~今に至り在るかの想い~
恥を感じながらもあずーの前に立つ勇……腹は括れど、思いきれない感情の欠片が僅かに勇の顔を赤く滲ませる。
「思い違いならいいんだけどさ……俺に幻滅したとかさ、そんな感情にさせてしまったのなら……なんていうのか、申し訳ないっていうか……」
あずーが勇の事を好きだという事は仲間内だけでなく、周囲に居る人間の知る所だ。
彼女の特異な行動がそれを逆に児戯的な雰囲気へと変えてしまっていた訳であるが。
彼女の想いを少なからず知っていたからこそ、引責の念にも駆られるのも仕方の無いのかもしれない。
だが、そんな彼の何時に無い浮かない表情を見たあずーは……自らの浮かべた笑顔を無くすどころか大きな笑みへと変え、俯く彼に言葉を返した。
「んふふ~……確かに、あれがキッカケって言われたらそうかもしれないかな~」
「やっぱり……?」
不安そうな顔を浮かべたまま視線だけをあずーに向けると、彼女の万遍の笑みが視界に映り動揺を買う。
「でもさでもさ、ちょっと違うかな~」
「え?」
途端の切り返しに勇の顔がキョトンとし、僅かな間が開く。
そして不意に彼女の歩みが止まると……僅かに行き過ぎた勇が彼女の顔を追う様に体ごと振り返った。
「勇君、うちに初めて来た時の事、憶えてる?」
「1年の時シンに連れられて来た時の事かな……?」
「そうそう!! あの時さ、お兄に『好きな子のタイプ』聞かれてたじゃん?」
「あ、えーっと……確かそんな話してたような気がする……もしかして聞いてた?」
「うん、聞いてたよ……『元気な子が好き』ってさ」
勇の顔が蒼白になっていく……。
彼等が友達となったその日の何気ない話……それでも好きな異性のタイプを異性に聞かれたと知れば恥と感じる事もある。
そんな勇の顔を見たあずーは「フフッ」と小さな声を上げて笑う。
「だからさ、あたしはその時から『元気な子』であろうと思ったんだ……勇君が好きになってくれるようにってね」
「え……でもあの時、あずって俺と初対面だったはずだろ……どうしてそう思ったんだ?」
「んふふーそれはヒミツ!!」
「えぇ~……」
不意にあずーが再び歩み始め、勇を追い越すと……唖然と彼女を見つめていた彼がそれに追い付こうと続く。
そんな彼に振り向く事無く……彼女の口が開いた。
「でもね、こないだ気付いたんだ……勇君が好きな『元気な子』ってこういう事じゃないんだって……まぁ薄々感じてはいたけどさ。 きっと元気っていうのはエウリィちゃんみたいに我があってハッキリする事なんじゃないかって」
「あず……」
「それに気付けたからあたしはこう成れた……ううん、多分今の『あたし』が『地のあたし』なんだと思う。 今まで無理してたんだなぁってさ、やっと気付いたんだぁ~」
そんな彼女の表情は清々しい程に綺麗な笑顔で……今までのあざとい程に大きな笑みとは全く異なる自然なカタチ……それを横目に見つめていた勇の心が僅かに揺れ動く。
「まぁでもほら、もうあたしも高3じゃん? いつまでも子供で居られないってね」
「そっか……そうだよな。 もうあずと会って3年も経つんだな」
「そそ……だからさ、勇君も変に気を使わなくていいよ…… あたしは別に悪い方に転がった訳じゃないんだからさ。 むしろ今まで以上に好きになっちゃった」
「あはは……そこは変わらないんだな……」
「当たり前じゃんっ!! 本質はつよかわいいあずーちゃんなの!!」
自然な笑顔を向け、いつもと変わらない事を口走る彼女のテンションに押され、自然と勇の口元も笑みを作り……そして口を開け笑う。
そんな一連の二人の会話が時間を忘れさせたのだろう……気付けば既にそこは白代高校のすぐ近くの交差点……そこを曲がればその先に見える程の距離。
「あ~もう着いちゃったのかぁ……勇君と久々の話もっとしたかったのにな~」
「はは……俺はいつも事務所に居るさ、話したい時に来ればいいさ」
「訓練の邪魔するのも嫌だし、体動かしたい時に行くよ。 とりあえず、テスト終わったらね~」
「そうだったな……テスト頑張ってな」
「うん、勇君も訓練頑張ってね~!!」
互いが手を振り別れを告げる。
そして駆け足で校門へと向かっていく彼女の足取りは軽やかで……勇はそんな彼女の後姿を見守る様に、見えなくなるまで見つめ続けていた……。




