~全て乗せて、悪意の思惑~
「くぅおおーーーーーーッ!!」
狭い通路を駆け抜け、勇が咆える。
幾人もの魔者達が絶えず襲い掛かってきていたのだ。
それを迎撃するために……力を奮い、四角い通路の中を縦横無尽に跳ねていく。
光の筋が無軌道を描き、襲い掛かる魔者達を次々と蹴散らしていった。
いずれも斬撃では無く、剣の腹や魔甲で叩いていく不殺のスタイル。
ジョゾウの友人がこの中にまだ居るかもしれない……そう思ったが故の最大限の配慮。
もっとも、それは彼が元々持つ戦闘に対する姿勢なのではあるが。
すると次第に、襲い掛かってくる魔者の数が減り……そして遂に襲撃が途切れた。
「これで終わりか……」
軽く振り返り、倒れた魔者達を見る。
その姿形はいずれも多種多様な者達……明らかにカラクラ族だけではなかった。
―――色んな魔者の種族が混在している……これは一体どういう事なんだ?―――
周囲に警戒をしつつも思慮を張り巡らせる。
気絶した魔者達を見るも、共通点などわかるはずも無い程にバラバラだ。
殆どの魔者が見た事の無い種族ばかり。
時折カラクラ族であろう者や以前出会った種族の様相を持った者もちらりと覗く。
恐らく先程ゴゴンが言っていた『謎の男』がその理由を知っている……勇はそう予感せずにはいられなかった。
「勇殿~!!」
突然通路に響く低い声……するとジョゾウが来た道からひょっこりと姿を現した。
「ジョゾウさん……もういいんですか?」
ジョゾウはその問いに頷き、倒れた魔者達を避けながら勇へと歩み寄っていく。
「心配をお掛け申した……ゴゴンを弔うのは後でも問題は御座らぬ……今は生きる者達が為に動く事こそ先決ぞ」
勇の前に辿り着いたジョゾウは、自身を取り巻く状況に彼同様の気持ちを露わにしていた。
多種族の混在した状況……ジョゾウはそれに違和感すら覚える。
「確かに、人間という共通の敵がおるが故に共闘する魔者達も少なく無かろう……だがこの状況、余りにも不可解よ……」
「やっぱりそう思いますか……例の『男』とかいう奴が手引きしてるのでしょうか」
「それしか考えられぬ……そしてもう一つ、ここで疑問に思った事が御座る」
その顔はいつもの様なひょうひょうとした雰囲気は見られず、深く重い感情を込めた表情であった。
「それは獅堂が持っていた魔剣に関してで御座る。 勇殿の話では、彼奴は魔剣を譲り受けたと教えて頂き申したが……では一体誰に渡されたのであろうか? 何故彼奴はその力を得てカラクラの王と成ろうと思い立ったのか」
勇達と同じ時期に魔剣を手に入れた獅堂が勇達以上に魔者の事情に詳しかった事。
それは言われてみれば確かに不思議であろう。
だとすれば彼にその情報を受け渡した者が居る……そう考えるのが妥当だ。
「そして離反した者達はどこへ消えたのであろうか?」
ロゴウと戦った時、その場に居たのは精々5、6人程度だった。
仮に影に非戦闘員が居たとしても10人程度だろう。
だが、かつて獅堂との決戦の折……カラクラの里を守る者達は言う程多くは無かった。
それはその時点で既に半数が里から離れていたからだ。
「ここに倒れた者達を見て今思うたわ……彼等は決して離れた地で安寧を過ごしていた訳ではない、かようにして人間に反旗を翻そうとしていたのではないか、とな。 その男が賢人二人に吹聴し、この様に協力させた……そう考えれば妥当であろう」
「つまり、その男は魔者達を集めて何かをしようとしている……そしてここにも連れて来た……そういう事ですか?」
「左様……そうでなくてはゴゴンや二人の賢人がここに居る事が説明出来ぬわ」
そしてそれは、今までの出来事の幾つかに……『人の悪意』が滲ませている事を予感させていた。
その悪意が何をもたらすのか……その恐ろしさは勇が一番身に染みて理解している。
それこそが、勇が最も憎み、畏れるモノ。
「……もしそうなのだとしたら、俺達はその根源を断たなければいけない。 かつて起きた惨劇を……もう二度と繰り返すわけにはいかない……!!」
「うむ!!」
まだ、その悪意の根源であろう謎の男の正体はわからない。
だが……「それが居る」……それがわかった事こそが彼等にとっては大きな前進であった。
「ゴゴンさんがもたらしてくれた可能性は、俺達が繋いで成し遂げましょう」
互いが頷き合い、前を見据える。
想いも、願いも、全てを乗せて。




