~古人語りて、悠久の時~
球形に造られた大部屋。
その部屋の風貌は剣聖が居た部屋と同じであるが、異様さだけが異なる。
だが初見の勇達にしてみればその異様さは不気味さすら感じ取れる程であった。
「なんだこれ……」
すると機長が勇の横を通り、楕円の物体へと近づいていく。
そしてまるで「これを見てくれ」と言わんばかりに指を差し勇を誘った。
彼に誘われるがままそっと近づくと……そこに映った光景に勇は驚きの顔を浮かべる。
「これは……!?」
「副機長です……あの怪物達に詰め込まれたのです」
表面に透明のカバーが施され、その先に見えるのは人の顔。
楕円形の物体は人を収納する物だったのだ。
そして周囲を見渡すと、幾つもの物体の中に人影がちらりと見え隠れしていた。
詰め込まれた者はいずれも意識が無いようで……微動だにする事さえ無い。
「これは一体何なんだ……これは出せるのか? ジョゾウさんちょっと来て下さい!!」
勇の声に反応しジョゾウが駆け寄る。
「ジョゾウさん、これの中の人を出す方法はわかりますか?」
「ウゥム……やってみねばわからぬがやってみよう」
そっと楕円形の物体へ手を伸ばし、その周囲をまさぐる。
ボタンの様なモノも見つからないが……ジョゾウには何やらわかるのだろうか、調べていくにつれその体を動かしていく。
そして不意にジョゾウが声を上げた。
「在り申した、これに御座る」
そこにあったのは、楕円形の物体に刻まれた古代語の紋様の一つ……そこにゆっくりと指を触れると「ヒュオオン……」という音と共に楕円形の物体が動き、その体が真っ二つに分かれ開かれた。
シュオオオオ……
内部の妙な気体が漏れ、外気に混ざっていく。
すると、副機長と呼ばれた男がゆっくり目を覚まし、寝ぼけた様な顔付を見せた。
「あれ……機長、私は……」
「無事で良かった……我々は助かるぞ!!」
そんなやり取りをしていると、待っていた人々の内の数人が飛び出す様に走り……自分達の大切な人であろう者が収納された物体へと近寄っていった。
「開け方を教えてくれ!!」
「こっちも!!」
「右側にある紋様の中央に四角い場所があろう、そこを押すのだ!!」
ジョゾウに伝えられるがままに物体をまさぐり、紋様を見つけては押していく……すると他の物体も同様に開き、中から人の姿が次々と現れ始めた。
「良かった!!」
「もう会えないかと……」
人々が安堵の顔を浮かべ、閉じ込められていた者達の安否を気遣う。
他にも閉じ込められていた者達が居るようで……勇達も散策を始めた。
だが、おもむろに近くにあった別の楕円形の物体の中をそっと覗くと……その中に映るのは干からびた人の姿。
「うっ!?」
それだけではなく、他の大部分の物体の中にはミイラと化した遺体が仕舞われており、勇達の動揺を買う。
「これは一体……なんでこんな所に閉じ込める必要があったんだ」
「恐らく……これを調べればわかろうな」
勇の声に反応したジョゾウがそう声を上げながら、中央にあるオブジェクトへ向けて足を運ぶ。
そこに見える金属の塊……それが一体何なのか、勇には想像すら付かなかった。
だがジョゾウは何やらわかる様で……そっとその手をオブジェクトへ触れさせると、途端にその上にある無数の光の粒が形作っていった。
「ここまでハッキリ生きた遺跡に触れるのは初めてに御座る……どれ、この島の秘密が何かを探ってみせよう」
不慣れな指使いでオブジェクトの頭頂部に触れ続けると、頭上の光の粒が集まり映像を映し始めた。
そして部屋一杯に聞こえて来る謎の言語……。
「これって、『あちら側』の言語?」
「左様、しかも相当古い言語に御座る……拙僧が翻訳をしてみせよう」
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かつて、戦争があった。
それは星全体を巻き込み、憎しみと恨みと妬みが渦巻く戦争。
人間と魔者が争い、互いの感情をぶつけ、殺し合った。
そして天士達は……世界を捨てた。
残ったのは、負の感情だけが支配する世界……そして世界を別った張本人、創世の女神と呼ばれし一人の天士。
多くの者達が苦しみ、息絶えた。
もはや世界はどちらかが滅ぶまで止まらないのだろうか。
我々は考えた。
この憎しみも、恨みも、妬みも、断たねばならない。
この世界を救えぬのであれば、我々だけはそうであってはいけない、そう考えた。
我々は天士の技術を独自に研究し、遂にこの『アルクルフェンの箱』を造り上げた。
我々はこの魔剣『アルクルフェンの箱』に乗り、世界と断絶した。
かつて創世の女神が示唆した、百億の時の彼方の果てに、世界の終わりと始まりが訪れる時……。
世界の終わりと始まり、フララジカ……。
我々はそれに対抗する為に、この島に力を収める事にする。
いつか世界が昔の様に皆が助け合う美しい世界へと戻る事を信じ、我々はこれを遺そう。
願わくば、悠久の果てにこの地に訪れし者が……我々と同じ、争いの無い世界を欲する者であらんことを。
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