~閃きと可能性その力~
二極の力を持つ二人ぶつかり合い……そして決着を迎える。
その瞬間、誰がその結果を予想しただろうか。
互いの衝撃によって弾き飛ばされたのは……茶奈であった。
「うああっ!!」
腕を抑えながら後ろに弾かれる彼女。
体からフルクラスタの命力が消え失せ、その華奢な体が床へと叩きつけられ転がり……勢いが止まると、彼女が床へと蹲る。
「だ、大丈夫か茶奈ッ!?」
雌雄が決したのを察したのだろう……勇が彼女の下へ駆け寄り安否を気遣うと、茶奈もそれが嬉しかったのだろうか苦悶の顔を浮かべながらも笑みを作った。
「だ、大丈夫です……酷いです勇さん、こんなのあるなんて……防ぐの無理ですって……」
「はは……咄嗟だったからさ、ごめん」
そんな状況を驚きの顔で見つめるギャラリー達。
堪らず瀬玲とアージ、マヴォが彼等に駆け寄り声を掛ける。
「まさか茶奈殿が負けるなど……一体何があったのだ?」
一部始終を見ていたのにも拘らずアージだけでなく他の者達も何が起きていたのか理解出来ていなかった。
「えっと……なんて言ったらいいのかな、『針』を作ったんだよ」
「針……?」
茶奈が痛みが走る腕を摩りながら、上体を起こすと……不思議な顔を浮かべる彼等へと代弁する様に答えた。
「イタタ……えっと、勇さんは……拳が突き合わさる瞬間に拳の間に命力の針みたいなのを作ったんです。 そうしたら、フルクラスタを押し開く様に勇さんの命力の針が形成されて……その点を軸にして思いっきり衝撃が伝わって来たんですよ……凄いです」
「ば、馬鹿なそんな事が……!?」
「出来るかどうか怪しかったんですけど、やってみないとわからないと思ってさ」
照れ臭そうに頭を掻きながら勇が笑顔でそう答えるが……そんな話を聞くとアージ達が驚愕し声が詰まる。
「で、でもさ、それ完全に茶奈対策じゃん。 そんなの実戦で使えなくない!?」
動揺を隠せないのだろう、ヒステリックに瀬玲が声を上げるが……アージがそれを聞くや、そっと彼女の肩を指で突く。
「それは違うぞセリ……勇殿のやった方法は、命力の盾全般に通用する……つまり、命力の盾を無効化する攻撃方法を示したんだ。 これはとんでもない事だぞ!?」
「え、嘘……マジで?」
真剣な返しを前に、瀬玲の顔が強張る。
「命力の盾は手練れがよく使う、いわばカウンターを狙う為の布石の防御。 だがこれを利用すれば、カウンターを狙う相手の策略そのものを砕く事が出来るのだ……相手が手練れであればあるほど、そのチャンスは多い 」
「あ、そうなのか……成程」
その説明を前に、『方法』を使った勇当人も納得したかの様に手を打つ。
そんな様子を見ていた茶奈と瀬玲の眉間がしわを寄せ目を座らせていた。
「こんなものを見せられては戦士の血が滾るというもの……勇殿、今度は俺が相手に成ろう!!」
「あ、兄者抜け駆けかよ!! 俺もやるぜ!!」
勇が見せた新しい可能性を前に興奮したアージもマヴォも既にやる気は十分の模様。
「わかりました……けど……面倒だから二人共一緒に掛かってこいッ!!」
「その意気や良しッ!!」
「後悔してくれるなよォ!!」
「ちょ、ちょっとォ!?」
突如として始まった二対一の猛者同士のバトルを避ける様に、瀬玲が茶奈の服を引っ張り引きずりながら必死で掛け離れていく。
そんな彼女達を気にも留めず、三人は戦いを始めていた。
「セリさん有難う御座います……」
「ハァハァ……いいわよ。 全く、暑苦しいったらありゃしないわ……」
彼等が話し込んでいる内に回復を済ませたのだろう……心輝達先行組も既に立ち上がっており、部屋の入口のある壁際へと移動を済ませていた。
それに合流する様に二人が部屋の入口へと移動すると……三人の戦いに目を移す。
そこに映るのは怒涛の攻撃ラッシュを凌ぐ勇の姿が。
「あの子、相当上達してるわね……先輩風吹かせていたら追い越されてたなんて恥ずかしい話だわ」
レンネィは腰を打ったのだろうか、腰部に手を当てながらそう言い残すと、彼女の腕を取り肩を貸す心輝と共に部屋を退出していった。
「まぁ格闘戦なんて私には何のメリットも無いし……私はパスでいいかな」
「セリさん、それはダメですよ……やっておいて損は無いですし」
「私はあくまでサポートメインだからいいの。 無駄に痛い目見たって得も無いわよ」
御託を並べて拒否する瀬玲に、茶奈も困り果て……すると突然そんな二人の背後に巨大な影が現れた。
「おう、御託はいいからとっとと行きやぁがれ!!」
その影の主……それは剣聖。




