~張り切りて、後続隊~
三人の研究員達の準備が整うと、彼等が茶奈達に向けて合図を出す。
それを受けた茶奈達は共に頷き、研究員達を連れて空洞へと足を運び始めた。
思ったよりも狭い通路に、心輝が眉間にシワを寄せて悩む姿を見せる。
「結構狭いな……俺のグワイヴならまだ戦えると思うが、茶奈ちゃんの杖じゃ戦い難いんじゃね?」
「多分大丈夫です。 イルリスは無理ですが、クゥファーなら短いままでなら使えますから」
「つか、魔剣自体要らない様な……」
その返事に苦笑いしながら歩み続ける茶奈。
落ち着いているのは勇達が先行しているからであろう。
「フルクラスタはあまり使いたくないんですよ……」
「なんでさ?」
急なカミングアウトに心輝が顔を傾げる……そんな彼が見る彼女の顔は妙に赤らめていた。
「あのですね……魔装付けているとフルクラスタ使えないんで脱がないといけないんですが……その、暑いんで日本発つ前に上着脱いできちゃったんです」
「マジかよ……いんやー俺は一向にぃ構わないんだぜー!?」
妙に意識したのか……心輝がチラチラと彼女の豊満な胸に視線をやる。
茶奈も妙に恥ずかしかったのか……もじもじした姿を見せていた。
そんな二人の様子を前に、研究員達は総じて心の中で思う。
―――青春だなぁ―――
暫しそんなやり取りで足が止まっていた一行だったが……研究員の押しの一言が上がり、再び歩み始める。
暫く進むと……そこに現れる人工の白い壁。
それを見つけた研究員達が驚きの声を上げた。
「やっぱここ人工島なんだなぁ……」
そうぼやく心輝の肩を研究員の一人がそっと叩き、彼に語り掛ける。
「すいません、この白い壁の一部をサンプルとして採取したいので壊して頂けますか?」
「ん? あいよぅ!!」
願いを申し入れた心輝はここぞとばかりに目を輝かせ、それと同時にグワイヴを体の正面に交差させて掲げた。
途端強く光るグワイヴ。
強化された事により、力を増幅して今まで以上に輝きを力強くさせているのだ。
「っしゃ!! 行くぜェッ!!」
ドンッ!!
力強く踏み出した心輝……その勢いに任せ、拳を白い壁へと思いっきり打ち付けた。
バッガァァァァーーーン!!
激しい音と共に弾けて砕ける白い壁。
あまりの衝撃で周囲がぐらぐらと揺れ、振動で砕けた岩の欠片が天井の岩肌から細かい粉となって零れ落ちてきた。
「あああ危ないですよ心輝さん!!」
「わ、わりぃ……張り切りすぎたぁ!!」
研究員達もさすがに脅え戸惑いを隠せない中、心輝が苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
「もうシンさんはぁ……えっと、これくらいでいいですか?」
茶奈が屈んで砕け落ちた破片の一つをつまみ取る……人の手の先から肘まで有りそうな大きな破片を。
さすがに大き過ぎると、研究員達が総出で首を振ると……その大きな破片を「ブチッ」と千切りとり、唖然とする彼等へとそっと受け渡した。
「茶奈ちゃあん……指で千切れる程の柔らかさなら言ってくれよぉ~」
「そんなぁ……触らないとわかりませんしぃ……」
心輝が理不尽なぼやきを呟きながら、彼女がやった様に砕けた壁の一部を摘まむ。
だが……予想に反してビクともしない壁を前にして、茶奈の恐ろしさの一端を感じ噛み締める心輝の姿があった。
すると二人のインカムから突然声が漏れる。
『今の振動を感じたか!?』
聞こえてきたのは勇の声……現在先行中の彼等にも先程の振動が伝わった様だ。
「わ、わりぃ、今のは俺がはやっただけだ……敵とかじゃねぇから安心してくれ」
『オイオイ、慎重にやってくれよ……』
インカムの向こうから溜息の音が聞こえ、続く様にジョゾウの笑い声が聞こえる。
『連絡ついでだ。 白い壁の向こうに別れ道がある。 俺達は左に向かったから、 右の先を任せる』
「おうよ、じゃあまた連絡するぜ」
間も無く通信が途切れ、通信ボタンから指を離す。
どうやら通信が通る所を見ると、電波遮断などの弊害は無さそうであった。
「んじゃ俺が先陣切るから、茶奈ちゃんは後ろを頼むぜ」
「わかりました」
こうして茶奈のチームは陣形を整え……勇達に続き人工の通路へと足を踏み入れた。
暫し歩きT字路へと辿り着いた一行は、壁に刻まれた印を見ながら足を止める。
「成程、これが例の印か」
「それじゃあ……勇さん達の動きがわかる様にタブレットを確認しながら行きましょうか」
「あの……それでしたら、我々がその役目を請け負いますよ」
すると研究員の一人がそう提言し、一枚のタブレットを取り出す……それは茶奈達が持つ物と全く同じ物。
「福留さんから預かってきました。 我々は魔特隊ではありませんが、同じ戦場へ向かう者として手助けさせてください」
彼等の提案に喜びの顔を見せる二人……これもまた福留が予期していた事なのであろうか、そう思える程の用意周到さに関心すら覚える。
「早速動きがあったようですよ……彼等は下の階層に向かう様です」
「んじゃ、俺達も行きますか」
こうして研究者によるナビゲーションの下、彼等を守りながら茶奈達が前進を始めた。
暫く道なりに歩く事数分……進む彼女達を待っていたのは、僅かに上に傾いた通路。
上の階層へ続くであろう道がぐるりと曲がる様に伸び、行き先を不透明にさせる。
「何かありそうな道だぜ……上に続く道ってのが」
「そうなんですか?」
意味深な言葉に茶奈が反応するが……心輝が眉間にシワを寄せた顔を浮かべながら茶奈へ振り向いた。
「茶奈ちゃあん……こういうのはあれよ、RPGとかであるお決まりのパターンよ? 登った先には大ボスが待ち構えてるってのが定石だぜ?」
「あーるぴーじーですか……うーん」
心輝の相変わらずの緊張感の無い話題に頭を悩ませつつ……茶奈一向は上へと続く道を一歩一歩ゆっくりと踏みしめながら登っていくのだった。




