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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十一節 「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
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~三身揃いて、陽下の決着~

「ハァ!! ハァッ!! おのれ、下等生物如きが……!!」


 全身を焼かれ僅かに煙を立ち込めさせた羽根を奮い、メズリが空を滑空する。

 その顔は既に疲労とダメージの蓄積の様が浮かび上がっていた。


 既に地表から遠く離れ、彼女の後に遅れて地表に到達した心輝は追ってくる様子を見せていない。


 メズリはその時考える。




―――このままあの人間を殺す事なぞ容易いが……その後が問題よ……―――




 心輝との戦いで彼の力量は計れていた……それ故に戦いが続けば彼女の勝ちは必至。


 だが、その戦いを繰り広げれば彼女自身に与える影響も大きい。

 リスクを負う事は、今の彼女を取り巻く状況から得策ではないと考える。


 ここは逃げが上策……そう考えたメズリは既に空島の外へ逃げ込む様に大きく島の上へと飛び上がっていた。


 嵐スレスレを滑空し、その風を利用しての飛翔……それが彼女の考えていた島外への脱出方法。


 彼女はほくそ笑む。


 次はこの様な失態は無い、と。






 だが、それは油断だった。






―――……ィィィイインッ!!




「なっ!?」




 突如、嵐の中から一筋の閃光が迸り、メズリの片翼を貫いた。




シュバオウッ!!




「がああああッ!?」




 緋色の羽根と共に僅かな血飛沫を撒き散らし、きりもみしながら落ちていくメズリの身体。

 直撃では無かったが、確実なダメージがその身に刻まれた事を示していた。


 そんな彼女に容赦なくもう一本の閃光が嵐の中より姿を現し襲い掛かる。




ギュンッ!!




「クゥアアッ!?」


 だが、その閃光は奇しくも彼女の脇下を通り過ぎていく。


「なんだというのだあッ!?」


 傷付いた腕を動かし、バランスを取り再び滑空するメズリ。

 そんな彼女の視界のずっと先……そこに、魔剣を構え光を放つ瀬玲の姿が映りこんだ。


「奴かあああーーーーーーーッ!!」


 それに気付いたメズリは一気に急降下を掛け、瀬玲へと向けて飛び込んでいく。




 だが、それも瀬玲の読み通りであった。




 途端、再び渦の中から現れる閃光……しかしその数は先程の比では無かった。

 時間差で姿を現していく閃光……その数は15余り。


 その瞬間……メズリの顔が引きつっていく。


 波状攻撃による光の連鎖攻撃……メズリは己の力をふんだんに奮い、力の限り急旋回を行った。




 彼女を追うように残光を引く光が襲い掛かり、そのスレスレを飛び交っていく。

 僅かにメズリの身体が光の筋を躱し、次々に空へと光がアーチを描いていった。




 だが、それでは終わらない。




 躱した矢弾は遥か先で旋回し、再び波を描くかの様にメズリへと向けて飛び掛かったのだ。


「ウアアアーーーーーーー!!」


 最早必死である。


 絶えず襲い掛かる無数の閃光の槍に逃げ場を奪われたメズリは、己の力を振り絞り攻撃を回避していく。

 だが徐々にその軌道を修正し襲い掛かって来る閃光を前に、その機動力ですら追い詰められている様を見せていた。




 辛うじて第二波を躱しきったメズリ。

 疲労の顔を浮かべながらも次に来るであろう波状攻撃に警戒し体を強張らせていた。




―――……ゥォンヒュオンッ!!




 突如、耳を突く異音……メズリが「ハッ!!」とするも既に時は遅し……。




「んあああああっ!!」




 そう唸り声を上げたのはあずー。

 なんと瀬玲の矢弾に合わせ、彼女が飛び込んで来ていたのだ。


 縦の回転を利用し、油断の顔を浮かべていたメズリの背中へと鋭い斬撃が見舞われた。


「ガハァッ!? まっさっか!! 三人目だとォ!?」


 突然の伏兵にメズリが驚きを隠せない。


 知らない訳では無かった。

 ただ、存在を忘れるくらいに消耗していただけに過ぎない。




 だがそれが彼女の勝敗を大きく分けたのだろう。




 斬撃を与えた後、あずーがすぐさまに空へと舞っていく。

 そして彼女の作った軌跡の裏から再び襲い掛かる閃光の嵐。




 幾重にも重なった光がメズリを貫いた。




 致命傷になる程の一撃は無かった。

 だが、三本の直撃した矢弾が確実に彼女の動きを止める。




 ヒュウウウウンッ!!




