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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十節 「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」
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~剛拳乱撃~

 突然の剣聖の提案に勇は戸惑いを隠せない。


 だが、ギオからはいつの間にか顔から笑顔が消え、勇を冷たい下目遣いで睨み付けていた。

 彼の態度を見たギオには何か思う所があるのだろうか。


「へぇ、君は相手に敵意が無きゃ戦えないんだ……優しい人なんだね」

「そりゃ、俺は戦いが目的で戦ってる訳じゃ―――」

「君は敵意が無い相手が剣を振りかざしても笑って斬られるのかい?」

「それは敵意があるって言う事じゃないんですか……?」


 途端、勇が気付く……ギオの自身に向ける目が鋭く冷たい目に成っている事に。


「違うね、敵意と闘争心は別物さ。 君は笑顔で近づく相手の敵意を探る前に振られた拳を受け止められる程の実力者だと言える自信があるんだろうか?」

「それは……」

「君が剣聖の何かは知らないが……そんな君を見ていたらなんだか昂って来たよ。 君の様な考えの人間は早々居ないからね……甘さ故の強さ、君が果たしてそれを持ちうるかどうか試してみたくなった」


 その関節を引き締めた右手が小刻みに震え「コキッコキッ」と小さな音を鳴らす。

 既に臨戦体勢であろうギオの顔には大きな笑みが浮かび、「その時」を今か今かと待ち望んでいる様に見えた。


「じゃあ早速始めようか? 互いが満足のいく『殺し合い』をさ」

「待ってくれ、俺は無意味な戦いはしたくないだけだッ!!」


 そんなギオを前に、勇は彼のやる気に反して戦いを避けようと声を高らかに上げる。

 だが、既に戦う気を抑える事すら毛頭に無いギオはその冷たい目をゆっくりと……茶奈達の方へと向けた。


「そうかい……じゃあこうしよう。 君がやる気が無いのなら、今から君のお友達を一人づついたぶっていく事にする」

「何ッ!?」


 突然の言葉に勇が顔を引きつらせ、それをチラリと見たギオがその笑みを更に大きくさせた。


「一人づつ、確実に、腕と足を捥いで、泣き叫び、苦しんで、助けを乞いながら、それでもなお、最大限に苦しむ様に、殺してあげよう!!」

「キサマ……!!」


 ワナワナとした怒りが勇の心を燃え上がらせ、命力が昂っていく。

 その感覚を感じたギオが最後の仕上げと言わんばかりに大きく口を開けて声を上げた。


「『そうさせた』のは戦わないと言った君なんだからなッ!! それが嫌なら……掛かってこいよッ!!」

「そう言うならギオッ!!」


 勇が怒りの形相を浮かべ力強い一歩を踏み出す。




「掛かってこいよッ!! 全力で僕を殺して見せろーーーッ!!」

「ウオォォーーーーーー!!」




メッゴォーー!!




 その瞬間……昂った命力を最大限に込めた左腕の魔甲がメキメキと音を立ててギオの顔面にめり込む。

 そして渾身の一撃が見舞われたギオの体がグラウンド遥か向こうへと転がりながら吹き飛んでいった。




バコォーーー……―――




 そしてグラウンドの端……本部の外壁へと衝突し、砂埃を巻き上げその体の勢いが止まった。




「え、よ、弱い……?」


 殴った勇ですら拍子抜けする程に打たれ弱さを感じ……唖然とした顔を浮かべる。

 茶奈達もギオが吹き飛んだ跡をポカンと見つめていた。


 だが剣聖だけは真剣な眼差しを向けたままぼそりと呟いた。


「馬鹿ヤロォ……戦いの最中に気を抜くんじゃねェ。 これで終わったと思うなよ」

「ウッ!?」




 生身とはいえ、命力を込めた一撃……確実なクリーンヒットだったはずであった。




 だが……遥か向こうで人影がゆらりと動き立ち上がる。

 日の光で温められた地表から登る陽炎に揺られ、不気味な様子を見せつけていた。


 ギオという存在の謎の不気味さを感じ取った勇の顔が強張り、不意に叫び声を上げる。


「シンッ!! グワイヴを貸せぇ!!」

「お!? お、おうッ!!」


 言われるがままに二つのグワイヴを取り外し勇に投げ付けると、魔甲を外した勇はそれをしっかり受け取り己の拳へと装着させた。




キィィーーーーーーンッ!!




 途端光り輝く二つのグワイヴ。

 勇はグワイヴを腰に構え、己の脚でグラウンドを踏み出すと……残光を引きながら一気にギオとの距離を詰めていった。


 あっという間にギオの懐へと飛び込んだ勇がギオへと殴り掛かると、クロスレンジでの戦いを望んでいたかの様にギオがそれを受け止め拳を返す。


 だが勇はそれを避けると、超速の拳が一瞬で3発その胴体へと撃ち込まれ……衝撃でギオの体が外壁へと叩きつけられた。


「ガハッ!!」




バオンッ!!




 突如爆発音が鳴り響き、勇の左手が凄まじい速さでギオの頭を掴み取る。

 途端その体は天へ引かれ弧を描き、一気に大地へと打ち付けられた。


 続く猛攻。


「ウオォォォォォーーーーーーー!!」


 グワイヴの瞬間加速能力を最大限に使い、勇は地面に倒れたギオへ何発も殴りつけた。

 余りの衝撃にグラウンドへめり込んでいくギオの体……その足や手は殴られる度に跳ね上がる。




ドゴォンッ!! ドゴォンッ!! ドゴォン!!




「す、すっげ……あんな使い方あんのかよ!?」


 持ち主ある心輝ですら、想像しなかった使い方を見せる勇に驚きを隠せない。

 そんな事を思う彼等の視線も他所に勇はひたすら殴り続ける。


「どっちかがッ!! 負けて転がってェ!! こんな戦いにッ!! 何を求めてるんだよッ!! 不幸ばかりがッ!! 広がっていくだけじゃないかッ!!」




ガッ!!




 途端、その一発を止める様にギオの腕が勇の手首を掴み取る。


「なっ!?」


 驚きの顔を見せる勇がもう片方の腕で掴んだ手を殴ろうとするが……それも不意に掴まれてしまった。


「君の言う事は間違ってない……間違っちゃあいないんだよ……でもね、それは―――」


 そこに見せるのは今だ余裕な表情を浮かべたギオ。

 だがそれどころではない、その顔には傷一つ負った形跡が無いのだ。


「うおぁっ!?」


 勇の両腕を掴み上げ、ギオが体を持ち上げながら立ち上がる。

 「ヌウッ」っと起き上がるその様子は、彼の不気味さを更に際立たせていた。


「―――君みたいな只の人間や魔者の理屈であって、僕には適用されない……ッ!!」




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