~悪態ついて、悪友達~
ギオが去り、嵐の様な毎日が過ぎ去った。
だが、その後も魔特隊戦闘員の面々は元より……現状は非戦闘員であるカプロを筆頭とした技術班も、損傷した魔剣を修復すべく慌ただしい毎日を送っていた。
「主任、G2SとQ2Sの二次換装部品が届きました、ここに置いておきます」
「わかったッス。 あ、指定の素材はまだッスかね? あれがねーと進まねッス」
「確認します、少々お待ちください」
「主任! IRA-21の部品に不具合が!!」
「改善点の洗い出しは済んでるッス、協力工場さんにこの図面付けて追加依頼頼むッス」
カプロは工房においては「主任」と呼ばれており、5人程の研究員とズーダーの部下の一人が彼の下で働いている。
その呼び名に相応しく、若年とは思えない様な手腕を発揮するカプロを前に、眺めていた勇の口が塞がらない様を見せつけていた。
「工房って今こんな風になってたんだな……最近締め出されてたから全くわからなかったよ」
「魔剣強化プロジェクトで忙しかったッスからねぇ……出来れば邪魔されたくなかったんス。 申し訳ねぇッス」
カプロはそう謝るが……彼には彼の仕事があるからこそ、勇は首を横に振り彼を肯定した。
「気にするなよ、おかげで助かってる」
ギオとの戦いにおいて、彼の作った魔甲と魔装は非常に有効だった事が証明された。
奇しくもその戦いでどちらも破壊されてしまったが、逆に言えばそれが身代わりとなったからこそ勇は必要以上のダメージを受けずに済んだのだ。
「とはいえ、勇さんの分の魔装と魔甲の修復はそんな難しいもんじゃねぇッス。 基本部品は全部外注なんで、装備素体の量産は可能ッスよ。 後工程がボクの手が必須になるんでそこだけ大変ッスが」
「うぴぴ」と笑い飛ばし、大変だという事を適当にうやむやにする。
当人は笑い事で済ましたが、実際は言う程楽ではない。
魔剣を作る際には鍛冶士の純粋な命力が必要となる……それは魔剣を作る事で培われた人間の持つ命力とは異なり、生まれた時に備わる魔者の命力の事を言う。
人間が魔剣を作る事が出来ない事の所以はここに依存する。
命力を必要とするという事はつまり、命を削るという事。
彼は一本の魔剣を作る為に、命を削って仕込んでいるのだ。
前工程……素体作りはあくまでも彼の手間を減らす為だけに過ぎない。
「まぁ俺も結構体にダメージ来てたみたいで……暫く戦いには出られそうにないからゆっくりでいいよ。 それよりも……」
ふと、勇が視線を彼の作業台へと移すと……そこに映るのは心輝達の破損した魔剣。
グワイヴ、カッデレータ、エスカルオール2本……いずれも見た事のある痛々しい損傷の跡が今なお残ったままだ。
「アレの対応は早めにお願いするよ。 出来れば魔剣が死ぬ前に、ね」
「そこは留意してるッスよ。 まぁ魔剣の見た目は結構キてるッスけど、魔剣の本質へのダメージはそこまで酷く無いんで心配いらねッス」
その言葉を聞くと、勇は安心して息を撫で下ろした。
かつて有していた魔剣「大地の楔」を失った時に大きな喪失感を味わったからこそ、勇は相棒とも言える魔剣を失う苦しみを痛い程理解出来る。
「折角なんで、ちょっといじらせてもらう事にしたッスよ……うぴぴっ!!」
いやらしい笑みを浮かべそう漏らすカプロ……何やら彼には企みがある様だ。
先程彼等が言っていた『G2S』だとか『Q2S』はそれの略称である。
その証拠に、それらを修復する為の部品がそれに沿う様に置かれている。
既に計画は進行中……それは見るからに明らかであった。
『IRA』が何を示すのかは勇にはわからなかったが、恐らくそれも何かの略称なのだろうと納得し……特に聞く事は無かった。
「なぁなぁ、オイラ達の魔剣の改造はいつやるんだよ~?」
「アタイ達の番まだ~?」
すると、いつの間にやらやってきていたアンディとナターシャの二人が物欲しそうにカプロへと訴えながら座った目を向ける。
それも当然だろう……先日の強化計画の報告の時点でも、二人の魔剣だけは「検討中」と書かれ、今なおその進展は見られないのだから。
「二人の分は後送りッスね。 先ずは戦闘部隊の頭数を元に戻すのが先ッス」
「なんだよーケチー」
「そうだそうだ、タヌキの癖に生意気だぞ」
「ムキー!! タヌキじゃねッス!! アルライッス!!」
どうやらカプロは割と沸点が低いのか……炊き付けた二人に対して地団駄を踏み怒りをあらわにする。
そんな様子にアンディとナターシャは笑いながら工房の外へ走り去ると……それを追いかける様にカプロが「ドタドタ」と勇の横を通り走り去っていった。
「こらぁー!! 待つッス!! 今日こそは許さねッス!!」
廊下の向こうへ走り去っていく三人……彼等の行く末を見届けた勇の口元には優しい笑みが浮かんでいた。
「そう言えば三人は同じくらいの歳なんだよな……まぁ俺も言う程歳離れてる訳じゃないけど」
つい独り言が漏れ、それを聞いた工房の職員達も自然と笑みを零す。
そうだからこそ、アンディとナターシャはこうやってカプロの下に度々訪れるのだろう。
彼等もまた、同年代の友人が居ないからこそ……カプロに自然とそういうモノを欲しているのかもしれない。
ただ口が悪いのは彼等がそういった口の利き方しか知らないから……。
「後でそういった所も教えないといけないな」……そう思いつつ、勇は工房を後にするのだった。




