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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第二十節 「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」
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~拳を交わし纏う風~

 その日の昼過ぎ……魔特隊事務所敷地内地下、特設訓練広場。




 そこへいつもの様に集まる魔特隊戦闘員のメンバー達。

 しかし……その様相はいつもとは異なる雰囲気を見せていた。




ガガガッ!! ドンッ!!


「んっがあーーー!?」


 心輝が大声を上げながら床を転げまわり、そして勢いのまま滑り込んでいく。

 余りの勢いにより壁に激突し、「ぐえっ」と醜い声を上げた。


「だらしがないぞシンッ!! その程度かよッ!!」


 そう叫び声を上げるのは……彼を吹き飛ばした張本人、勇。


 丸腰の勇を相手に組手を行っていたが、見事に打ち負かされてキツい一撃を見事に食らってしまったという訳だ。

本来格闘スタイルであれば彼を凌駕しているはずの心輝は悔しさを隠せず……弱った力で作った握り拳で床を「ドンッ」と叩きつけた。


「ふ、ふざけ……こっちは魔剣込みだっつうのに……」


 そう声を上げるものの、体は動かず……。

 組手自体も結構な激戦であったのだろう、心輝の口からは絶えず荒々しい呼吸が繰り返し行われていた。


「次は誰だっ!?」


 気合いを込めて大声を張り上げる……そんな彼の額からは大粒の汗が流れ落ち、ここに至るまでの激しさを物語る。

 その証拠に……床に転がるのは心輝だけではなく、アンディとナターシャ、ジョゾウとレンネィすらも広場の片隅で床に尻餅を突き休む様子が伺えた。


「今日の勇……なんかやたら気合い入ってない……?」

「そうですね、なんかこう……必死さみたいなのを感じます」


 茶奈と瀬玲が感じるのは、まさに鬼気迫るかの様な表情を見せる勇を見たからこそであろう。

 アージとマヴォですらも、そんな勢いに焦りを感じてしまう程に荒々しい。




 二日前、勇が自身に感じた違和感。

 自分の持つ命力絶対量が減るという前代未聞とも言える出来事を知った彼は、剣聖の助言に従い「出来るだけの事」を行う為に……己の力を精一杯に行使し振り絞ってみる事を選んだ。

 それを知らず巻き込まれた形ではあるが、彼の熱の入りように触発された者達が挑み……敗れ、そして今に至るという訳である。




「ヌゥ……では俺が……」


 そう名乗り上げようとした途端……茶奈が一歩前に足を踏み出した。


「私が行きます……!!」

「えっ、ちょっ……!?」


 瀬玲の制止にも止まる事無く……茶奈が歩み出し、勇の前に立つ。

 その姿は決して今までの様に弱々しくなく、堂々とした面持ちを浮かべていた。


「えぇっ、女神ちゃあん!?」

「ちょっと茶奈……今日はさすがに辞めておいた方が……」


 おどおどしく説得が飛ぶが、それに応じる事も無く……茶奈の言葉が遮る。


「セリさん……勇さんがこうするって事は、そこに意味があるからなんだって。 私は勇さんの事信じていますから……だから大丈夫です」


 振り返る事無く放たれた言葉……その真意は彼女の笑顔が物語っていた。




 勇を信じ、理解する事……それが今の茶奈の行動理念の一つ。

 二人がわかり合った時から、彼女はそう在ろうと決意したのだ。




 そして勇もまた……彼女を見つめ、真剣な眼差しを向ける。

 彼女を異性としてではなく、同じ道を進む戦士として。




「これは訓練だからなんて言わない……今の俺は手を緩める気は無いよ?」

「わかってます……そうじゃなきゃお互いに意味が無いですから……全力でお願いしますっ!!」


 そう言い放つと、ゆっくりとその体を不慣れな格闘スタイルへと身構える。


 すると彼女の周囲に空気の流れが生まれ……次第にそれは強くなり、彼等を見守る瀬玲やアージ達の髪が閉鎖空間であるはずのその場でゆらゆらと揺らめき始めた。


 茶奈の体から溢れ出る命力が彼女の周囲の空気を押し出し風を生み出していたのだ。


 そんな様子を伺い……拳を構える勇の額に一筋の汗が流れ落ちる。




ハァァァァ……スゥゥーーーー……




「行きますッ!!」




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