~取り 戻した 意識~
「―――勇!! 起きなさい、勇!!」
パシッパシッ!!
「うぅ……?」
「勇……やっと起きた……心配させて、もう……」
スゥーっと光が差し込み、そして聞こえてくるレンネィの声……。
僅かにボーッとした感覚に苛まれながらも、彼女の言葉に気付きその意識を目の前に向けた。
「う……レンネィさん……俺、どうなってる……?」
「どうって……突然倒れて昏睡状態になったからどうしたのかと思ってたわよ!!」
そんな彼女の姿は戦闘の時にのみ着る魔特隊のジャケット姿……つまり、それは今が戦闘中である事の証。
「うっ……そうか、今は……!!」
彼等魔特隊Cチームと勇、そして研修を兼ねたアンディとナターシャを混ぜた混成チームは、福留の指示を受けてカナダの地へと降り立っていた。
そして依頼を受け、転移してきた魔者「グーヌー族」の居る場所へと赴いていたのである。
「思い出せるって事は……現実か……」
「何を言っているのかわからないけれど……平気ならそれでいいわ。 それよりも、アンディとナターシャが勝手に先行してしまったのよ……あの子達を止めないと危ないわ」
「シンとジョゾウさんは?」
「ジョゾウは二人を追っていったわ。 シンはそこよ」
そう言われ指を指された方をぼんやりした意識で視線を合わせると……すぐ近くで右往左往天地に高速で飛び回っている心輝の姿が目に映った。
「急転直下ァ!! メテオインパクトォォォーーーー!! か ら のォーーー!! バァーーーニングットルネェーーードッ!!」
仰々しい名前を叫びながら持ち前の命力から発せられるグワイヴの炎が迸り、敵を焼きながら鋭い拳撃が見舞われていく。
一見無意味であろう様に見える彼の動きではあるが、初めて見た者にとっては牽制とも有効打とも見え……それが動揺を呼ぶ為効果は大きい。
何より彼の持ち味であろうトリッキーさを取り入れた攻撃は読まれ難く、相手の強弱に左右されない自由な戦い方を体現していた。
気付けばあっという間に周囲に立っていた魔者達はすべからく倒され地に伏していた。
「っしゃあ!! これでッ全部だッ!!」
「シン、二人はどこに行ったかわかる!?」
「わからねぇ、ちょっと見てくるッ!!」
そう言い放つと、心輝は休む間も無くグワイヴの推進力を利用して空高く跳び上がり、背の高い針葉樹林の上へと飛び去って行った。
二人は急な参戦という事となり、携帯機器を持っていなかった。
その為GPS等に寄る位置特定が出来る手段を持っておらず、彼等が独断先行してしまえば当然見失ってしまうのも吝かではない。
「すいません俺……なんか迷惑掛けたみたいだ……」
「全くよ……どんどん命力が減っていくから何があったのかと」
「恐らく、精神攻撃の類を受けてました……俺、どれくらい眠ってましたか?」
「5分くらいかしら」
彼にとって、かの空間での出来事は何日とも思える時間の流れにも感じていたが……僅かな時間しか経過していない事に戸惑いを隠せない。
徐々にぼんやりとした意識がハッキリしてくると、意識を完全に取り戻す為に自身の両頬をはたいた。
パシッ……
「よし……」
ゆっくりと立ち上がると……おもむろに周囲を見渡し意識を飛ばす。
「勇、どうするつもりなの?」
「少し思うことが有って……居た……!!」
命力レーダーが何かを察知し、勇は察知したそれが居るであろう場所へとゆっくり歩き始める。
レンネィも心配しながら彼に付いて行くと……すぐ近くにある茂みの先に居た者へ目をやり驚きの顔を浮かべた。
「これって……」
「多分魔剣使いだ……」
そこに居たのは、泡を吹いて倒れているグーヌー族の魔剣使い。
彼等の代表的な姿同様、全体的に極度な細身を持つ短毛の茶色い毛で覆われた種族。
魔剣使いと言えど姿が変わらないという事は、彼自身は魔剣使いとしてはそれほどの強者ではないのだろう。
倒れる魔者の手元に落ちている珍妙な形をした魔剣を拾い上げると、隣に居るレンネィが顔をしかめて声を上げた。
「これって……下弦のウィヴィン……なんでこんなものが現存しているの!?」
「知ってるんですね」
「えぇ、魔剣に関しては伝説だけは残ってる物が多いから……フェノーダラ城にあった古い文献にしっかり書いてあったわ。 相手の存在を否定し心を喰らう魔剣だと……」
勇は掴んだ魔剣を強く握り締め想いを込める。
「これはそんな仰々しい物じゃないですよ……ただ、別の世界の在り方を見せて、その相手の心を惑わす……人のもう一つの可能性を見せる魔剣さ」
そう呟くと魔剣を握り締めた拳が緩み……指が魔剣を跳ね上げた。
宙を舞い、クルクルと回る魔剣……それに一瞬の閃光が走ると……途端に弾け飛び粉々に砕け散った。
「これでいい、これで……そうだよな、統也……」
粉々になった破片の屑が宙を舞い風に乗って消える。
そんな光景を眺めながらレンネィが目を追い呟いた。
「勿体ない……あれも戦力として考えれば……」
「俺達は心を繋ぐ為に戦い続けているんです……その俺達がそんな魔剣を使っていたらきっと誰も信用してくれないだろうって俺は思います」
「そう……そうね、貴方がそう思うならそうなのでしょう」
それは彼女が彼を信用するからこその言葉。
レンネィという存在が、人と魔者同士が憎み合う『あちら側』の世界の出身だからこそ……分かり合おうとする事を理解するのには時間が掛かる。
それ故に彼女は……彼等の様な分かり合おうとする心を持った者達を信用し、想いを委ねたのだ。
いずれ彼女自身がその想いを持てる事を願いながら。
「さ……あのトンデモ兄妹の事が心配だから私達も追いましょう?」
「心輝の事は?」
そう言われると人指し指を口に当て……「んー……」と軽く悩むが、その顔は笑顔のまま。
「シンを心配する所は無いでしょう?」
「随分アイツの評価上がりましたね……何かあったんですか?」
「そうね……フフッ、夜のお供を任せられるくらいだから……ねぇ?」
その言葉を聞いた途端、勇は「ええっ!?」と声を上げて驚きの顔を浮かべた。
「そ、それってどういう!?」
「ンフフ……ヒ ミ ツ」
唇に付けた指を弾く様にその先が軽く勇に向くと……レンネィが踵を返して駆け出す。
そんな彼女の反応に驚きを抑える事も出来ず、首をもたげながら彼女の後を付いて行った。




