~舞い降りて、謎多き島~
後続機に道を譲る様に狭い平地を迂回すると……続き、残りの2機が順を追って同様に着陸していく。
3機共に無事着陸し、状況が落ち着くと……途端に機内が慌ただしくなった。
勇達以外の搭乗員である国連軍の兵士達が彼等のサポートを行う為に、我先にと隊列を維持しながら駆け出していく
勇達もまたシートベルトを取り外すと、未だ治まりきらない浮遊感に耐えながらも立ち上がり外へと駆けだした。
「一旦旅客機に向かう!!」
「はいっ!!」
他の機内に乗っていた兵士達も同様、大勢が近くに着陸していたNZ91便へ向けて駆け抜けていく。
次々に銃を構えた兵士達が旅客機へ集まる中、勇達が到着すると……そこに見えたのは緊急脱出スライド、通称滑り台が展開された跡が残された姿だった。
風船の様に空気圧で膨らむこの滑り台は、完全に空気が抜けて入口にぶら下がる様な形で垂れ下がっていた。
「こちらへ!! これを見てくれ!!」
兵士達に呼び込まれ、走って近づいていく勇達……その視線に映ったのは、様々な形を有したおびただしい数の靴跡。
「全員飛行機から降りたんだな……皆どこに向かったんだ?」
そう疑問に思いつつ呟くと……その視線を靴跡が刻みこんだ先へと流す様に映していく。
その先に見えたのは、遠くにある島の中央……そこにある大きな空洞。
「あれは……島の入り口……?」
平地におあつらえ向きに備えられた空洞、その先に続く様に連なる靴跡はいずれも一切の迷いも無いように真っ直ぐその方向へと向いていた。
「皆あの先に避難したのか」
そうであればどれ程よかったか……勇がそう呟くと同時に遠くから兵士の一人の声が高く響いた。
「こっちへ来てください!!」
空洞に向かう方で叫ぶ兵士……その側へと駆け寄ると、勇達は息を飲んだ。
地面にはどう見ても靴跡には見えない形をした足跡がくっきりと残っていた。
「魔者が……居る……!?」
元々魔者が居るか居ないかは半々の想定であった。
伝説の島なのであれば人の手など入りようもない……居るとしても遥か昔からここに住む者達の末裔といった所だろうか。
だが結果として、人間ではない何かが居る事が明白となり、その場に居合わせた全員が緊張を走らせた。
「全員に『この島に魔者が居る可能性が高い』と伝えてください。 それと、周囲に気を配って対応をお願いします」
「了解した」
軍隊の隊長が勇の言葉を受け、敬礼するとその場を後にする。
勇達もまた、この状況においてどのように行動するかを打ち合わせる為に6人が囲む様に顔を合わせた。
「役割を決めよう。 まず、俺とジョゾウさんが乗客乗員を探しながら先行するA班。 茶奈とシンが研究員を連れて内部調査を行うB班。 あずが周囲をぐるりと回って来るC班だ」
「御意!!」
「わかりました」
「了解だぜ!!」
「おっけー!!」
「え、ちょ、私はっ!?」
役割を振られていない瀬玲が何やら慌てふためく様に問い返す。
その反応に勇は彼女を見ながら軽く頷き答えた。
「セリはここで待機だ。 この場所の防衛を頼む」
「え、でも、私だって……」
「カッデレータは特性的に室内での戦闘は不向きだし、俺達の機動力には瀬玲は追い付けないだろ。 何かあったらあずの援護は頼む」
そんな勇の答えを前に……瀬玲の顔から「スーッ」と火照りが冷めるかの様に感情が抜けていく。
僅かに目を細めた彼女は、少し間を置くと静かな声で勇に返した。
「そうね、わかった。 ここは私に任せて」
どこか感情の抜けた様な返事……それに気付いたあずーが視線を彼女に向ける。
だがそんな二人の様子を気付く事も無く、ジョゾウが声を上げた。
「各々方、『おうとまっぴん』機能を使う時に御座る」
「なんだっけそれ……」
「……勇殿、少しは身の回りの装備に気を掛けるべきであろう?」
オートマッピング機能とは、各自が持つタブレットのGPSとジャイロセンサを用いて移動の痕跡を元に軌跡を引く機能である。
これにより彼等の動きが線で引かれ、動いた場所がわかる……おまけにこの機能はこのタブレットを有する者全員に即座に共有される。
野外では殆ど意味を成さないこの機能だが、こういった屋内の様な場所であればこれ以上に無い有効な機能と化す。
勇が知らなかったのは、彼が単に機械に疎いからであろう。
他の仲間達は全員知っている様にジョゾウへと頷いて見せた。
「はは……そ、それじゃあジョゾウさん、行こう!!」
「承知!!」
その掛け声を受け、勇がジョゾウと共に駆け出し……空洞へ向けて駆け抜けていった。
「っしゃ、じゃあ俺達も行こうぜ」
「はい、よろしくお願いします」
茶奈と心輝もまた、既に準備を整え始めていた研究員達の下へ駆け寄っていった。
そんな4人の行く末を見つめながら……瀬玲は静かにその場に佇む。
そしてそれをあずーが背後から静かに見つめ、心配そうな表情を浮かべる。
既にそこに剣聖の姿は無く……彼等の居る平地遥か上方の壁を駆け抜ける様に走り去っていく一人の人影があった。
各々が動き、島へとアプローチを仕掛け始める。
今なお謎の多い空島で、勇達の長い戦いが始まりを告げたのだった。




