかりにその手を真っ直ぐ上げたその様に、勇と母親は驚きの顔を浮かべざるを得なかった。


 彼女が勇の声に気付かない訳も無く……どうやら隠れて聞き耳を立てていた様だ。


「ちょっとあずちゃん、あなた期末テストあるでしょ!?」

「あぁ、その事なんですけど―――」


 先程勇が福留と連絡した際、「出来る限りの対応をしてみます」と言われていた。

 それはつまり、彼女の期末テストに対する国からの補助が行われるという事である。


 実は勇がまだ学生時代だった頃にも同様の出来事があり、その際にも国が働きかけて彼等だけテストの日を別の日にずらした事があった。

 今回もまた同様の事が出来るのであれば、彼女の問題は半ば解決出来る。

 もっとも、それを行うという事は学校の教師の負担が増える訳で……推奨出来る事ではないのは当然であるが。


「―――という訳で、出向期間が伸びない限り問題は無いはずです」

「さっすが勇君わかってるぅ~!」

「うーん……でもねぇ、戦いに行って戻ってきてテストって、そんな事出来るの? ねぇ、あずちゃん?」


 母親の言う事も一理ある。

 恐らく、期間を延ばせたとしても数日……それを出来うる限り短くする為に、現地での療養期間はほぼ無いと言っても過言ではない。

 つまり、戦いで疲れが取れないまま帰国、そしてテストである。

 これも以前同様の出来事ではあるが。


 ちなみに前回の出来事はあずーも同伴で行われた事……その時のテスト結果は散々だったのは言うまでもない。


 それを知っているから……母親の心配は拭えない訳で。


「去年と違って真面目に勉強してるから大丈夫だよ~前のあずちゃんとは違うのよ~!」

「まぁそうかもしれないけどねぇ……」


 さすがにこれは家族との問題でもある……勇は口出しなど出来る訳も無く。


「勇君がアタシの力を欲しているのなら……アタシはそれに応えなきゃいけない理由(ワケ)があるッ!!」

「そうやってはぐらかしてぇ……もう……」


 勇は「どこかで聞いた様なセリフだなぁ」とデジャブを感じながらも、あずーの強引な押しによって口を紡がせた園部母に視線を移す。

 どこか気持ちもわからなくも無い勇は、励ましの視線だけを園部母に送っていた。

 こういったやり取りは初めてでは無いのだろう……あずーの無茶振りは今も健在の様だ。


「じゃああずちゃん、今度のテストは赤点無しよ? ちゃんとやるのよ? いいわね?」

「おっけー! 任せてよ! 赤点どころか平均点くらい軽く到達しちゃうもんね!!」




―――いや、それは当たり前だろう―――




 勇が脳内でツッコミを入れながらも笑顔でやり過ごす。

 目の前で繰り広げられるやり取りに、笑いを誘われずにはいられない。

 さすがの心輝の家族……ナチュラルに笑いを呼ぶやりとりは家族仕込みだという訳だ。




 その後も二人のやり取りは続き……結局母親が折れる形で事は決着した。


 


 テストで全科目平均点以上(・・)を取る事、無事で帰る事……それが戦いに赴く条件。

 当たり前の事ではあるが、日常と非日常を行き来する勇達にとってはそれはとてつもなく難しい事である。

 だが、それを誓う事……それすらも力に換えられるのがあずーという存在。

 単純思考だからこそ、その力の振れ幅は心のありのままに大きく変えられるのだ。


 だからこそ、彼女は頼もしい……これは勇にとっては変わりのない事実なのである。




 家族の話し合いが終わると……要求を済ませた勇は立ち上がり、園部宅を発とうとする。

 だがその時……リビングの入り口へとあずーが立ち塞がった。


「んふふー……勇君、頼み事を引き受けたとは言ってないよ~……?」

「いや、お前今『行きます』って言ってたじゃん」


 勇の鋭いツッコミに思わず「ウググ」と顔を引きつらせるあずーであったが……眼を鋭くすると、彼の顔を上目遣いで覗き込む。

 妙な迫力のあずーに勇が思わずたじろぐ。

 彼女がなお「ずずい」と顔を近づけると、おもむろに彼にニヤリとした笑顔を向けた。


「参戦の条件として……明日の準備もあるしさ、勇君……一緒にご飯食べにいこー!」

「それ準備と関係ないだろ!?」


 だが、調子に乗ったあずーの勢いを止められる訳も無く。

 別段断る理由も無かった勇は、やむなく彼女と二人で食事に向かうのであった。


 当然、病床の茶奈には一言添えて。






 こうして、オッファノ族との戦いに向けたメンバーが揃い……翌日、勇達は南米へと旅立つ。


 南半球をぐるりと回る長い長い旅路を経て、彼等は一旦の休息地であるチリのサンティエゴへと辿り着いたのであった。




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