 動きを止めたメズリに向けて、二刀を構えたあずーが飛び込んでいく。


 ……そして……




ズシャアッ!!




 その刃がメズリの両翼を刻み、その力を奪った。


「ウアアアーーー!?」


 空を飛ぶ力を失ったメズリが重力に引かれ落ちていく。




「―――……オオオオッ!!」




 その耳に聞き慣れた声が聞こえて来た時……意識を失いかけていたメズリの目が見開かれた。






 その目に映ったのは……自身へ向けて飛び込んでくる心輝の姿。




―――何故だ……何故彼奴は……!?―――




「―――ォらっしゃあああーーーーーー!!」




 心輝が両拳を合わせ振り上げ、自身の力を振り絞った渾身の一撃をメズリへと叩き込んだ。




ドッゴオオオーーー!!




 最早メズリには断末魔さえ吐く力も残っていなかった。

 自身が砕ける感覚に見舞われながら、心輝と共に勢いよく地表へと落下していく。




 そして―――




バッゴオオオーーーーーーンッ!!




 輸送機が並ぶ設営地点の近くへ落下し、大音と共に大量の砂塵が舞い上がった。

 多くの者達が見守る中、巻き上げられた砂塵が治まり……その場に落ちたモノを徐々に晒していく。


 完全に砂塵が吹き飛び……そこに現れたのは、地に伏せ動かなくなったメズリと……かろうじて立ち上がる心輝の姿。


 間も無くあずーと瀬玲も心輝の傍へと着地し……彼を気遣う様に寄り添う。


「大丈夫? お兄」

「へへ……あぁなんとかな……でももうさすがに……」

「もう……随分お疲れじゃない?」


 途端、心輝がその場にへたり込む……彼の命力は既にほぼ底を突きかけていた。




 そんな彼らの様子の一部始終を見ていた兵士達は皆……目を丸くし、固まる様に見つめていた。

 目の前で起きた戦闘……それは彼等の想像の遥か上を行く激しい戦いであったからだ。

 魔剣使いの戦いを見た事が無い彼等であればなおさらであろう。




 普通の人間から見た心輝達はまさしく超人と呼べる存在であった。




「にしても……三人でようやく王っぽいのを倒せるのかぁ~まだまだだね、アタシ達」

「しょうがないじゃない……勇や茶奈の成長がおかしいのよ」


 激闘を忘れるかの様に談笑に更け、笑いを誘い合う。

 力の殆ど残っていない心輝も、息も絶え絶えながら笑みを零していた。






「ガアアアアアアア!!」






 その瞬間、突然メズリが飛び上がる様に起き上がり、彼等の動揺を買う。




ギュンッ―――






ドォーーーーーーーーーンッ!!




 「ギャバッ!?」


 突然、轟音と共に何かが落ち……起き上がったメズリの体を押し潰した。


 悲鳴とも、断末魔とも、ただの空気の漏れた音とも取れる声を上げ、ぐしゃりと潰れるメズリの体。

 既にその原型は留めておらず、赤い血が滲み出るのみ。




 メズリを押し潰したのは……剣聖の巨体。




「おう、おめぇら随分面白そうな事してたじゃねぇか」

「け、剣聖さん……見てたんですか?」


 三人も剣聖の突然の登場に驚き目を丸くするばかり。

 

「たりめぇだ……だが面白かったぜぇ、随分成長したじゃあねぇか。 こいつぁあの(ガキ)ですら手を焼く位の実力者だぜ?」


 三人掛かりとはいえ……勇ですら苦戦するであろう相手を倒せた事に、彼等は喜びを禁じ得ない様子を見せていた。


「へ、へへ……やったぜ……剣聖さんに褒められた……」

「馬鹿野郎……苦戦してるくらいじゃまだまだって事くらいわかりやぁがれ」

「うへぇ……剣聖さん手厳しー」


 再び和気藹々とした空気を取り戻した心輝達……激戦を終え、彼等の役目はしっかり果たされた。

 後は勇達が救出した乗客乗員達と、茶奈と研究員達が戻れば全てが解決する。


 その考えが脳裏によぎり、彼等を笑顔にしていた。






 だが、その島の奥底で……何かが蠢いている事に気付く者はまだ誰も居ない……。




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