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時き継幻想フララジカ 第二部 『乱界編』  作者: ひなうさ
第十九節 「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」
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~U の せ ka i~

「―――大丈夫ですか?」


 微かに声がそう聞こえ、体が揺すられる様な感覚を憶えると……視界に光が差し込んだ。

 僅かに頭痛を催し、視界が僅かに左右に振れる。


「……しっかりなさってください、お父様」

「えっ……?」


 視界が広がり色付き始めると……そこに映るのは見た事がある様で見た事が無い景色。

 先程の雨が降りしきる街中ではなく……石壁に覆われ、乾燥した空気を伴う大きな広間だ。

 数人の人が周囲に立ち、不思議そうに()を見つめていた。


 懐かしい声、懐かしい香り……どこかで感じた事のある雰囲気に()はハッとする。


「……エウリィ?」

「はいお父様、エウリィはここに」


 ふと、声がする方向へと目を向ける。

 そこには既にこの世に居ないはずの……エウリィの立つ姿があった。


 いつか恋焦がれた懐かしき人のそのままの姿。

 その様を目にした時……自然と潤いを催す。


 だがそこで()は気付く。

 「きっとこれは先程(・・)の延長線なのだ」……と。


 自分が父だと言われた事が何よりもの……証とは成り得ない可能性。

 戸惑いを見せるものの、彼女の言葉に声を返す。


「す、すまない……ボーっとしてた……」


 ここはフェノーダラ城。

 恐らく()はフェノーダラ王と認識されているのだろう。


 だとすれば、今この瞬間は……。


 そっと視線を正面に向けると……彼の前に立っていたのは統也、茶奈、そして福留。

 左を向けば元気そうな剣聖の姿もそこにあった。




―――ここは多分……初めてここに来た日か……―――




 あえて違和感を感じる部分があるとすれば……()の父親が居ない事、そしてその代わりの大人も居ない事。


 そして何より……エウリィの顔に笑顔が無い事。


 あの時は確か彼女は常に笑顔であり、お淑やかさや女の子らしさを滲ませていた。

 そのはずなのだが……今は無表情。

 ()の感覚的に言えば、どうにも不機嫌なようにしか見えなかった。


 すると不意に、統也から声が上がる。


「それでは王様、私達はこれにて失礼いたします」


 その言葉を聞くや、()はすぐさま反応し言葉を返した。


「あぁ、お互い……えっと、よくやっていこう」


 当時の言葉など覚えてるはずも無く……それらしい事を言い放ち、場を収める。

 その言葉を耳にすると……三人は会釈し、門を潜ってその場から立ち去っていった。


 大広間の門が軋み音を上げながら閉まっていく。




ガコォン……!!




 木製の扉が閉まり、鈍い音が周囲に響くと周囲の人間達が落ち着きを取り戻す。

 初めての別の世界の人間との会合であれば緊張するのもいざ仕方の無い事だ。


 だがその横で「フゥッ」と息を吐く声が聞こえ……ふと首を回すと、エウリィが相変わらず不機嫌そうな顔を浮かべながら俯いていた。


「エウリィ、どうしたの……かな?」


 つい以前の彼女とのやり取りの様な声を出そうとしてしまうが……咄嗟に声色を低く変えて言い足して誤魔化そうとする。

 途端……エウリィが驚いた様な顔を一瞬浮かべ、いつもの様な優しい微笑みを見せた。


「ふふっ、何ですかお父様、変な声出して」


 声色を変えたのが逆に不自然だったようで……彼女が声を出して笑う。

 そんな反応が返ると、たちまち恥ずかしい気持ちが()の中に渦巻いた。


「お父様、エウリィは反対です……彼等、特にあの男の魔剣使い……彼は信用出来ません」


 すると突然その顔が再び曇り、思いもよらない言葉が彼女の口から飛び出す。

 その言葉に耳を疑い、彼女の顔をまじまじと見つめるが……その表情が再び変わる事は無かった。


「何故……そう思うんだ?」


 統也は勇にとって最も仲の良い親友とも言える存在……彼が亡くなった後もその事実は変わらない。

 そんな彼を信用出来ないというエウリィの言葉がその胸に強く引っ掛かり……つい問い掛ける。




 その答え……それは―――




「彼の心は黒く染まっています。 悲哀、喪失感、そして憎悪……それに近い負の感情で完全に染まりきっております」




 目を細めて瞬きをするエウリィ……その瞳は彼の心に充てられ心を痛めたのであろうか、震わせ僅かに潤う。


「私は恐ろしいのです……自分の成す事こそが全て正しいと信じ、その手を血で染める事にも抵抗を持たない……そんな事が出来る色だからこそ……」


 そう答え……彼女は統也達が去っていった門の方を向きながら口を紡ぐ。

 そんな彼女の思い思いの言葉を聞いた時、()の胸にずしりと何かが乗りかかったかの様な圧迫感を呼ぶ。

 途端胸が苦しくなり、思いを張り巡らせながらそっと目を閉じた。




―――彼女の言う心の色はもしかしたら……今の俺自身もなのかもしれない―――




 彼女が死んだ時、憎しみ、恨みに心を支配された。

 そして、それが今もなお残り……守るべき者を守る為に自身の心を殺す。

 それはもしかしたら……今の統也と同じ姿なのだろう、と。


 今は亡き彼女に……今、そう教えられた気がした。




―――でもさ……俺は弱いから……―――




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