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暁の刃を振りかざせ  作者: kiyama
第1章 異端児たちの学園生活
7/10

暁の魔法と宵闇の魔法

 基本的にこの世界には四季がない。太陽は常に同じ時間に上がっては沈み、月もまた同じで常に満月だ。

 そのため、昼は太陽が昇っている時間、夜は月が昇っている時間と明確に分けることができる。


 天文学的見地から説明すれば、この星は地軸が極地中央に存在していて太陽の丁度真ん中を水平に公転している、ということになる。月の周期も星の自転と一致しているわけだ。

 そんな奇跡的偶然によって成り立った星故にどの土地も年間通して気候は変わらず、毎日同じように潮は満ちては引く。


 この星に住む生き物は力の強弱こそあれ魔力を持っている。この魔力が太陽と月の魔力を借りているのだと考えられていた。

 実際、魔術は時間帯によって発動の威力が異なる。火水風雷の4元素からなる元素魔法は太陽の出ている時間帯の方が強く、治癒魔法や防御魔法は月の出ている時間帯の方が効き目が良いのだ。

 そのため、太陽に影響される魔法を陽魔法(ひまほう)、月に影響される魔法を月魔法(つきまほう)という。小洒落た言い回しを好む者によっては、前者を暁の魔法、後者を宵闇の魔法と呼ぶこともあるという。


「ってことは、だ。昼間に月魔法選んだから弱かったんじゃね?」


 自作の弁当を頬張りながらのセイルの評価に、そうかなぁと双子揃って首を傾げる。

 双子は惣菜パン、セイル王子は手造り弁当で特進科の教室で昼食をとるのは、セイルが親衛隊との交流会に取られない平日の定番な昼休みの過ごし方だ。

 ちなみに学内で食料の販売は保存食程度しかないため、毎晩実家の厨房まで仕入れに行き寮室のベランダにて魔術で火を扱うという面倒を進んでする程度には、セイルは料理好きだったりする。王子のくせに、とはよく言われる。


 そのセイルに、アカルが授業中に教師を怒らせた原因になった万年筆について話したところの感想が、先の発言だった。


「でも、風の陣なら元素魔法でしょう?」


「その定説な、俺はちょっと違うと思うぜ。外向きに作用する術が陽魔法で、内向きに作用する術が月魔法だろ。実際に使えりゃコニファ姉も賛同するんだろうけどなぁ」


 文献から得られる知識を問うものならばアカルの頭脳には信頼を置いているらしいセイルが残念がるのに、双子は揃って賛同を示す。

 残念ながらアカルに実践による実感は無いもの強請りだし、ニコイチであるナナトには色々な魔術を使い分けて分析出来るほどの思考力はない。


 いずれにせよ、魔方陣を描く魔力と発動する魔力が別物では昨日のような省力効果が得られないことは確かで。


「その充魔石にコニファ姉の魔力を籠めて発動させてみたら、まともに発動できるんじゃね?」


「それにしたって1日1発が限界だもの、戦力にはならないわ」


「パーティの隠し玉にはなるだろ。無駄ってこともねぇよ」


 なるほど、普段魔術師としては役に立たないレッテルを貼られているアカルだからこそ隠し玉には最適だ。

 省力効果でどこまで強い術が籠められるかは実験してみなければ分からないが。


 元々ナナトの魔力をアカルに使わせることを目的に作った魔道具だが、その大前提を意識していないセイルならではの発想だろう。

 そんな使い方もあるのかと作ったナナト当人が驚いている。


 それはそれとして、とセイルの提案は続く。


「その万年筆の魔力使って発動ってのはできないのか?」


「魔力の向きをインク固定にしてんだよ。書くことでしか魔力が出力できない」


「じゃああれだ。販売魔方陣みたいに発動用の充魔石を別に作る」


「だよなぁ」


 それはわかってるんだけどなぁ、とナナトは腕を組んだ。


 既に世の中には自分の魔力を充魔石にあらかじめ溜めておいて後で利用できるという魔道具が出回っている。

 使えるのは自分の魔力だけで、万が一緊急時に魔力が不足した時に蝋燭1つ分を使って引き出せる、という補助用である。


 ただしこれには制約があり、他人の魔力を引き出すことはできない。親子でも兄弟でも、一卵性の双子でも不可能という実験結果が公表済みだ。

 ナナトの魔力をアカルが使うことは、既存技術ではできないのである。そのため、先日作成された万年筆も魔力を引き出して使うのではなく常にインクに作用するように調整された魔道具だ。


 ちなみに、販売されている魔方陣は付属の充魔石を魔方陣中央に置いてしばらく待つと発動されるように調整された魔道具であり、使用者の魔力は一切必要ない。


 技師には基本中の基本といえる大前提だが、普通の魔術師や騎士には無くても困らない知識のため、学園でも技師科の講義で初めて教えられる仕組だ。

 そのため、セイルはそれを初耳だという様子で聞いていた。


「難しいんだな」


「簡単にいくなら姉ちゃんの魔力も何とでもなってるよ、今頃。うちは魔道具屋だぜ?」


「確かに」


 既存の魔道具で補助が可能なら、ナナトが頭を悩ますまでもなくコニファ家の両親や親族がとっくに解決していることだろう。


 それもそうだな、と頷いて、セイルは食べ終わった目の前の弁当箱を片付けた。

 昼休みももう間もなく終了である。教室の時計を見上げ、クラスの違うナナトは慌てて帰っていった。


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