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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十四節 「新たな道 時を越え 心を越えて」
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~新たなる力と新たなる方向性~

 夏休みが訪れ、それすらも間も無く終わりそうになる頃……。

 勇達は福留に付き添われ、とある場所へ来ていた。


 それは剣聖が療養している病院。

 あれから4ヶ月……剣聖が獅堂から受けた傷がようやく安定して傷が塞がり始めた為、僅かではあるが彼との会話が可能になったとの事だった。

 剣聖の無事を祈っていた勇達にとってそれは朗報であり、福留から声が掛かった際には総じて喜びの声を上げていたものだ。


 だが彼等が剣聖の居る病室に着き彼の姿を見るや否や……その口は閉じる事となる。


 広々とした白が広がる一室。

 窓の麓に置かれたベッドの上に仰向けに寝る剣聖……以前の様な筋骨隆々という筋肉質で力強かった体は成りを細め、その力の衰えを表していた。

 とは言うものの、一般人と比べればそれでも遥かに大きいが。


「剣聖さん、お久しぶりです」


 部屋に踏み入りながら勇が声を掛けると、剣聖は顔を向ける事無く「おう」と小さな声で迎える。

 恐らく彼等が部屋に来る前から気付いていたのだろう……訪れる前からその口元を緩ませていたのは誰も知らぬ事である。


 勇に続いて茶奈達も病室に入ると、その居た堪れない姿に全員が声を出す事すら忘れてしまう。

 剣聖はそんな勇達の気持ちを汲んだのか、力無い声で彼等に話し掛けた。


「あんま気にすんなや……もうじき元通りになる」


 力無くとも心強い一言。

 それが安堵感を呼び込み勇達の緊張が解れ、微笑みを浮かべる。


「そうですか……心臓、治りそうですか?」

「問題ねぇ、後1,2ヶ月くらいすりゃ……歩けるようにはなるだろうよ」

「良かった……」


 彼の弱っていく姿を一番長く見ていた茶奈にとって、その答えは何よりも安心出来る一言だった。


 自分の分け与えた力が命を繋げたという事実は自信にも繋がる。

 仮に無理をして言った事でも……彼女にとってその結果はプラスになるだろう。

 そう答えた剣聖の意図がそこにあるのかもしれない。


「ほんと剣聖さんって凄いよね……心臓治しちゃうとか普通じゃないでしょ」


 瀬玲の誉め言葉に近い感想に、剣聖がニヤニヤと歯を見せたいじらしい笑顔を見せつける。

 いつもの様な荒々しい声が出ない所は……割と無理をしている風に見えなくも無いが。


「そいやどうだお前等……ちったぁ強くなったのかよ?」


 突然の剣聖の質問に勇達はお互いの顔を見て少し考えるが……そんな中、心輝が突然皆の前に飛び出す様に躍り出て答える。


「当然ッスよぉ、あれからどんだけ経ったと思ってるんスかぁ!! もうあれよ、簡単な魔剣じゃ満足出来ないっつか……」

「ほぉ……言うじゃねぇかガキ共が」


 実の所、心輝の言う事も専ら嘘ではない。

 心輝やあずーの命力は日に日に高い水準で成長しており、命力量に関して言えば既に勇を超えている。

 瀬玲も彼等程では無いが成長し、勇に匹敵する命力量を有しているのだ。

 そんな彼等の力は既にテスト用で作られた簡易的な魔剣ではもはや許容出来なくなっていた。


「あー……じゃあよ……オイ、そこの鞄取ってくれや」


 ふと剣聖が左腕をゆるりと動かし、壁の端に置いてあった剣聖のバックバックを指し示す。

 それに気付いた勇は、彼の言う通りバックパックへと歩み寄った。


 いつだかは持ち上げるどころか、動かす事すらままならなかった極重の巨大バックパック。

