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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十二節 「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
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~退く事それがライトアンサー~

 突然の福留の来訪。

 それは瀬玲を訪ねて……という訳では無く、ただの残暑見舞いのお届けであった。


 だが突然の来訪に対し、知らなかったとはいえ無礼な物言いをしてしまった事に両親も反省したのか……気付けば福留を呼び込み、話し合うかのように三人の前に机を挟んで座る彼の姿があった。


「勘違いとはいえ、強く当たってしまい申し訳ない……」

「あぁ~いえいえ、私こそ申し訳ありません……私の管理が行き届かなかった為にセリさんには不快な思いをさせてしまったみたいで」


 お互いが頭を下げる様子をじっと見つめる瀬玲……だがその顔は至って神妙な面持ちだ。

 

「あ、こちらつまらない物ですが……」

「これはご丁寧にどうもありがとうございます」


 思い出したかの様に残暑見舞いの入った袋を机越しに差し出されると、瀬玲の両親が様式に倣って丁寧な言葉を返し受け取る。

 先程の失敗もあり、彼等もどこか慎重な姿勢で応対に臨んでいる様だ。


「どうやらセリさん達には何かを誤解させてしまったようで……折角ですから、私の意向をお伝えしたいと思いますが……少し聞いていただけますか?」


 ゆるりとした口調で尋ねる福留を前に……その事を瀬玲自身も含め気になっていた所でもあり、三人が顔を合わせて頷き彼の言葉を聞き届ける事にした。


「ありがとうございます。 さて……セリさんの事ですが、確かに私達魔特隊としては大きな損失だと言わざるを得ません。 少なからず勇君達にとっては戦いの面のみならず、生活面においても貴女のウェイトは非常に大きかったと言えます」


 勇達が精神面でまだ完全に大人に成りきっていない事もあり、無茶をしてしまう部分が大きい。

 そこを瀬玲が冷静に受け止め彼等を宥める事……それは間違いなく勇達にとっても大きなバランサーの様な役割としては重要だったと言える。


 それは彼女が以前から変わる事無く補ってきた役割だったのだろう。


「ですが、彼等もそれをわかっていたからこそ……最近になり、ようやく冷静に考える様にもなってきました。 それは単に貴女のお陰だと言っても過言ではありません。 もしセリさんが部隊を辞めたとしても、彼等は彼等なりに考え、そして成長していくのでしょう……だからこそ、私はこう考えています―――」


 その時、福留の表情が緩やかな笑顔を浮かべ……瀬玲の瞳を見つめて言い放つ。




「セリさん……私はむしろ、貴女が戦いから退く事を喜ばしいと感じております」




 その言葉は、瀬玲達にとって予想だにしなかった一言であった。




「これが普通の会社であれば、引き留めていたかもしれません。 ですが、貴女の居た場所は漏れなく死地と言える場所……一つ間違えれば帰って来れなくなる可能性も十二分にあるでしょう」


 死の可能性を伴うからこそ……彼は常々そう思い続けて来た。

 彼女に対してだけではない。

 全ての仲間に対して、そう思い続けている。


「勇君達にはそれぞれが持つ信念や理想、様々な強い想いがあります……彼等はその心を胸に、自ら戦う事を望んであの場に立っています」


 勇が人を守りたいという信念を持ち、ちゃなはそんな彼を守りたい……思う心は人それぞれではあるが、いずれも向かう先は同じだ。


「 ……ですがセリさん……貴女は違うのでしょう? 貴女の心にはまだ迷いがある……戦いへの畏れ、そして傷付く事への恐怖……それは貴女が自ら望んで戦いへ赴いている訳ではないという事を暗に示しています」


 それは瀬玲にとって紛れもない図星の一言。

 彼女はその言葉に眉を細め、反論する事無く、そこから続くであろう一言を待つ。


「ここからは個人的なお話となりますが……私はね、セリさん……彼等の様な戦士に成る事を望む者達と貴女は別なのだろうと思うのですよ。 貴女の様に『普通で在りたい』と望む方はあの場に居るべきではないと……」


 戦いに臨む勇達と明らかな温度差を感じていた瀬玲。

 福留もまた彼女の在り方に気が付いていた様だ。


「だからこそ、大きな過ちが起きる前に……貴女がそう決断してくれた事が私にとっては何よりも嬉しい事なのです。 きっと小嶋総理はいい顔はしないと思いますがねぇ~……」


 小嶋総理の話題が出ると、ふと瀬玲の頭に彼女の怒鳴り散らす顔が思い浮かぶ。

 容易に想像出来る所は既に瀬玲にとっても彼女のイメージはそんな物なのだろう。


「……セリさん、今まで彼等と共に歩んで頂けた事を彼等に代わりお礼を述べさせて頂きます……本当にありがとうございました。 そして、お疲れさまでした」

「福留さん……」




 福留の言葉は優しく、偽りなき真っ直ぐな心を乗せた感謝の一言。


 その言葉を受けた瀬玲の顔も僅かに歪み、瞳を震わせる。

 両親もまた同様に、彼の言葉を前にただ……深く一礼し、彼の思いを受け止めた。






 相沢家との対話を済ませた福留が玄関から顔を覗かせる。

 彼を見送る為に、瀬玲や両親もまた続き外に姿を現した。


「あぁ、お見送りは必要ありませんよ。 この後園部宅にもお邪魔致しますし。 セリさんにはいつも頑張って頂いておりましたので、実は一番最初に伺わさせて頂いたのです」


 妙な気遣いをされていた事をここで初めて知った瀬玲達が思わず苦笑いを浮かべる中、福留は彼等に軽く会釈をするとそそくさとその場を後にしたのだった。




「……セリ、これでいいのよね?」

「……うん、これでいいんだよ。 福留さんと話して、なんだか吹っ切れた気がする」




 静かに自宅へと入っていく瀬玲達。

 そんな彼女の顔はどこか……満足した様な面持ちを浮かべていたのであった。




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