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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十二節 「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
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~背後突くジェラシーサイト~

 突然の福留からの残暑見舞い到来から三日後。


 勇達の心身から戦闘の疲れが取れ、相も変わらずの姿で本部へとその姿を現していた。

 ただ勇だけは肉体の限界を超えた行動が祟り、万全とは言い難かったが……ちゃなが本部へと出勤する際に、これ以上は鈍ってしまうと言い張り付いてきた訳である。




「おいおい……お前フラフラじゃねぇか!!」


 僅かに不安を感じる歩き方をしていたのだろう……勇が廊下を歩いていると、事務所から顔を覗かせた心輝が大声を上げて彼へと怒鳴りつけた。


「寝てばっかりだったからな……体が鈍る前に動かさないと、力の使い方も忘れそうでさ」

「バァカ、そんなんだからセリにあーだこーだ言われるんだろうが……」


 そんな事を言われてしまうとさすがに勇もダンマリするしかない。


 先日の瀬玲から放たれた一連の発言が勇にとっては大きな衝撃だったのだろう。

 本来であれば彼の自然治癒能力であれば完治してもおかしくない体であったが……彼女の言葉を思い出し集中力が乱れた事で、完治には程遠い状況と成ってしまっていたのだ。


「帰れ帰れ、またセリみたいに言われたく無きゃあと一ヵ月くらい来んな。 折角だから茶奈ちゃんも一緒に来るんじゃねぇ!!」

「えぇ、それは横暴ですよ……」


 恐らく心輝的には、「お前等一緒に過ごして仲良く絆を深め合え」とでも言いたかったのだろう。

 だがそんな物言いが逆に大人しい茶奈に火を付けてしまったのか……プイッと顔を背けて彼の横を過ぎ去り事務所へと入っていく。

 「あちゃあ」と歯を浮かばせながら、横を過ぎ去る彼女を目で追うが……不意に彼の頭に「ゴンッ!」という衝撃が走り、堪らず頭を抱えた。


「お前も少し考えて物を言えって」

「んなっ……お、俺はお前等の仲を取り持とうとだな……っテテッ!」


 曲がりなりにも命力が高い心輝にダメージを与えるにはそれなりの命力を篭める事が必要……勇から放たれたゲンコツはしっかり命力が籠っており、彼の頭に与えられたダメージは予想に反してそれなりに大きかった様だ。


「余計なお世話だ……大体、俺達はそんな仲じゃない」


 勇と茶奈のお互いの認識が合った事で誤解は晴れたが、彼等にとっての関係はむしろそれ以前の状態……普通の友人同士としての関係に近いモノへと戻っていた。

 家族と言っても過言ではない状況という事もあり、心輝のみならず他の者が思う様な「恋仲」とは程遠い状態だと思っても過言ではないのだろう。


「でも気には?」

「なってると言えば嘘じゃないけど」


 いつの間にか立ち止まり会話をする二人の声は小さく、本音を漏らす様に語る姿に。


「でも、そんなつもりにはなかなかなれないな」

「それはお前が遠慮しがちだからだろうが」

「んじゃお前今すぐレンネィさんに告ってこいよ、今すぐ」

「おま……それここ言うかぁ?」


 心輝の背後の向こうには、二人がこそこそと語っているのを遠目で見るレンネィの姿が。

 彼は現在彼女に『ぞっこん』であるが、未だ告白出来ずにいた。


 痛い所を突かれ……思わず心輝の眉間が寄る。


「時が来たら考えるさ……今は今のままでいい」

「んな事言ってると誰かに取られちまうぜ?」

「それならそれでいいさ、俺は彼女が幸せに成るなら何でもいい」


 勇はそう言い残し、軽く心輝の額にデコピンを食らわせると……痛がる心輝には目も暮れず、足を引きずる様に動かしながら事務室へと入っていった。




「勇殿、体の方はもうよかろうか?」


 仲間の挨拶の中で一際目立つ口調……ジョゾウの声が耳に入ると、席に座りながら彼へと苦笑を浮かべた顔を向ける。

 彼は先日共に戦っていた事もあって事情をよく知る者の一人だからこそ、その優しい言葉が無理をしている勇の胸へ妙に突き刺さった様だ


「なんとかね……ジョゾウさんももう平気なんですか? ゴゴンさんとか空島の件で色々忙しいって聞いてましたけど」

「うむ、里の賢人達にメズリとグルウの事を伝えねばならぬ故……勿論、ゴゴンの事も同様よ」

「まだ伝えてなかったんですね」

「左様……どうにも賢人達がすまぁとふぉんは慣れぬと言うでな、帰郷ついでにお目通りしようと思うてな」


 空島の一件以来、ジョゾウは休む間もなく日本とニュージーランドを何度も往復し、空島へと赴いていた。

 親友であったゴゴンの弔い、空島に残った魔者達への対応、そして空島の管理を行う為の国連軍へのサポートなど……彼がやる事は多く、未だその事案は解決していない。

 今日はたまたま本部に帰ってはいたが……カラクラの里へと帰省し一連の報告をする為の帰国であり、事が済めばまた海の向こうへ渡る予定のようだ。


「結構フライトって疲れませんか? 体にだけは気を付けてくださいね」

「ははは、左様であるな。 どうにも羽根を羽ばたかせずして空を舞うというのは違和感ばかり身纏うものよ……気遣い感謝に御座る」


 そんな話をしながらも、机に広げた荷物を纏めていくジョゾウ。

 彼等特有の腰掛け鞄へ荷物を詰めると、彼等に挨拶を交わし事務所から立ち去っていった。


 ジョゾウが去り、束の間の静けさが訪れると……彼に続く様にレンネィが勇を気遣う。


「所で貴方、まだ治っていないようだけど本当に平気なの?」

「えぇ、動く分には問題無いんで……じっとしてると詰まらない事ばかり思い浮かべちゃうだけですし」

「ジョゾウもだけど、貴方も相当なんだから無理はダメよ? なんだったら私が添い寝してあげましょうか?」

「さ、さすがにそれはちょっと……」


 勇の後頭部に心輝の視線が刺さる様に向けられる。

 男のジェラシーはみっともないものだが……そんな様子を微笑みで返すレンネィと笠本。

 共に涼しげな笑顔を浮かべているが、そんな彼女達の膝はフルフルと小刻みにと震えていた。

 笑いを堪えるので必死なのだ。




 ……きっと彼女達は心輝の心情に気付いているのだろう。




 だが、そんな彼女達にとっても予想外だったのは……茶奈の反応である。


 レンネィの言葉に彼女は一切反応せず、自身に課せられた報告書の記入に向き合っていた。

 以前の様に暴れたり、心輝の様にジェラシーを表に表すのであれば格好の餌となっていたのだろうが、ピクリとも反応を見せないのであれば弄りようもない。


 興が削がれたのか、気付けば脚の震えも消え……自然と笑みもいつも通りの小さな笑窪を作る真顔へと戻っていた。


「まぁ無理はする気は無いですよ、自分の体の事はよくわかってるつもりです。 最初は少し歩きながら体をほぐしていこうかなって」

「そ、そう……ならいいんだけど」


 手早く自身に宛てられた資料に目を通し、予定などを確認すると……勇はそっと立ち上がり事務所の外へと足を運ぶ。


「どこ行くんだ?」

「ちょっとカプロの所に行ってくる」


 そう言い残し……仲間達の視線を尻目に、勇は事務所を後にしたのだった。




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