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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十三節 「驚異襲来 過ち識りて 誓いの再決闘」
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~初 手 攻 勢~

 アンディとナターシャが戦いを繰り広げている頃……。




バキバキバキッ!!




 それは激しく鳴り響く木造住宅の崩落音……。


 彼等の戦闘地域からそれほど離れていない別の住宅街で……大きな音を立てて民家が崩れ落ち、青い空へ向けて大きな土埃が巻き上がっていた。




「―――突けば……突くだけぇ~……出るっ、出るっ~……ヘッヘヘヘェ~……!!」




 怪しい瞳を光らせ、崩落した屋内で埃に塗れた巨体が静かに囁く。

 その腕に掴まれた槍には……人間が二人程、貫かれたまま力無くぶら下がっていた。


 その様子をニタリと笑い眺めるその者……アンディとナターシャが戦っている雑兵とあまり変わらない図体を持ちながらも、独特の雰囲気と血の臭いを漂わせる。




 彼こそがヴィジャールー……クラカッゾ達の王である。




 崩れゆく建物に目も暮れず、ノシノシとゆっくり獣を歩かせ外へ躍り出す。

 途端、ピクリと動きを止めると……その大きな鼻を「スンスン」と動かし臭いを嗅ぐ。


 すると……その顔が「ニタァ……」と大きな歪んだ笑顔を作り、おもむろに空を見上げた。


「この命力(におい)はァ……来たかぁ~……レンネェエ~~~イッ!!」


 その先に見えるのは、小さな粒程にしか見えない空飛ぶ鉄の塊。

 太陽の光を背に飛ぶその鉄の塊から、高速で舞い降りて来るのは二人の人影。




 太陽の光を背に纏い、目立たぬ命力を迸らせた心輝とレンネィである。




 空を裂き、先発の二人同様降下具(パラシュート)を一切身に纏わず大地へと向けて降下していく。

 狙いは宿敵ヴィジャールーただ一人。


 あっという間に大地との距離は縮まっていき、変わらぬ速度のままアスファルトに覆われた道路へと突っ込んでいく。




ドォン!! ドォン!!




 途端衝撃音が鳴り響き、同時に「バキバキ」と硬い物の砕ける音が衝撃音に隠れて響きを上げた。


 命力を存分に篭めた両足で着地し、強化された肉体が着地の衝撃を吸収し受け流す。

 もはや高高度からの落下速度からなる追突では彼等の体を壊す事が出来ない程に、彼等の肉体は強靭なまでに強化されているのだ。 


 着地の拍子に屈めた膝を伸ばして直立する二人。

 その視線は、道路の先……そこに見えるのはレンネィの宿敵―――


「ヘヘ……ヒヘヘェ~……!!」


 彼女の参上に応えるかの様に、道路へと歩み出していたヴィジャールーであった。


「ヒッ……ヒヒッ!! レンネェ~~~イッ……レンッネェェーーーイッ!!」

「ヴィジャァァルゥゥウーーーーッ!!」

 

 ヴィジャールーの乗る獣が大地を何度も蹴り上げ、今か今かと踏み出そうと主の合図を待つ。

 レンネィもまた相手の出方を待つ様に……雄叫びを上げながらも冷静な思考を以って彼と対峙し、鋭い視線を向けていた。


「んん~……? なんだなんだァ……随分とけったいな格好してるじゃあねェか……それとあの魔剣……」


 つい先日この世界へやってきた所為か、ヴィジャールーがこの世界の事情を知るはずも無く。

 魔装に身を固めたレンネィと、隣に立つ心輝の姿を見るや……ヴィジャールーが唸る様に呟いた。

 その視線に映るのは、心輝が備えるグワイヴ・ヴァルトレンジ。


「おーおー!! その魔剣見た事あるぜェ……だが付けてる奴が違うじゃねぇか……どうしちまったんだァ!?」


 まるで馴染みの様に大声を張り上げ、二人へと話し掛けて来る。

 だがレンネィはそれに応える事も無く……腰を屈め、魔剣シャラルワールを水平に構えた。


「シン……来るわよ」

「え!? お、おう!!」


 彼女が応えなかろうと……構う事無く、ヴィジャールーは続き吼える。


「……あぁ~そうかぁ、死んだかァ!! あのクソアマ死んじまったかぁッハッハァーーーー!!」




ドォンッ!!