 それを目前に、思わず勇が唾を飲む。


 全身に命力を伝わせ、筋肉を「ミシリ」と引き締まらせる。

 そしてその鞄の両端をガシリと掴むと……ずしりと重みを感じさせながら超重量のバックパックがゆっくりと持ち上がった。


 床が僅かに軋むような感覚も受けるが、大丈夫だろうと踏んだ勇はゆっくりとそのバックパックを抱えながら剣聖の前まで持っていく。

 茶奈達がその様子を食い入る様に見つめる中、勇は何食わぬ顔で剣聖の寝るベッドの前にそのバックパックを階下に響かせぬ様にそっと降ろした。


 思えば成長したものだ……たった一年でこれ程までに強くなったのだから。

 才能は無くとも、その伸び代は剣聖が関心を寄せる程に速いと言える。

 だが勇はその事実を知らない……知らない方が良い事もあるのだ。

 がむしゃらに強さを求める方が効率が良い事もある……そう知っていたからこそ、彼は深くは語らなかった。


「おう、すまねぇな……よっこいせ……」


 剣聖はおもむろにその体を起こしバックパックへ手を伸ばす。

 周りの心配など構う事無く動きを見せる彼に、動揺する声すら上がっていた。


「あっ、剣聖さん体に悪いですよ……」

「平気だぁよ……こんくらい」


 茶奈の心配する言葉に構う事も無く、剣聖はバックパックの中を探り始める。

 そして何かを見つけると……「ガラガラ」と金属音を掻き鳴らしながらそれを取り出した。


「あ、それは……」


 剣聖の手に掴まれていたのは腕甲型の魔剣。

 いつだか勇が遭遇した、渋谷で壁と同化して死んだ魔剣使いの持っていた物である。


「おう、おめぇ……これを使え」

「お、おぉ!?」


 剣聖が突然心輝へ向けて掴んだ魔剣を小さく放り投げた。

 「ガシャリ」と鈍い音を立てて心輝の手の中に放り込まれると……その視界に魔剣の様相がハッキリと映り込む。

 金色の装飾に深紅の装甲が目立つ腕甲型魔剣……その豪華な成りに思わず心輝から喜びと驚きの混じった声が上がった。


「うひょおおお!! かっけぇえええ!!」


 細かい装飾が彼の心にヒットしたのだろう、夢中で魔剣をその右手に嵌め込む。

 魔剣に備わるフィンガーホルダーへ指を納めると、グイグイと手首を捻る様に動かし始めた。




シャララン……




 それに合わせて装甲の継ぎ目を覆う鉄鎖網が音を立ててよれ動き、その手首の動きに合わせて自在な動きを見せつけた。


「魔剣【グワイヴ】だ……まぁ使い方は自分で見つけな」


 きっと説明が面倒なのだろう……その言葉を聞いて勇はそう連想せずにはいられなかった。


「本当はそいつは二つで一つなんだが……まぁ片方無くても普通に使えらぁな」

「ほう……!」


 新魔剣に興味深々の心輝を他所に、剣聖が再びバックパックに手を伸ばす。

 その太い手はバックパックの中に入る事も無く……荷口から飛び出した柄を掴み引き抜いた。


 姿を晒したのは……かつてヴェイリが使っていた弓型の魔剣。


「おう、長い髪の……おめぇだ」

「え、私?」


 剣聖が瀬玲を見つめ、それに気付くと……掴んだ魔剣の先を瀬玲の方へ向ける。

 それを瀬玲が恐る恐る掴み取ると、剣聖はパッと手を離し魔剣を受け渡した。


「魔剣カッデレータだ。 まぁ……めんどくせぇから使い方はこいつに聞け」


 遂にぶっちゃけた剣聖はその左手の指を勇に向けて言い放つ。


「ええ……俺も使い方そんな解らないんですけど……」

「戦う所見てたんだろうがよぉ……解れよぉ……」


 剣聖に釘を刺され、勇はヴェイリが戦っていた事を懸命に思い出そうと頭を抱えた。

 いつだかのヴェイリの戦いはもはや記憶の彼方……おまけに当時は素人もいいとこ、彼が何をしていたかなど判る筈も無く。


 勇が悩み、首を傾げている中……剣聖が再びバックパックを漁り始めた。

