~吹き荒れて、暴風領域~
NZ91便が飛行していた時と同じような青空が広がり、雲もまばらで目下には海が広がっている……そんな状況をタブレットを通して皆が確認する。
彼等が乗る機体には、周囲を見渡す為のカメラが幾つも備え付けられていた。
カメラを通して全方位の状況を確認し、空島周辺に起きている事をリアルタイムで見る為に急遽取り付けられたのだ。
準備が遅れ出発が滞ったのはその所為である。
青い海、青い空……観光で来たのであれば、これほど「この素敵な言葉」が似合う風景はなかなか無いだろう。
敢えて言うなら「先行してきた艦隊が洋上に浮かび青を濁している」程度だ。
「今の所何も無いですね」
「ほんと……果てまで青空ばかり」
「でも規模からして、もう見えててもおかしくないんだよな……」
地図に映っていた黒点は乱気流の範囲を映す……その規模は直径6キロメートル程。
遥か遠くであっても、肉眼で確認出来るはずの規模なのだ。
もうすぐ例の海域……もし話が本当であるなら……。
「間も無く例の領域だ。 体勢等に注意してくれ」
操縦士の軍人から声が掛かり、全員の顔が引き締まる。
だが手に取ったタブレットは未だ青空を映しており、嵐など何も感じない。
ドォンッ!!
その時、突如機体を大きな揺れが襲った。
それと同時に「ガガン」と機体が軋む様な金切り音が鳴り響き、それに慌てた女性陣が軽く悲鳴を上げる。
勇達もまた驚きの声を上げて動揺を露わにさせた。
「うおっ!? なんだぁ!?」
「暴風域だ!!」
「ぬう!! 皆の者、しっかり体を支えるのだ!!」
座席に備えられた取っ手につかまり必死に耐える勇達……剣聖はといえば腕を組み無言で、揺られる機体に倣う様に体勢を崩さないままでいた。
揺れた拍子に彼等の手から離れたタブレットが、機体の中をガタガタと鳴らしながら転がっていく……そこに映るのは渦を巻く様に吹き荒れる暗い暴風。
予想を超えた激しい揺れに耐えながら、勇が足元を右往左往するタブレット達の1台を器用に足で抑えると……それを両足で掴み持ち上げる。
それを片手で体を支えながらもう片方の手で掴むと、画面に映った状況を確認し始めた。
「なんて嵐だ……ここまで吹き荒れてるなんて……う、なんだ!?」
その時、勇の目に飛び込んできたのは……暴風の先に映る黒い影。
「これは例の……!!」
その横で心輝が体を支えながら画面を覗き込み、引きつらせた顔で笑みを浮かべる。
「こういうよぉ……ヤベェ時に不謹慎な事言うのもなんだけどよぉ……敢えて言わせてくれよ―――」
「な、なんだ!?」
途端、黒かった暴風が徐々に薄れ、光が差し込み始めると……―――
―――勇達の目の前に……太陽の光に照らされた、宙を浮く巨大な『島』が姿を現した。
「―――『空島は……本当に在ったんだぁ』ってよぉ……!!」
彼等の目に映る光景……それは見る者を圧倒する。
横長のひし形を模した様な形の岩の塊……その横幅全長は2キロメートル程だろうか、想定していた物よりもずっと大きく……異様な神秘感を醸し出していた。
所々に浮く小さな欠片すらもそれに沿って宙を浮き、その巨体を更に大きく見せる。
外壁には所々段々に連なった平地があり、飛行機が発着出来そうな程の広い平地も幾つか存在していた。
「報告、編成3機共に暴風を抜けた。 空島周辺を迂回しつつ着陸ポイントを確認後、着陸し……あ、あれは!?」
操縦士からの報告が上がり、皆が顔を強張らせる……だがその途端、操縦士の目に何かが留まった。
「あれは……NZ91便だ!! NZ91便を視認!!」
「えっ!? ならそこに着陸をお願いします!!」
「了解!! 揺れるぞ、しっかり掴まっていろ!!」
操縦士の掛け声と共に、勇達の体に力が籠る。
途端、機体が大きく傾き、勇達の体に大きな重圧が襲い掛かった。
グアアァァーーーーン!!
急旋回を行い、輸送機が空島の側面スレスレを滑空していく。
それに追従する様に残り2機もまた同様に旋回し後を追う。
そして彼等の正面に映ったのは大きな平地……そしてその先に見えるのは大型の旅客機の姿。
「間も無く着陸、耐ショック姿勢!!」
操縦士の声に合わせ、その体を機内の壁へと密着させる。
徐々に機体が大きく傾き、同時に小刻みに揺れ始めた。
ドォンッ!!
途端、機体が上下に軽く揺れ、間もなく訪れる平衡感覚……着陸したのだ。
ガガガガガッ!!
ギュオッ!!
舗装されていない路面を、輸送機の巨大なタイヤが引きずられる様に踏みしめる。
着陸した機体にブレーキが掛かり、徐々に速度を落としながら平地を滑走していく。
ズズズ……。
そして、次第にその速度が体感出来なくなる程に収まっていくと……機体が遂に激しい動きを止めた。