 途端、獣が力強く大地を蹴り、凄まじい加速でレンネィ達との距離を詰めていく。

 焦る心輝を他所に、レンネィもまた低い姿勢のまま駆け抜けだした。


 巨体が奮う巨大な槍がレンネィへと向けて突き出され、その勢いは更に増していく。

 その先端に籠る命力の光は、雑兵が持っていた力など比べ物に成らない程に力強く激しい光を伴っていた。


 それこそがヴィジャールーの持つ魔剣【フェゴロッダ】。


 雑兵達が持つ槍はこの魔剣の模倣品に過ぎない。

 彼の持つ命力をふんだんに吸い取り力に換えるその魔剣は、彼の全てを引き上げている様であった。

 心輝が戸惑うのも無理は無い……その動きは空島で戦ったメズリの速さにも匹敵、もしくはそれ以上とも思える程に素早いものだったからだ。


「や、野郎……はえぇ!?」


 だがそれすらもレンネィは知っていたからこそ、彼女はヴィジャールーへ向けて怯む事無く攻め込む。

 既に二人の距離は互いの目と鼻の先とも思える程に近づいていた。


「ハァァーーーーーッ!!」

「ケェァアーーーーーッ!!」


 リーチの差は歴然……先に攻撃を仕掛けたのは当然ヴィジャールー。

 高々と掲げられながら突き出された槍が、彼女目掛けて突き降ろす様に襲い掛かる。


 だが、速さを売りにした彼女がその一突きを躱せぬはずが無かった。




 その瞬間、シャラルワールから命力を伴った風が吹き荒れ、彼女の体を強引に槍から引き離した。




 普通の人間では再現しようも無い、彼女の体全体を捻り舞うその姿はまさに竜巻そのもの。


 槍を躱したと同時に自身の体に回転力を加え、高速回転を始めると……幾多もの槍の表層を叩く金鳴音が一つの鳴音となってけたたましく鳴り響く。




ギャァァァァァァンッ!!




 『死の踊り(マルルナザーレ)』……彼女が持つ異名。

 相手を死に追いやる嵐が如き踊りを繰り出しながら、突き出された槍を踏み台にしてヴィジャールーへと襲い掛かった。


「ぉぉおおおおッ!?」


 竜巻と化したレンネィの斬撃が、彼の頭へと襲い掛かる。

 だが寸での所でその頭を大きく反らし、斬撃は虚しく空を斬り続けたままその後方へと過ぎ去っていくのだった。


「チィッ!?」


 高速ですれ違い、自身の斬撃が躱された事で顔をしかめながらヴィジャールーを跡目で追う。

 だがその視線に映ったのは……彼女の期待通りの出来事であった。




「っしゃらあああーーーーーッ!!」




 レンネィの攻撃を躱して体勢を崩したヴィジャールーへと……心輝が攻め込んでいたのだ。


「なッ!! にぃイィィーーーーーッ!?」


 その腕に備えた魔剣から噴き出す炎は、前所持者を知っている彼すらも知らない程に強く激しく燃え滾る業炎。

 相手だけを焼き尽くす炎を纏い、その拳をヴィジャールーへと向けて突き出していた。




「―――ンなぁんてなァ……?」


 これで終わりかとも思えた時……在ろう事か、ヴィジャールーは笑っていた。




 途端突き出された拳の前に突如大きな盾が姿を現し、意思に逆らい拳撃が遮られる。


 駆け抜ける勢いのままに盾を傾け、心輝の拳撃をいなし逸らしたのだ。

 レンネィに続き心輝までもが勢いのままにすれ違い過ぎ去っていく。


「クッソォ!! すまねぇ、レン姐さん!!」


 上手く着地したレンネィの頭上を飛び越し、心輝がその先で転がっていく。

 その間にもヴィジャールーは走り去り、住宅の影へとその姿を消していった。


「クッ……奴のペースに惑わされてはダメよ……心の隙を突くのが奴のやり方よ!!」


 レンネィが叫び、態勢を整えると……叫びに呼応した心輝もまた立ち上がり、いつ襲い掛かるかも知れぬ敵に備える様に互いの背を当てて死角を塞ぐ。




 人の気配が失われた静かな住宅街……だが彼等の激闘は未だ続いているのだ。




―――




 レンネィと心輝に気付かれぬよう、物音を立てず走り回るヴィジャールー。

 余裕の笑みを浮かべていた彼であったが……その額に一筋の汗が流れ落ちていた。


「ヘッ……ヘヒヒッ……あの片割れ……奴も面白れぇなぁ……ヒヘヘヘェ~……!!」


 その視線は己の左腕に掴まれた金属製の大楯へと向けられる。

 盾の表皮に刻まれたのは、心輝の一撃によって作られた大きな跡。


 人の大きさ程もある大きな盾を真っ二つにせんばかりに溶解して抉られた横薙ぎの痕跡であった。


 ヴィジャールーが知る限り、グワイヴの前装着者も相当な熱量を持った炎を操っていた。

 それを大きく凌駕した威力を心輝は見舞っていたのである。

 彼の持つ盾は前回レンネィが戦った時の経験を元に(こしら)えた対グワイヴ用の耐熱大楯。

 だが想定を超えた力を前に、もはや盾そのものの耐久度が持たなかった様だ。


 そして彼が焦りを感じていたのはそれだけではない。

 レンネィもが以前の彼女を凌駕した能力を見せつけた事が、彼にとっては想定外の事態だったのだ。


「なんだってェんだよ……ヒヘヘェ……面白過ぎじゃねぇかよォ~、一体全体どうなっちまったんだァ~……?」


 突然変わった風景、人間だらけの土地、これ以上強くなる訳無いにも関わらず強くなっていたレンネィ、そして異様な力を持った若手の魔剣使い。

 何もかもが彼にとっての想定外。


 だがその焦りすらも……彼にとっては快楽に感じる感情。


 おもむろに持っている大楯を明後日の方向へと空高く放り投げ、それをも自分の布石へと変える。


 思考を巡らせ、如何に敵を惑わし勝利へと導くか……昔も今もただそれだけを考えてきた。

 想定外の力を誇るレンネィ達を屠る姿を妄想し……歪んだ笑顔を浮かべ、跨る獣をひた走らせるのだった。




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