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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十一節 「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
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~舞い跳ねて、白刃の二翼~

 勇の指示を受け、あずーが島外部の探索を開始した。

 土肌と岩肌、時々散見される木々や草木が彼女の視線を誘う。

 自然とは思えない場所に生い茂る自然の姿に、ミスマッチながらも妙な好奇心をそそり彼女の心を躍らせていた。


「緊急時じゃなかったら旅行で来てみたいくらいなんだけどな~」


 そう呟きながら島の坂面を駆け登り、それらしい場所を探す……だが小さな穴は散見されるが肝心の別の入り口らしき空洞は見つからない。

 凹凸の多い岩肌が視界を遮る為、簡単に見つかりそうには無かった。


「これ、一旦上まで登った方がわかりやすそ……」


 空に向けて反り返る様な岩肌を無数に晒す空島は、地上から眺めてもわかり難そうな形状を有しており、あたかも人為的な策略をひしひしと感じさせるようであった。

 少なくとも自然界でこの様な、重力に逆らい空を飛ぶ物体は存在しえないのだから。


 魔者の姿すら見えず……島の外周で絶え間なく吹き荒れる風が島にも届き、寂しい風切り音を運ぶ。




 彼女が見据えるのは坂の先……徐々にその勾配は上がり、壁とも言える坂がそびえ立つ。




「んー……登っていこうかな~」


 あずーの機動力は折り紙付き……魔剣の強化でその力も格段に上がっている。

 彼女自身にもエスカルオールの力が流れ込み、その力を自然と理解していた。 


「よしっ、行ってみようっ!!」


 気合いを篭め、魔剣を掴む両手を正面に突き出す。

 途端、エスカルオール刀身の背面から強力な風が吹き出し、その力を解放した。




ドォーーーーーーン!!





「うっひゃああああーーーーー!!」


 今までに無い程の強い力が吹き出し、彼女の体を高速で空高く舞い上がらせた。


 だが不思議と安心感がある……吸い付く様に握られた二本の魔剣が彼女の体を引き寄せるかの如く一体感を感じさせていたからだ。




 強力な風はまるで彼女を空に舞わせるよう……優雅に空を駆ける彼女にはまるで翼が生えている様であった。




 それが進化したエスカルオール……【エスカルオール・アルイェン】の力。

 空気の流れを読み、力の使い方を感じさせるこの魔剣は、使用者の意識を拡張させる能力を誇るのだ。

 自身のセンスを強化する魔剣……それが【先見力(アルイェン)】。




 外側の暴風に引き込まれぬよう気を付けつつ、逆立った岩肌を見下ろす様に眺めていると……比較的大きめ穴を見つけ、そこへ繋がる平地へと滑空しながら降りていく。

 意気揚々と着地し、勢いのまま中へと進入したあずーであったが……どうやら外れだった様で、座った目を浮かべながら穴から出て来る彼女の姿があった。


「うーん!! 惜しい!!」


 何を以って惜しいのかは理解に苦しむものであるが……そんな彼女はへこたれず、再び壁とも言える岩肌へ向けて飛び上がった。


「しゅたたたたっ!!」


 エスカルオールの機動力をふんだんに利用し……今度は壁を駆け登る忍者が如き様相を見せながら、あずーが壁を駆け登っていく。

 そして壁を蹴り上げ高く舞った先に在ったのは別の穴。


「おお~見つけた見つけたぁ」


 空中で一回転し……器用に「ストン」と着地すると……大きな穴をそっと見上げる。




 それは陣取った平地に在った空洞よりも断然大きな入口……見上げないと見えない程に高い天井が彼女の驚きの声を誘う。




「ふわぁ~ここ凄いなぁ……本命なんじゃないかなぁって思っちゃう」


 入り口前の平地こそ小さいものの……ぽっかりと開いた穴が日の光を受け入れる様に空いているが、その奥は深く暗闇に染まっていた。

 そんな様子を浮かべる大穴は、明るいはずの彼女の顔に僅かに影を落とし緊張を走らせる。


 ペンライトを片手に大穴へと足を踏み入れていくと、ライトの光が暗闇を裂き、周囲を照らす。

 内部に至っては最初の入り口同様、岩肌に囲まれた様相を見せ、時折こうもりの様な小さな生物が外へと飛び去っていくのが見えた。




バサササッ……




「ひえっ……こわこわ……」


 さしもの彼女も怖い物は怖い……突然の羽音にピクリと脅えを見せて震える。

 

