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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十三節 「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」
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~終 結 抱 擁~

 以前の様に、決して動かぬ程の余裕さは持ち合わせていない。

 全力で彼等の攻撃を躱す勇の動きは全てを見切ったが如く紙一重。


 そして生まれた隙を突き、反撃が見舞われていく。

 それは以前と同じ……そう思われた。




 しかしアンディとナターシャは……繰り出された反撃を躱し、更なる斬撃軌道を構築していた。


 躱し躱され……クリーンヒットは最初の一撃のみ。

 僅かに掠る等はありはしたが、それは勇も同様。


 超強化した勇を相手に、互角とは言わずとも張り合う事が出来ているアンディとナターシャに……その様子を見ていた誰しもが声を押し殺して見守る。




 彼等はここまで成長していたのか、と……その認識を塗り替えるのに時間は掛からなかった。




 以前までの彼等であれば、ここまで戦う事は出来なかっただろう。

 訓練はいわば遊びの延長。

 身になっていない訳では無かったが、本気かと言えばそうではない。

 実力はあっても、体はあっても、彼等はきっと……諦めていただろう。


 心がそこまで戦いに対して向き合えていなかったのだ。


 でも、彼等もまた瀬玲や心輝同様、人の命を垣間見たから。

 名前も知らぬ人の命を知ったから。


 だから彼等は強くなった。

 真剣に戦う事に向き合えるようになったのだ。


 「あんな想いはもうゴメンだ」……この場に居る隊員達の誰しもが思う、後悔から来る念。

 それが彼等の心にもまた芽生えていたのである。




 繰り返される攻防、それがいつまでも続く……そう思えもしたが、その均衡は間も無く崩れ始めた。




 体勢が崩れ始めたのは、勇であった。


 長時間の戦闘に耐えられない事もさることながら、肉体強化法による負荷が大きくその体を蝕んでいたのだ。

 当初は二人の攻撃を躱し続けていた勇であったが、次第に竹刀で受け流す回数が増えていった。


 そしてアンディとナターシャは疲れるどころか、その攻撃を一層鋭くさせていく。

 今まさに成長中と言わんばかりにコンビネーションを激化させていく様は彼等の潜在能力の高さをうかがわせる程。


 落ちていく勇の力と増していく二人の力……均衡が崩れた時、その差がハッキリし始めた。


「くっ!?」




 背後から斬り掛かったナターシャの一撃を竹刀で受け流す。

 だが、遂に魔剣の攻撃力に耐えられなくなった竹刀が弾け飛び、折れた刀身が宙を舞った。




パァーン!!




 怯む事無く柄だけとなった竹刀を捨て、残り一本となった竹刀を両手に握る。

 間も無くアンディが死角から襲い掛かり、そしてそれに気付いていた勇が振り向いた時……一瞬、その視線が合わさった。


 アンディの渾身の一撃と、勇の斬り返し……互いの勢いのままに振り抜けられ―――




バァーーーーンッ!!




 二つの刀身が交わった時……もう一本の竹刀の刀身もまた激しい音を掻き立てて弾け飛び散ったのだった。


 してやったり……アンディがそう思い、笑窪を僅かに上げる。

 だが、次の瞬間……勇の手が彼の服の襟袖を掴み取った。




ッダァーーーーンッ!!




 そのまま勢いよく床へ叩きつけられるアンディ。

 力任せに叩きつけられた事から顔が歪み、その目の焦点がズレる程のダメージを体現させていた。


 その間に飛び掛かっていたナターシャであったが……勇は叩きつけたアンディの体をそのまま引っ張り上げ、彼女へ向けて力任せに投げ付けた。




ドガアッ!!




「ウゥッ!?」


 二人の体が跳ね上げられ、宙に舞い上がる。

 勢いよく遠くへ跳ね飛ばされた二人の体が床へと叩きつけられ転がった。


「くっそぉ……つえぇ……」

「でも……まだ!!」


 なお諦めず、立ち上がる二人。

 互いに体も力も気付けばボロボロ。

 勇に「止めてみせろ」と言われたから……彼等はまだ終わらない。




 終われない。




「―――だよな、ナターシャ……!!」

「だよね……アニキ!!」

 

 レイデッターとウェイグル……二本の魔剣が二人の意識を共有させ、その先を見せる。

 体が例えボロボロでも、彼等の加速する意思が諦める事を許さない。

 今までに無く二つの魔剣が力強く輝く。

 立ち上がった二人が並び、ゆっくりと勇へと向けて歩み出し……その意思を篭めた瞳を一身に向けていた。




 迎え撃つ様に勇もまたその足を一歩、また一歩と踏み出していく。

 二人と違い、殺意をふんだんに篭めた彼の体はもはや自我があるかどうかすら怪しい。

 それ程までに、強く、鋭い殺意の視線を彼等に向けていたからだ。

 

