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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十九節 「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」
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~若気 の 至り~

 樹木の頂点を蹴り上げ、その勢いに乗ったまま炎の推進力で加速し一人の男が宙を舞う。

 時折矢が飛んでくるが、今の彼の動体視力であれば躱す事は造作も無い。


「ったくアイツラ……どこ行っちまったんだ……こんな事なら命力レーダーの練習くらいしておくんだったぜ……」


 すると上空から見慣れた影が一人、彼にも負けぬ速さで滑空し姿を現した。

 ジョゾウである。


「心輝殿、お二人を見失い申した……申し訳のう御座る……」

「しゃあねぇさぁ、アイツラすばしっこいからな……おまけに命力を抑えてるとかどんだけ器用なんだっつうの……!!」


 敵に見つからない様に気配を殺して動いているのだろう。

 二人の姿を見失った心輝とジョゾウは最早彼等を見つける手段は無いに等しかった。


 今までに隠れる様に生きてきたアンディとナターシャのこの様な動きは、手練れには程遠い心輝とジョゾウよりも遥かに卓越していると言えよう。

 魔剣使いの面でも、生存本能の面でも。




 ぶつくさとぼやきながら樹林の上空をかっとんでいく心輝とジョゾウ。




 だがそことは全く別の場所……二人の少年少女が樹林の中を駆け巡り、敵を斬り裂きながら当てもなく獲物を探す姿があった。


「アニキ~……ボスを倒すったって、どこに居るのかわからないんじゃ……ねぇ戻ろうよ~?」

「うるせぇぞ……師匠が倒れちまったんだ、俺達がやってやるんだ……共感覚でそんくらいわかってるだろ!?」


 所持者同士の意識、感覚、記憶を同調させる魔剣「レイデッター」と「ウェイグル」……二人の持つ魔剣が二人を繋ぐが、不安もまた運ぶ。

 お互いが不安に駆られながらも、それを払いのける様に強気の言葉で誤魔化すが……そんなやり取りをする二人の額には焦りから滲み出た冷や汗を浮かばせていた。




 だが、その焦りが二人の失敗を呼び込む事に成る。




 岩肌の隆起した段差が目の前に現れると、二人は迷う事無く飛び上がった。

 それ程高くは無く……ひとっとびで越えられる程の高さだ。


 そのまま乗り越え、難なく着地を果たす。

 だがその時……着地した地面に妙な違和感を憶えた。




 その瞬間……意思に反して二人の体が大きく浮かび上がる様な感覚に見舞われた。




 その場に仕掛けられていた罠が動き、二人を捕縛網が包み高く持ち上げたのだ。




バサバサァーーー!!