 脅えた表情を浮かべながらも、ライトをしきりに正面に向け外周を見渡す。

 だが途端、奥が岩肌の壁を映し……その周囲を探る様に光を当てるが、一向に岩肌以外何も見つからない。


「えー……ここまで仰々しいのに何も無いとか~……」


 拍子抜けのあずー……もっとも、何も起きない事に越した事は無い訳であるが。


 とぼとぼと大穴から出て来ると……再び次の目標を見据え、周囲を伺う。


 外側を吹き荒れる嵐が内部に僅かな風を送り、彼女の髪を靡かせる。

 その風は僅かに……煽る強さを増している様にも感じていた。




 再び空へ舞い上がり、勢いのままにその頂点へと向かって行く。

 あっという間に彼女の体が島の頂点を越え、太陽の日差しに照らされると……地表に彼女の影が映り込んでいた。




ザザザッ……!!




 島の頂へと着地し……ゆっくりと歩きながら周囲を見渡す。

 島を一望出来るその場所は、彼女の冒険心を何かとくすぐる様だった。


「んほほっ!! すっごいコレェ!!」


 最早観光気分の彼女……日の光を遮る為におでこに手を充て視界に影を作る。


 そのままぐるりと見渡すと……外界こそ見えないが、現代には有り得ないありのままの不思議な世界が彼女の周りを形作っているのだ。

 驚きに声が漏れるのもいざ仕方の無い事であろう。




 周囲を眺め、その一つ一つを視界に収める。

 ついでにスマートフォンで写真も収める。

 当然の如く激写だ……不幸な事に、圏外であるが故にSNSには載せられない。

 最も……任務内で撮った写真を載せる事は禁じられているのでやりようも無いが。




 任務など忘れ、感動の余韻に浸っていると……ふと彼女の視界に一つの違和感が映りこんだ。




「ん……なんだろあれ」


 それは先程剣聖が開けた穴。


 隆起した周囲の岩肌を登り穴の中を覗くが……島内部へと続く縦穴として開けられたその穴は、太陽の下にあるにも拘らず底が見えない。


「うわぁ……凄い『今さっき開けたばっかり』感……」


 今なお、穴に向けて砂や破片が時折崩れ落ちていく、そんな様子が彼女に予感させる……『これは剣聖が開けた穴なんだろうなぁ』と。


 おもむろに耳に指を伸ばしインカムへと指を掛ける。


「もしもし勇君~? 今平気~?」


 まるで電話を掛ける様に通話を始めるが、一向に返事が返ってこない。

 何を思ったのか、「ぷぅ~」と頬を膨らませると……その体をクネクネと揺らせ、ゆっくりと「はぁ~……」と悦な吐息を漏らしながらぼそり。




「んー……勇君、あ い し て るぅ~」




『あず……!! 今ッ!! 戦闘中ッ!!』


 まるで呆れた様な声色で勇からの返事が返ってくる。


 絶え間なく聞こえる剣の奮う音……彼は現在魔者の襲撃を受けていた。

 恐らくゴゴンの襲撃が皮切りとなり、内部に潜んでいた魔者達が攻撃を開始したのだろう。


 だがそんな事情を前にも拘わらず、構って貰えない苛立ちから更に彼女の頬が膨れ上がっていた。


「勇君、剣聖さんの跡追うからねー」


 不機嫌から出る低い声を唸る様に放つと……返事を待つ事無く穴へと飛び込んだのであった。




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