表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十三節 「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」
222/329

~仙 女 帰 還~

 茶奈達が事務所でぼやきを上げている頃……事務棟二階応接室。

 照明を点けていないその部屋の中……勇と福留は机を挟んで備えられたソファーへ、顔を合わせる様に座っていた。

 

 話題は当然、平野が話していた通りの……魔特隊の今後に向けた話である。


「レンネィさんが居なくなるのは避けられません……そうなった以上、魔特隊の次期リーダーを決めねばなりません……ですが―――」


 今まで、レンネィが魔特隊のリーダーとなり勇達を導いてきたのは事実である。

 彼女の経験、実績、そして社交性などの要因は魔特隊を統べるに相応しい存在。


 だが彼女が倒れた今……率いるのは誰になるか、その事が二人にとっての悩み所であった。


 レンネィが居ない今、恐らく魔特隊の面々が推す次期リーダーは勇だろう。

 しかし勇には問題がある……自身の命力の減少の事だ。

 いつ常人に戻るか、いつ死ぬか。

 どうなるかもわからない今、彼がリーダーを引き受ける事はただの中継ぎにしかならない。


 互いに腕を組み、問題に対して頭を悩ませる。


 仲間達が思う以上に、事は深刻な問題なのだ。




「福留さん……提案があるんです」




 沈黙が包んだその時、おもむろに勇が口を開いた。


 彼の声を耳にした福留はピクリと眉を動かすと……「どうぞ」と一声彼に向けて挙げる。

 福留の反応を前に、勇は彼へと向けて語り始めた。


「やっぱり俺、命力の事を皆に伝えようと思います。 多分それしか……納得してもらえないと思うから……」

「いいのですか?」


 勇は静かに頷き応えると……福留はしかめた顔のまま「うーん」と唸る。


「デリケートな問題ですからねぇ……タイミングが難しいですが……」

「それなんですが、多分もうそろそろ皆の目を誤魔化すのも無理があるくらい減衰しているので……頃合いかなとは思ってるんです」


 既に剣聖に自身の状態を診断してもらってからおおよそ5ヶ月……勇の命力はもう既に長期戦には向かない程の力しか残っていなかった。

 自身の事だからそれが良くわかるのだろう。

 勇は覚悟はしていた様だ。


「ふむ、そうですか……わかりました。 また茶奈さんの悲しむ顔が目に浮かぶようですねぇ」

「えぇ、心輝の怒る顔も……ですね」


 感傷に浸り、僅かな間を静寂が包む。


 勇が魔剣使いになる前から友だった心輝、瀬玲、あずー。

 彼等は勇が魔剣使いになった頃……隠していた事実をいち早く察知し、彼に追求した事がある。

 その時はまだ彼の意思が弱かったという事もあり、隠し事も下手だった為の事態ではあったが……彼等の本質は未だ変わらない。

 勇が隠し事をしていたとわかれば、彼等の反発は避けられないだろう。

 特に……空島の時に彼の在り方に猛反発した瀬玲からは。


 それもよく理解していたからこそ、余計な蟠りを生むのを嫌った勇は一つの提案を打ち明けた。


「福留さん、公開は……レンネィさんが起きた後、もしくは……セリが魔特隊から正式に脱退した時でお願いします。 セリには変な誤解を与えたくないから……」

「ふぅむ……そうですね、仕方ありませんが彼女の事を考えたら……それが残当でしょう―――」




 福留がそう言い放ったその瞬間……突然、勇の背筋が凍る様な威圧感が周囲を包んだ。




 それに対しリアクションを取る間もなく……一筋の光が福留の横を通り抜け、勇へと一直線に突き抜けていく。




ピュンッ!!


ビシッ!!




