~己を呪いて、かの者達~
「―――……以上に御座る」
「ジョゾウさん、ありがとうございます」
多くの人々がその言葉に聞き入り、声を殺す中……ジョゾウがオブジェクトから指を離す。
「人間にも、隠れ里みたいな事をする人達が居たんだな」
「その様であるな……誰しも、泰平を望むのは一緒なのであろう」
「えぇ……でもこの島にこんな秘密があったなんて……この島そのものが魔剣……」
「しかも人間が造りし魔剣よ……これは大変な事に御座る」
その時、ふと再び周囲を伺う。
楕円形の物体に収められたミイラ、それは恐らくこの映像を遺した者達の遺骸。
「推測であるが、恐らくここに居た者達は全員……この島に命力を吸われ息絶えたのであろう。 魔剣が命力を望むのと同様に、この島が生きる為には命力を必要とするのかもしれん」
そっとミイラと化した古代人を眺め、目を細める。
彼等が何故そこまでしてこの島を生かそうとしたのかが勇には理解出来なかった。
「だからって自分達の命を犠牲にしてまでやる事じゃないんじゃないか……」
「勇殿……これは彼等が己に課した『呪い』に御座る……この島を造り未来に馳せたのは、その禍根を先に居る我々に残さない為……彼等はその為に自らを犠牲にしたのだ。 あっぱれな者達であろう……敬意を表さずにはおられぬ」
「ウンウン」と頷き感慨深い顔を向けるジョゾウ。
「さて勇殿、寄り道が過ぎ申した……乗客乗員を送り届けねば!!」
「そうですね、それじゃあ入口まで皆を連れて行こう」
ジョゾウが我先にと飛び出し、自分達が入って来た道へと駆け出し叫ぶ。
「皆の者、拙僧に付いて参れ!!」
彼に誘われるがまま、全員が揃った乗客乗員が彼の後を追う様に続き部屋から立ち去っていく。
人影がまばらになっていくと……後を守る為に残る勇に機長がそっと声を掛けた。
「すいません、今の話は我々が聞いてても問題無かったのでしょうか……?」
引け目を感じているのだろう……言うなれば機密にも近いと思われる様な内容であった。
機密等に触れる事が多い機長という存在だからこそ、それを聞いてしまった彼はそこに心配を隠せない様を見せる。
「あ、えっと……多分口外は禁じられると思いますが、罰せられる事は無い……と思います」
「はぁ、そうですか……そういえば貴方、結構若い顔付きしてますよね……本当に軍人さん?」
そんな言葉を聞くと勇もさすがに困った顔を浮かばせる。
彼は自分が童顔である事にコンプレックスを持っていた経歴もあり、自分の顔に関する話題は苦手だ。
「に、日本人は皆こんな顔なんです」
「あぁ、成程……理解しました。 流ちょうな自国語で話されたので同郷かと」
「ハハ……」と勇が笑い誤魔化す。
翻訳能力は結構な役割を果たしていた様だ。
「一応念の為に、帰りの道で国連の方々から説明されると思いますのでしっかり耳に入れておいてください」
いつの間にか彼等だけとなった部屋……機長がそれを聞き届けると、二人は共に駆け出し部屋を後にした。
「皆、人質は全員救出した。 これから入口に向かう」
インカムに向けて声を送り、仲間達に乗客乗員の無事を伝える。
すると間もなく聞こえて来る仲間の声。
『わかったわ。 こっちもまばらに魔者が出てきてるけど、問題無いと思う』
『んじゃアタシは剣聖さんと一緒に戻るねぇ』
だが、肝心の別動隊である茶奈と心輝からの返事が戻ってこない。
「茶奈、シン、聞こえているか?」
だが返事は一向に返ってこず、仲間達の心配が募る。
『おうクソガキ、その質問の回答を教えてやるぜ』
途端聞こえて来る剣聖の声……先程と同じ「島内放送」を使った反響のある音声が勇達の耳に入って来た。
だが伝えられた言葉は―――
『どうやら二人はちょいとやべぇ事になってるみたいだぜぇ』
勇の心配が現実味を帯びる。
大勢と共に通路を走っていく勇達……その面持ちは既に険しい顔付きへと変わっていた。
別所……とある大部屋。
そこの中央で魔剣を構える心輝、そして壁際で研究員達を守る様に命力の壁を張る茶奈の姿があった。
彼等の前に立ち塞がるのは……緋色の翼を持ちし魁将メズリ。
緊張が張り詰め、場を支配する。
最早戦いは避けられない……そう予感させた。




