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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十一節 「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
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~胸に抱きて、友の記憶~

 見開くジョゾウの目……その瞳に映るのは彼にとってとても信じられぬ人物であった。




「お、お主は……ゴゴンではないかあ……ッ!!」




 勇を襲おうとしていた者……それはなんと、かつてのジョゾウの友人だったのだ。


「ゴゴンッ!! な、何故だぁ!? 何故お主がぁ!?」

「ガハッ……ウゥ……その声まさかジョゾウか……かような所でお前に出会えるなど……」


 倒れたゴゴンの傍へ飛び込む様にジョゾウが駆け寄る。

 既に彼の息は荒げ、その命は風前の灯火とも思える程に弱りきっていた。


 空かさずジョゾウが彼の体を抱え、自身の命力を彼に送り……その命を生かそうと試みる。


「待っておれゴゴン、今助けようぞ!!」

「ウゥ……何故だ、何故裏切り者の俺を助ける……」


 裏切り者と自身を呼ぶゴゴンという男、彼はかつてジョゾウと共に励む若者であった。

 しかし、かつての獅堂の一件により多くのカラクラ族の者達が里から離れた……彼もまたその一人であったのだ。


 だがそんな事に構う事無くジョゾウはなお彼に命力を送り続ける。

 ところが……治るどころか一向に体の温度が失われていくのがわかり、彼の焦りを買う。


「里を裏切ろうがどうであろうが……ゴゴン、お主が友人である事には何ら変わらぬ!!」

「ジョゾウ……」


 必死に訴え声を張り上げるジョゾウ……無駄だと悟ってしまっているからこそ、その瞳が僅かに潤いを浮かべていた。


「……そうか……こんな俺でも、まだ友と呼んでくれるか……俺を……ウゥウ!!」

「ゴゴンッ!?」

「ハァ……ハァ……なればジョゾウ……人間を選んだお前に伝えねばならぬ事がある……賢人を止めよ……彼等は最早止まらぬ……」

「どういうことよ!?」


 その言葉に大きくジョゾウが反応し声を荒げた。


 彼の言う「賢人」とはカラクラの里を担う王成らぬ王達の事を指す。

 カラクラの里では代々6人の賢人が王を支え、その繁栄を培ってきた。

 だが、かの旧王ロゴウの反乱に乗じ……六賢人の内の二人が同様にカラクラの里を去ったのだ。 


「彼等はとある者に教えられ……盲進を続けておる……それが世界の為だと言ってはばからぬ……!!」

「ある者……!?」

「そうだ……正体は知らぬ……だが、その『男』は言うたのだと……世界を救う為には、人間か魔者を滅ぼさねばならぬと言うたのだと……!!」

「なんと!?」

「ここに二人が共におる……智将(ちしょう)グルウと魁将(かいしょう)メズリを止めよ……さもなくば……お前達の未来は……無い……ウゥ!!」


 既に虫の息であろうその体を振り絞り訴えるゴゴンの痛々しい姿に……ジョゾウのみならず勇すら静かに佇みながら歯を食いしばっていた。


「ウゥウ……ああ……ジョゾウ……楽しかった……あの頃は……思い出す、今でも……」

「うむ……うむ……」


 ゴゴンの焦点の合わなくなっていく目から涙が零れ、目やにに塗れた目元の毛へと染み込んでいく……。


「俺は……お前と……友達で……よか……」


 そして、ジョゾウが抱く彼の体から力がスゥーっと抜け落ち……だらりと横たわった。

 そんな彼を抱くジョゾウの体が僅かに震え声を殺す。


 居た堪れなくなった勇はそっと、そんなジョゾウへと声を掛けた。


「……ジョゾウさん、俺は先に行きます。 彼を労ってあげてください……」


 そう言い残し、勇はその場を立ち去っていった。

 それが勇に出来る精一杯の彼への心遣いだったのだろう。

 今にも泣きそうな程に体を震わせる彼の……男の涙を辱めない為に。


「ゴゴン……お主は最後まで勇敢であった……すまぬ……誠にすまぬ……」




ウオアァァァアーーーーーーッ!!




―――

――


 かつて、ゴゴンは拙僧と共に戦士の道を歩む者の一人であった。


 幼き頃から多くの友人達と共に競い、助け合い、高め合ったものよ。


 しかしゴゴンは決して武には長けてはおらんかった。


 それ故に、ゴゴンと拙僧との間はどんどんと差が開いていくばかり。


 拙僧は力を付け、カラクラ精鋭七人衆の長にまで登り詰めた。


 そんな拙僧を、ゴゴンは祝福し、称えてくれた。


 多くの者達がひがみ、ねたむ中……拙僧を咎める事は決して無かったのだ。


 そんなある日……ゴゴンが身を寄せし智将率いる一派が里からの離反を決めた。


 最後のその日、ゴゴンは別れを伝える事も無く里を去ったのだ。


 伝えたい事は多く在りもうした。


 しかし、それも伝える事無く……彼は空へと還ったのだ。


――

―――




「ゴゴンよ、今は静かに眠れ……」


 友を斬った事……それはジョゾウの心に強く闇を落とす。


 だが、彼の心は最早変わらない。


 守らねばならぬ世界がある。

 守りたい者が居る。

 そして、共に戦いたい者が居る。




 例えかつての友を斬ろうとも……前に進まねばならない、そう思ったから。

 



 そして友は言った……「賢人達を止めろ」と。

 それは彼が出来る精一杯のジョゾウへの後押し……。


 その言葉があったからこそ、紫電の翼は立ち上がり……未来を見つめるのだ。




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