 勇はそれを咄嗟に察知し、突き刺さる直前に指で光の筋を摘まみ取っていた。


 掴まれたそれは、勇の瞳を狙ったかの様に放たれた一筋の線。

 強力な命力を篭めた一本の細い髪であった。


 今なお掴んだ指と髪の間に小さな命力の光が弾き合う中……突然の出来事に勇だけでなく福留もが目を丸くして固まっていた。






「―――随分と、人を(ないがし)ろにするのが上手くなったじゃん……」






 その声と共に、応接室の扉が開かれ……暗い部屋に太陽の逆光を受けて浮かぶ一人の人影が姿を現した。


「き、君はッ……!!」


 日の光が地に着く程に長く淡い髪を輝かせ、ふわりと靡かせるその姿……そして見慣れた顔。

 ……そこに立っていたのは瀬玲であった。


「なんと……もしかしてセリさんですか……?」


 驚き振り返った福留の目にも、彼女が彼女であるのかが疑わしい程に変貌した瀬玲の姿を前に……疑問の声を上げる他無かった。


「えぇ、そうですよ福留さん……今帰りました」

「そ……そうですか……おかえりなさいセリさん、随分と変わられた様で……」


 思わず浮かべた苦笑いのまま、二人が彼女を迎える。

 すると彼女はいじらしい顔を浮かべたまま「フフン」と鼻を鳴らし、許可など求める事も無くズカズカと応接室へと踏み入れる。

 そして何を思ったのか……何故か勇の隣、手すりの上に「ドカン」と腰を下ろした。

 途端、ふわりとした髪が勇の頭に降りかかる。

 勇は神妙な面持ちを浮かべたまま彼女を横目で眺めていた。

 彼の頭に無造作に乗っかった髪を気に掛ける事も無く、背もたれにぐったりと寄り掛かると……瀬玲はその荒々しい態度で彼等に話しかけた。


「ん……早く」

「は?」

「事情説明はーやーくー」


 まるで人が変わったかの様にふてぶてしくなった彼女に戸惑いを隠せないながらも……事情説明は避けられないと悟った勇は彼女の要求に応え、彼女達に秘密にしていた命力の事を事細かく説明し始めた。




 7月に遠征したグーヌー族との戦い……ズーダー達と出会った時、勇の命力が減衰している事に気が付いた事。

 剣聖に診断してもらい、半年から1年で勇の命力が無くなる事。

 その結果、死ぬかもしれないという事。


 そして、その事実を仲間達に秘密にしていた事。


 そこに至った後も、彼がその事実を受け入れた上で起こした行動を全て彼女に洗いざらいぶちまけた。

 もちろん、空島での行動も一緒に……である。




 勇の口から全てが語られ、それを瀬玲は静かに自身の座るソファーの背もたれの上に寝そべる様にもたれ込んだまま聞き耳を立てていた。


「―――これが、皆に黙っていた全部だ」

「……ふぅん」


 勇は全てを話すと、途端しんみりとした沈んだ顔を浮かべて顔を俯かせる。

 顔に影を落とし、全てを語りきったと言わんばかりにその口を紡いだ。


 だが突然……そんな勇の頬に「ビシッ」とした衝撃が走る。


 瀬玲の人指し指が勇の頬を突いていたのだ。

 



グッ……


ググッ……


グググッ……




 徐々に突いた指が力を増し、勇の頬にうずまっていく。

 顔が徐々に傾き、首が傾ききると……なおも強まっていく指の力で押し込まれ、勇の口が強引に押し開かれていった。


「な、なにふうんや(なにするんだ)よ……」


 なおグイグイと押す指に抵抗する事無く苦悶の表情を浮かべた勇が問い質すが、彼女の答えは返らない。

 ただ上に向けた顔はニヤリとしたいじらしい笑みを浮かべ、その指の力を強めるのみ。


 命力がふんだんに籠ったその指は抵抗出来ない勇の顔を突き続け……遂に勇の体がよろけ、ソファーの横へ退ける様に転げ落ちた。




ガタタッ!!




 途端、ソファーもゴロリと転がるが……瀬玲はその髪を高く舞い上げながら狭い部屋の中でくるりと宙を舞っていた。


 そして「スタリ」と優雅に着地すると、転がる勇を見下ろす様に細めた瞳を向ける。

 勇が転げ落ちた体を起こし立ち上がると……それに合わせる様に瀬玲がその口を開いた。


「言う事もっとあるんじゃない?」

「えっ?」

「もっと大事な一言がさ」

「あ……」


 瀬玲に言われて初めて気付いたのだろう。

 勇はおもむろに痒みを伴う自身の頬を掻きながら、気付いた一言をそっとその口から解き放つ。




「……その……ごめんなさい……」




 しおらしく謝罪の言葉が贈られると……突如、瀬玲の顔がニッコリとした笑顔を浮かべた。


「そう、それでよし!」


 すると彼女から突然勇の前に拳が突き出される。

 それが何なのか勇には理解出来なかったが……ツンツンと僅かに突き上げる拳が誘っている様に見え、勇は誘われるがままに自身の拳を突き当てた。


 それは彼女がイ・ドゥールの都で覚えた一つの挨拶。

 その意味は……『突き出す拳が如く誠実であれ』。


「まぁ……アンタがさ、伏せたい理由は理解出来るし……色々ツッコミどころもあるけどさ、なんかもうどうでもいいかなって思うわ」

「なんだよそれ……」


 突き合わされた拳が不意に離れると、瀬玲は今までに見せた事の無い様な「ニシシ」と歯を見せた笑いを浮かべた。


「私もあっちで色々あったからさ……アンタが苦労してたのも、苦しんだ事も……わかってあげられてなかったってわかったから……だから、皆に言おう?」

「セリ……わかった。 ありがとうな」


 互いが見つめ合い、笑い合う。

 気付けば二人の雰囲気は以前と何ら変わらない、仲の良かった頃と同じ雰囲気に戻っていた。


 そんな二人の様子を、福留は「ウンウン」と頷きながら眺めていた。


「ところで……セリさん、その髪どうなされたので?」

「んー……伸びた!!」




 どこかで聞いた様なやり取りを交わし、彼等は笑い合う。

 蟠りを払拭し、その想いを交わした彼等の間には……隔てる物はもう何も無いのだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