 そして目的の物を見つけて取り出すと、誰も見た事の無い魔剣が姿を現した。


 刀身こそ専用の鞘に収まり見えないが、全体的にエブレと同等かそれ以上の長さの持つ短剣大の魔剣。


「おう……うるさい女、これはおめぇのだ」

「アタシの魔剣!?」


 目の前に差し出された短剣大の魔剣は白く妖しい光を放ち、あずーの手の中に納まる。

 皮製の鞘を解き放つと、中から覗かせたのは純白の刀身だった。

 純白で片刃の刀身は等間隔の剣幅、切っ先は平坦だが刃尻は尖り突き出ている。

 金の装飾が華やかな古代文字を描き、柄の底部に命力珠と思われる玉が付いていた。


「こいつはエスカルオールという魔剣だ。すまねぇがそいつは二対一体じゃなきゃどうにもなんねぇ……」

「えー!」

「確か魔剣作れる奴いたよな……そいつにそれを見せて似た様なモンをもう一本見繕ってもらえ……そうすりゃ使えるようになる」

「了解!!」


 カプロが魔剣を作れる事は以前話した事がある。

 ちなみに以前翠星剣を作ってもらった後、剣聖にも見せたが……適当にあしらわれてしまっていた。

 どうやら新しい魔剣には興味は無い様で……魔剣に執着していると聞いたが、それはあくまでも現存する古い魔剣が対象なのだろう。


「そいつは逆手で使え。 後は使えばわかる」

「逆手……こうかな?」


 刃を下になる様に魔剣を持つと、柄底に付いた命力珠があずーの目に映り込む。

 その輝きが妙に馴染む様な……どこか引き込まれる様な……そんな印象を彼女に与えた。


 そんな時、ふと勇が気付く。

 いつの間にか剣聖の息が少しだけ荒くなっている事に。

 剣聖の額には冷や汗の様なものも流れ、本当にこのまま話し続けてもいいのかという不安に駆られる。


「おう、最後におめぇだ……」


 不安を顔に浮かばせていた勇の前に突然剣聖の指が伸びた。


「えっ!? 俺!?」


 翠星剣がある今、勇にとっては別の魔剣は別段必要としていない。

 それ故に……剣聖から指を差された事で、眉間にシワを寄せた疑問の顔を浮かべる。


 剣聖はそんな勇の事など構う事も無くバックパックの横に手を伸ばし、そこに括り付けられていた大箱の固定バンドを「バチッ」と取り外した。

 そして大箱を片手で持ち上げると、それを勇の前に差し出した。


「こ、これって!?」


 それは剣聖が使っていた魔剣である。

 二刀流で使っていたその魔剣の一対を勇に差し出したのだ。


「これは剣聖さんの魔剣じゃ!?」

「いいから受け取れ……やるわけじゃねぇ、貸すだけだ……」


 少しその箱を掴む手が震えてる様に見える。

 その様子を見て、勇が咄嗟に箱を掴み保持すると……間も無く剣聖の手が箱からパッと離れた。


「……お前は弱い……だが小賢しい……だから知恵を付けろ……ゴホッ……」

「剣聖さん……」

「敵より有利になる為に……戦いの幅を広げろ……翻弄し自分のペースに引きずり込めば……ゲホッ……例えおめぇでも……ゴフォ!!」

「け、剣聖さん!?」


 堪らず剣聖がベッドへ倒れ込み、再会した時と同様の姿勢へと戻る。

 5人が心配する中、剣聖は落ち着いたのか……フゥフゥと息を整え始めた。


「すまねぇな……茶奈、おめぇの分は無い……」

「わ、私は平気ですから……」

「そうかい……じゃあこれで終わりだ……わりぃな」


 その一言はまるで彼等に魔剣を託す為に呼んだ様にも聞こえる。

 いや、実際そうなのかもしれない。

 彼等の成長を知り、力を貸す……それは彼なりの優しさなのだろう。


「剣聖さん……体を労ってくださいね」

「魔剣、ありがとうございました!!」


 勇達がそんな別れの挨拶を贈ると、剣聖はベッドに寝転がったままゆっくりと左手を上げて応えていた。




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