「うわぁーーーーー!?」

「ぎゃああーーーー!!」


 網に包まれたまま吊り上げられた二人。

 じたばたともがくが……見た目に反して丈夫な網は斬る事すらままならない。


「なんだよこれっ!?」

「うぅー動けないよー!!」


 妙に彼等に纏わりつく様な感覚を覚えるその網……まるで魔剣の様に体にくっつき彼等の自由を奪うよう。


 すると不意に彼等の耳に声が聞こえてくる。


「ハハハ……その網はな、我らの土地に咲く命力を吸うゴノミの草木を織り込んで作ったものだ……魔剣使いであれば効果は抜群よ」

「くそぉ……師匠ごめんなさい……」


 たちまち二人の意識がぼんやりし、意識が遠のいていく。

 ここに至るまでに消耗し疲れた体から命力が奪われる事でその意識を保つ事が出来なくなっていたのだ。


「よぅしよし……第二計画は順調だ……そして今度こそ奴を……」


 そう呟きながら木の影から一人の人影……グーヌー族の中で僅かに大きい体を持つ個体が姿を現す。

 強そうにこそ見えないものの、周囲から現れるグーヌー族達の彼に対する敬意を表す様な行動から……彼こそが統率者であるという事を物語っていた。


「よし降ろせ……魔剣を奪っておく事を忘れるなよ……」


 合図と共に静かに網が降ろされていく。

 地面に突いた衝撃で二人が起きない様、慎重にゆっくりと二人の体を地面へと近づけていった。


 気を失った二人が降ろされ、彼等の手により魔剣がアンディ達の手から離れる。

 だが、魔者達は彼等を殺そうとはせず……何を思ったのか、拘束を始めたのだった。


 拘束した二人を抱えてその場から立ち去っていく魔者達。

 その足はゆっくりと勇達が居るであろう方角へと向けて踏み出されていた。




―――




 僅かに残った命力の残滓を便りに……勇とレンネィがその歩を進めていく。

 見失わない様、確実に進む為にも走る事はせずその道のりをゆっくりと導き出しながら。


「……ハァ……シンがまさか命力レーダー使えないなんて思いもしなかったわぁ……」

「すいません、アイツ器用な事出来ないみたいで……」


 そんな中、レンネィは心輝が命力レーダーを習得していない事を知り肩を落としていた。

 戦闘面での成長は著しい彼ではあるが、補助的な能力に関してはめっきりである事に今更気付いた様だ。


「後で手取り足取り腰取り教えてあげないとねぇ……」

「腰は取らなくていいんじゃないですかね……」


 冗談を交えた会話で緊張を解す……彼女ならではのリラックス法は今でも健在だ。


 先程の戦い以降、彼等に近づく魔者はおらず……二人は警戒しながらも近くに敵意が無い事を探りながら緊張感を和らげるように心掛けていた。




 そんな時レンネィが張っていた命力レーダーが反応を示し、彼女の顔が強張る。




「……来るわ……え、どういう事……!?」

「どうしたんですか?」


 すると二人が歩く傾斜の先にある丘に、突如複数人のグーヌー族が姿を現した。


「そこで止まれ魔剣使い共!!」


 現れた魔者達から突然声が上がり、警戒した二人が立ち止まる。

 そんな二人を見て、魔者達の中から姿を現したリーダー格であろう魔者の統率者がニヤリと小さな口で笑窪を作り再び言葉を発する。


「こいつらの命が惜しくば、俺達の命令に従え!!」

「うっ!? あれはッ!?」


 そこに現れたのは……魔者達により抱えられたアンディとナターシャ。

 二人共依然気を失ったまま勇達の眼前に晒されたのだった。


「なんて事……!!」


 その姿を見せられ、二人はただ睨み付ける事しか出来ず歯を食いしばる。


「変な気は起こすなよ……いいか、もし命令に従わなければ……即座にこの二人の首を切り落とす!! あの炎の魔剣使いに頼っても無駄だ、奴は既に遠くへとおびき出しているからなッ!!」

「あのバカ……まんまと騙されて……!!」


 彼の不甲斐なさに落胆し小さく声を唸らせるが……状況が状況なだけに焦りも隠せない。


「男の魔剣使いッ!! 魔剣を地面に落としてこっちへ来い!! いいか、妙な動きはするなよ!!」


 そして何故か勇を指定する魔者達の目的もわからず……勇は彼等の言う通りに手に持った翠星剣と背負ったアラクラルフを地面へと落とした。


「勇!?」

「……二人はほっとけないでしょう? 俺は行きますよ」




 本来魔剣使いは死と隣り合わせの職業。

 レンネィにとってはこの場は二人を見捨てなければいけない場面だ。

 だが勇は二人を救う為に魔剣を地に落とした。

 レンネィにはその気持ちこそわかるものの、実行に移す彼の真意が測れないでいた。


 最悪の場合、アンディとナターシャだけではなく勇自身も危ういという事実を前に。




 だが、それでもレンネィは顔をフルフルと振ると……勇の背を見つめぼそりと小さく声を掛ける。


「勇……貴方が『認識外の速度』で近づける距離はわかっているわね……?」

「わかってます……やってみせます」


 そう言葉を交わし、勇はその足をゆっくりと踏み出し歩み始めた。




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