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暁の刃を振りかざせ  作者: kiyama
第1章 異端児たちの学園生活
5/10

食堂はいつも大騒動

 放課後はめいっぱい自習に使う学生がほぼ100%という学園風土から、家事全般は学生寮各階に割り当てられたメイドが担っている部屋の共用ルームと水回りの掃除、およびランドリーバッグで委託する洗濯物はメイド任せだ。食事は食堂が全て賄っており、自炊しようにも炊事場が用意されていない上に食料の販売もない。菓子類の軽食も食堂からのテイクアウトだ。

 これらの費用は学費の一部として一括徴収されているため奨学生でも遠慮なく利用している。現金が必要なのはお茶やお菓子といった嗜好品の購入だけだ。


 おかげで食事時の食堂は大騒ぎである。食堂は3階建ての食堂棟が教室棟と棟続きで朝昼晩と賄っており、全学年一斉に利用しても席に溢れないだけの用意があるのだ。

 ちなみに、全学年生徒数および教員合わせては5千人を数える全員に対応可能な食堂はとても3階分の建物空間で賄いきれるものではなく、空間拡張魔法で食堂内を広げてテーブルを用意し、料理は定食一択のカウンター提供でセルフサービス。食堂とは別に購買部で惣菜パンの販売があることでなんとか効率化を図っている。


 そんな食堂の一角に彼らはひとつのテーブルを囲んで座った。実験棟からみんな一緒に来たので珍しくもアカルが一緒だ。

 自他ともに認めるシスコンのナナトは当然アカルの隣で、アカルが人見知りなのを理解している幼馴染のミツシが正面。その周りを友人数人が囲んで座る防御体制である。

 学力ランク1位ながら魔力ランク最下位のアカルはその特異な能力ゆえに学年問わず嫉妬の対象で、ナナト経由で何度か行動を共にしている友人一同は人に囲まれていると嘲笑の的にされやすいアカルの事情を了解していた。

 そのため、人垣の中に埋もれさせて人目に晒さない試行錯誤の結果の席次だ。


 全員同じ定食を囲んで、技師科学生たちの話題は当然現在取りかかっている課題に終始する。試験したばかりの万年筆についてもそうだが、他にも授業で課された宿題が山のように待ち構えているのだ。

 ちなみに、プレゼントされた万年筆はありがたくアカルがもらい受けた。発動に課題はあるものの、この万年筆を使ってあらかじめ多様な魔方陣を用意しておけば後が楽というものである。


 専門学科に所属するナナトをはじめ技師のたまごたちには実技で大幅な遅れをとるものの、日用品、生活雑貨から魔道具、魔方陣まで庶民の生活に欠かせないあらゆるものを取り扱うコニファ商会を生家とするアカルも魔道具の基礎知識には多少明るい。その知識をもって取り囲む友人知人一同との会話に混ざりながら食事を進めていく。

 夕飯時なので食堂内の空気もゆったりしている。


 そんな中、唐突に食堂の入り口を中心に盛大な歓声が波状に広がった。

 わーともきゃーとも、男女取り混ぜた悲鳴のような歓声は、やがてその正体は見えていないであろう食堂奥や上階にまで広がっていった。


 誰もがその理由は目にせずとも理解している。学園の人気者が食堂にやって来たことに、迎えた浮き足立った生徒たちが興奮しているのだ。

 国民的アイドルがやって来た、とでも考えれば分かりやすい。


「この歓声は生徒会かな?」


「毎日毎日よく叫ぶよな。ホント、3日で飽きろよ」


「見飽きない美人なんだろーよ」


 隣の声も聞こえないような騒音の中、ぼやく音量とは程遠いわめき声で言い合う友人たちにアカルは大人しく苦笑だけしていた。

 むしろアイドル扱いの彼らが気の毒だと感じてしまうのは、同じようにアイドル扱いされている後ろの席の友人に重ねてしまうせいだろう。


 問題の戸口では、騒がれていた当人が何かをしたらしく、急に静かになって取り囲んでいた学生たちが急いで散らばっていった。

 人だかりがなくなったおかげでその姿が食堂1階の全体から注目を浴びられるようになる。


 そこにいたのは案の定生徒会の面々だった。

 先頭に立つのは生徒会のギイチ・ヤシュア。公爵家嫡男であり、セイル王子と同い年の第2王女の婚約者としても知られている17学年騎士科優秀生である。特進科に所属していないことで学力魔力ともにほどほどのランクであることは自ずと知れるものの、細剣(レイピア)捌きにおいては学内随一と名高い。

 すぐ後ろに続いているのは副会長のマリナ・ストーム。魔術科優秀生で侯爵家の一人娘、さらに加えて容姿も並び立つのに他者が躊躇するほどの美女とくれば、社交界で注目の的というのも当然の流れだろう。甘やかされて育ったせいか多少ワガママなところもあるが、年上の男にはそれもまた魅力なのだとか。

 そんなふたりに先導される一団の後ろについて食堂に入ってきたセイルは、うんざりした表情を全く隠す気もないようだった。来期生徒会長も確実視されている彼は現在会長補佐として職務についており、生徒会業務後その場の流れで食堂まで同行させられたものと見える。


 明らかに不機嫌な様子のセイルを見て、ありゃあ、と困った反応をしたのはナナトだった。

 寮の部屋が上下階違いの同じ位置なのを良いことに、セイルがほぼ毎日風魔法を駆使して窓伝いに突入してきては盛大に愚痴を聞かせてくるのだ。拒まないお人好しのナナトに甘えているともいえる。

 これでナナトの同室者が今大騒ぎしているような彼をアイドル扱いするタイプだったらセイルの方が嫌がっただろう。だが、残念ながら同室者はミツシ。セイルの存在など気にも留めない。話に付き合ってくれることもあればさっさと個室に引き込もってしまうこともある、完全な傍観者だ。


「今日も寝かしてもらえねぇのかな、コレ」


「俺はさっさと寝るからな」


「うらぎりものー」


 眠りを妨げてまで愚痴を聞かせるセイルも、困っているのを知っていながら見捨てるミツシも、どちらも微笑ましいほどの遠慮のなさだ。

 そのお人好し具合いと幅の広い友人ラインアップがナナトの魅力なのだと本人だけが全く分かっていない。


 やがて騒ぎを引き連れてVIP席の方へ去っていくアイドルの一団を見送って、項垂れるナナトの頭をよしよしと撫で回すアカルである。


「セイルの世話、任せるわね」


「……姉ちゃんは俺の姉ちゃんであってセイルのじゃねぇからな」


「いや、今のコニファ姉の反応は完全に母親だろ……」


 みんな言いたい放題だった。


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