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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十一節 「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
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~書き連ねて、反省文~

 麗龍ことギオの襲撃から二日が過ぎ、勇達の生活はあっという間に今まで通りの様相を取り戻していた。


 本部敷地内で起きた事は全て「非常災害時の訓練を兼ねた演出」という事で近所の住人達への説明も済んでいた。

 そもそも住宅地が近い本部敷地周辺には元より、「抜き打ちでイベントが行われる事がありますが、一切の危険はありません」という情報が流布されていた為、これといった騒ぎは起きていない様だ。




 ただし、当事者達は相当な痛手を負う事となった事には変わりはない。




 挙げる痛手は三つほど。


 今回の騒動で、勇達が敷地内の戦闘を行った事が総理の耳に入った事。

 これに関しては当然の如く……相当なお叱りを受け、敷地内での騒動における反省文を書かされる事となった。

 しかし原因を作った当の本人達……剣聖とギオに関しては、「ゲスト」という立場から訴追される事は無かった。

 仮にこの二人にそんな罰を課した所で、大人しくそんな反省文など書くはずも無いだろう……そう判断されての采配であったが、勇達はどこか不満を感じていた様だ。




 次に、心輝、瀬玲、あずー3名の魔剣が破損したという事。

 ギオとの戦いによって破損したグワイヴ、カッデレータ、エスカルオールは急遽修復を余儀なくされる事となった。

 エスカルオールは直接の損傷は無かったが、ギオの外殻が硬かったのと勇の命力が低かった事もあり、無茶な攻撃による刀身へのダメージが蓄積した様だ。

 修復が済むまでの間、三人はこの後予定していた派遣対応から外される事となった。




 最後に……ギオとの戦いで得られた事は何も無かった、という事だ。


 勇の命力減少の歯止めキッカケ作りの為に呼ばれたギオであったが、彼との戦いからはヒントすら得られる事は無かった。

 ただギオを喜ばすだけ……それは大怪我を負う事となった勇の骨折り損という訳だ。

 これにより勇自身も怪我が治るまでは派遣対応から外される事になった。

 勿論、怪我の云々など関係なく、彼にも反省文の提出は課せられている。




 事務所に木霊する「カリカリ」という音。

 黙々と渡された紙に文字を書き連ね、今回の問題に関する反省文を描き殴る勇達。

 『こちら側』の人間だけでなく、『あちら側』のレンネィやアージ、マヴォ、ジョゾウでさえその様に文字を書き続けている姿に、微笑ましい意味での異様な光景が広がっていた。


 彼等は修行の合間に現代学問の勉強もこなしている。

 勿論それは彼等の意欲の範疇であるが、それであっても彼等の文化に対する吸収力はとても強く……既に簡単な日本語程度であれば習得済みであった。


「……ウム、終わった」

「俺も終わったぜぇ……」


 いち早く終わらせた白の兄弟ことアージ&マヴォ……その筆の速さは魔剣使い達を屠る速さにも匹敵するのだろう。


 ……ただし筆跡に関しては言わずもがな。


「アージさん、マヴォさん、申し訳ないのですが……せめて読める文字を書いて頂きたいのですが……」


 さすがの平野も、提出された紙に描かれた「文字らしきもの」を前に苦言を呈するしかない。


「何ィ……!?」

「うぅっ……」


 既に慣れたとはいえ、その巨体に睨み詰められれば怖い物は怖い……アージの唸る様な声は特に、相手に威嚇する感じにも受け止められかねない。


「……ヌゥ……文字を書くのは苦手なのだ!!」


 そうぼやきながら自席へ戻っていくアージに、平野もホッと息を撫で下ろす。


「あのよぉ平野ちゃん、俺達あんまり文字書くの慣れてない訳よ?」

「は、はぁ……」

「だからさ、適当に説明してくれるだけでいいからよぉ? これで許してくんないかぁ?」

「それは他の方にも示しがつきませんので」


 マヴォが陳情を小声で伝えるが……それに釘を刺す様に笠本が指摘する。

 彼女の一言で諦めたのか……マヴォは何も言う事無くトボトボと自席へ戻っていった。


「拙僧も出来申したぞ」


 前の二人に続く様にジョゾウが声を上げ立ち上がる……その顔は妙に自信ありげだ。

 実際、紙に書かれた文字も、先の二人とは異なりしっかりと書かれている。

 現代文化に慣れ親しんでいるジョゾウだからこそ出来た事であろう。


「こ度の騒動におきましてはァ~! ギオという者の突然の来訪によりィ~!!」

「ジョゾウさん、朗読は必要ありません。 速やかにお持ちください」




 笠本の指摘を受けた途端、ジョゾウの顔が固まる。




「ここは気持ちが大切ではなかろうか」

「では是非総理の前でお願い致します」




 再び固まるジョゾウの顔……そんな彼の思考が止まる姿に笠本の口角もしきりに上がる様子を見せていた。




 しかし元々達筆であったのであろうジョゾウの文字。

 本文もしっかりとした日本語で書き連ね、内容もそれなりに筋を通しているという所から、何の問題も無く提出を成功し事務室を後にした。


「いいッスよねぇジョゾウさんは学があるから……そもそもなんでボクまで反省文書かなきゃなんねーんスか」


 カプロの言う事ももっともだろう……彼は装備を提供しただけで、その場に居合わせたのみ。

 強いて理由を挙げるなら、「連帯責任」の一言に尽きてしまう。


「理不尽ッス、こんなモン書いてるくらいなら即席ラブコメ小説書いてた方がまだマシッス。 なんでこの国はこんな意味不明な事をやらせて人の足を引っ張ろうとするのか理解に苦しむッス」


 カプロが黒い本音を駄々洩れにさせながら文字を描き殴る。

 他の者達も同感であったのか特に反論も無く、黒い本音が延々とその幼い口から吐き出され続けていった。


「できたー!」

「アタイもできたよー!」


 そんな中、最年少の二人が声を上げる。

 ……アンディとナターシャに関しては、元々の素養の問題もあり、内容は問われずスルーである。

 案の定、描かれていたのは文字ではなく……ただの落書きだった。




 それから2時間程が経過すると、気付けばレンネィ達大人組も既に報告をまとめ上げ、提出を済ませていた……残るは勇達若年組のみ。


 特に被害が甚大である4人は内容もしっかり書くようキツく言われており、頭を抱えて悩んでいた。


 次々に人が居なくなっていく中、それでもなお紙と睨み合いを続ける。

 戦いでは十二分に力を奮ってくれる命力も、文字書きには一切応えてくれない訳で。


「茶奈さん、お疲れさまでした」

「はい、ご教授頂きありがとうございました」


 軽く頭を下げると、茶奈が先発組に続き部屋を発とうとするが……今なお悩む様に頭を抱える勇達を見ていると、どうにも帰り辛い気分に駆られる。

 それに気付いたのだろう……勇が佇む彼女を見て気を遣う。


「茶奈、先に帰ってていいよ」

「うー……でも、なんか悪いですし……じゃあちょっと訓練しているので終わったら呼んでくださいね」

「うん、わかった」


 その時、時刻は昼の2時過ぎ……。

 彼女は勇の言葉を信じ、訓練を行う為に訓練施設へと足を運んでいった……。




 だがその日……結局笠本と平野がうんざりする程に勇達と原稿用紙との戦いは続き、夜の10時までその激しい戦いは続いた。


 その間、素直な茶奈はずっと訓練を続け……勇が呼ぶ頃には、精も根も尽き果て地下訓練場の中央で倒れて眠る彼女の姿があったという。




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