~昂り見せて、雌雄相まみえる~
「シンさん、私がやります!!」
「ダメだ茶奈ちゃん……コイツぁ俺がやる……!!」
「今はそんな……」
いつもの様なはやる気持ちからの一言だと茶奈は直感した。
だが、心輝は振り向く事無く……唸る様に声を上げる。
「ちげぇんだよ茶奈ちゃん……悪いが俺にゃ命力の盾は使えねぇ……護衛は難しいんだ。 だからよォ……!!」
バオゥッ!!
途端、構えられた両腕のグワイヴから炎が噴き出し、彼の感情をも噴き出さんばかりに光を輝かせていた。
「俺がここを引き受ける……だから茶奈ちゃんは三人を連れて外へ逃げてくれッ!!」
胸元でクロスする様に構えられた両腕に力が籠り、命力が昂っていく。
もはや彼の心は決まっていた。
「……わかりました、絶対に死なないで下さい!!」
「おうよ!!」
精一杯の一言を心輝に掛けると……茶奈は研究員達を連れ、自分達が来た道へ引き返し走り去っていった。
「フフ……成程、自分自身を盾としたか、面白いな貴公……なれば」
ビュオウッ!!
突然、メズリの体が片足を軸に一回転した。
途端空気の流れが「ビュオッ」という音と共に生まれ、心輝の髪を煽る。
すると……彼女の背後に居た魔者二人の首がごろりともたげ転げ落ち、同時に体もが力無く崩れ倒れこんだ。
「て、てめ……!?」
「ンフフ……こやつらは仲間ではない……ただの駒に過ぎぬ。 目的を成すが為の使い捨てのな」
だが、メズリに対し心輝が戸惑ったのは……躊躇なく自分の味方を殺した事ではない。
彼女の動きが殆ど見えなかったのだ。
一瞬の事で、何が起きたのか理解に時間が掛かった様だ。
「しかし好都合である……一対一でかつこれ程の自由の戦い……わらわにとってこれ以上に無い展開よ」
トォーンッ!!
突き出されたその右足が床を突き、高い音を跳ね上げた。
その足に輝くのは、二足のブーツ……光り輝く命力珠……それは脚甲型の魔剣。
「魔剣【イェステヴ】である……刮目せよ、カラクラが一族の一端に伝わる脚技を……かつて天と地共に愛されし我が一族、其が脚こそが究極の武器と知れ!!」
メズリの言葉と共に昂っていく彼女の命力。
とめどなく溢れる力を前に、心輝は脅えるどころか……「ニィ」と大きな笑みを浮かべていた。
「好都合ってならよぉ……そいつぁ俺にとっても一緒なんだぜ……!!」
突如グワイヴから激しい炎が噴き出し、周囲のガラクタを無造作に吹き飛ばした。
「ホーゥ……その魔剣、見た事あるぞ……確かグワイヴとか言うたか。 じゃが知っている形状といささか異なるのう」
「へへ……俺の為に生まれ変わったってェ奴よ!!」
腰を下げ、両腕を腰に構える。
「誰かが居る所じゃあ……オチオチ本気なんか出してらんねぇからなぁ……!!」
その瞬間、心輝の心がこれまでに無い程に昂りを見せた。
「ウオオオォォォーーーーー!!」
「ホゥ!?」
グワイヴに備え付けられた命力珠が強く光を放ち、幾多もの光の筋が周囲にまき散らされていく。
そこに形成されたのは……まるで光の爪。
「【グワイヴ・ヴァルトレンジ】だ……!! テメェこそ刮目しな……―――」
キィィィーーーーンッ!!
「―――昂るゼェ!! 俺ッ!!」
心輝が力強い構えを見せ、その力を誇示する。
その一部始終を目に収めたメズリもまた、狂気じみた万遍の笑みを浮かべ、その脚を深く構えた。
「なればわらわが……その昂りを鎮めてしんぜようぞ!!」
二人の猛者が今、激突の時を迎えようとしていた。