「コォォ……!!」


 なおその闘争心は失われていない。

 ただ目の前に居る敵を砕く為に……ただ残る力を篭めるのみ。




 互いの歩みが徐々に加速していき、次第に力強い一歩を踏み出し始めると……再び闘争心を露わにした三人が勢いよく飛び出した。


「ウォォォオッ!!」

「ダァーーーーッ!!」

「ハァーーーーッ!!」


 勇を戦闘不能にする為に、二人が斬撃を左右から繰り出すと……勇は腕を正面に掲げ、その二刃を力を篭めた腕で受け止める。

 途端、鈍い音が響き渡り……勇の両腕から血飛沫が舞った。




―――そうだ……!!―――




 アンディが床を蹴り、斬り掛かった勢いを殺すと、そのまま強く蹴り上げ飛び上がる。

 ナターシャが床を這う様に姿勢を低くし、勢いのままに床を蹴って回り込む。


 怯む勇に向け、再びその力を奮う為に。




―――それでいい……!!―――




 再び勇の体に打ち付けられる二本の魔剣の斬撃。

 命力が込められた斬撃が魔装の防御力を超えて勇の体にダメージを与え、傷を作る。

 跡からジワリと滲む真っ赤なシミ……並みの傷では無い証拠であった。

 

 それでもなお、二人の攻撃は続く。




―――俺を……乗り越えろ!!―――




 度重なる連続攻撃。

 徐々に勇の体が血に染まり、その床には血だまりが生まれていく。

 居た堪れなくなって視線を外す観戦者も出始める中……意の一番に視線を外しそうだった茶奈がなおも彼等の戦いを見届けていた。

 唇を噛み締め、勇が挑もうとしている事に目を背けない様に……じっと耐えていたのだ。




 様々な想いが交錯するこの空間で、二人の戦士が今、花開こうとしている。

 それを見届ける為に、導く為に……己の身を以って示そうとする一人の男。




 止める事など……出来るはずも無し。




 もはや動く事すらままならない勇へ向けて……渾身の力を篭めたアンディとナターシャが最後の攻撃に挑む。


 それが最後なのが誰でもわかる程にハッキリと……今までに無い程の力を滾らせて。


 勇もそれがわかっていたからこそ―――






「そうだ……俺を殺して見せろおーーーーーーッ!!」




 


 咆哮が閉鎖空間に響き渡り、気迫で二人を迎え撃つ。


 気迫に充てられた二人もまた……吼え昂らせ―――






「「うわァーーーーーーーッ!!」」






 一直線に勇へと向けて、アンディーとナターシャが光の軌跡を創りながら駆け抜けていく。


 その一瞬を見届ける為に。

 彼等の意思の在り方を見定める為に。

 仲間達もただ静観するのみ。


 二本の光の筋が直線を描き、その切っ先が届かんとした時……勇の目が閉じられた。


 「例えどうなろうと、瀬玲が居る……きっとなんて事は無いさ……」、そんな想いを胸に秘め……自身の行く末を静かに受け入れていた。




ドカッ……




 その時……勇の体に伝わったのは、斬撃の衝撃では無く……もっと柔らかい何か。


 不思議な感触を覚えた勇がそっとその目を開く。

 その視界に映ったのは、彼の体に抱き着いた二人の姿であった。


「アタイ達……師匠は殺せないよ……」

「殺すのを目的になんかしたくないんだ……絶対……!!」

「お前達……」


 途端「ギュッ」抱き締められた感覚が勇の体へ伝わっていく。

 力強く服を握り締め、一心に力を篭めて抱き着くその姿はまるで駄々をこねて甘える小さな子供のよう。

 二人が剣を落として抱き着いた事……それを目の当たりにした勇の体が見る見るうちに縮んでいき、元の体格へと戻り始めていた。


 元の姿へと戻った勇の手が、左右から抱き着いた二人の腰へとそっと回される。

 気付けば……勇の顔には微笑みが生まれていた。






 こうして、勇とアンディとナターシャ、三人の戦いが終わりを告げた。


 傷付いた勇の体は間も無く瀬玲の力によって治癒され、事無きを得る。

 また、この戦いを機にアンディとナターシャの心の在り方が定まり、その技術に向上の兆しを見せた。


 ただ強くなるだけならもっと別の方法もあっただろう。

 この戦いに意味があったのか、それは本人達にしかわかりはしない。


 だが、二人の胸に渦巻いていた不安と無力さは払拭された。

 それだけで十分なのだ。


 前に進めた事……それだけで。




 人の生き様は無駄があって、理由など必要無くて……だから成り立っている。

 無駄も無く、理由でしか動かないのであれば、そこにあるのは人生では無くただの作業。

 

 その無駄で傷付き、理由で苦しむのならば……払拭する為に進めばいい。

 踏み外しさえしなければ、歩み続ける事は容易いのだ。


 乗り越えて、踏み出して、修正して……歩み続ける事が出来るから……ヒトなのだと。


 彼等もまた、そうしてここまで歩いてきた。

 踏み外しそうになった事もあった。

 失敗も多く経験してきた。


 だからこそ彼等は何度も、何度も、踏み出す。

 間違う事を恐れているから。

 失敗をしない為に、踏み出し方を模索する為に。


 こうして人は……明日を知るのだ。






第二十三節 完




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