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暁の刃を振りかざせ  作者: kiyama
第1章 異端児たちの学園生活
3/10

ナナト渾身の逸品

 学園のカリキュラムは午前中が学年ごとの共通教養座学、午後は学科ごとの専門科目に割り当てられている。放課はどの学科も17時ながら、17時に教室を退出する学生は極めて稀であり、大体の学生はそのまま自習に流れる。

 17時に解散する稀なクラスが、アカルやセイルの在籍する特進科だ。といっても、教室内に残らないだけであり、それぞれが希望する進路に合わせた自習に則した環境に移動するだけだった。


 学力はともかく魔力のほとんどないアカルの放課後の行き先は9割9分の割合で学園内図書館である。

 一般書架に置かれるレベルの書籍は大概読破済みの彼女は、禁退出本の納められた書庫に直行している。


 国史写本から高度魔術まで、専門書の中でも研究者にまで進んだ者くらいしか手に取らないような書物が溢れる書庫に籠るアカルの読書スピードも驚異的なもので、斜め読みレベルで換算するならばこの書庫の書物すら半分は制覇済みだったりする。

 いくら知識を蓄えようとも利用できなければ意味はないわけだが、所属クラス故にその知識を活用できる友人知人には事欠かない。


 知識面から友人をサポートするために更なる知識を蓄えようと意識したのは、弟と意気投合した故に姉であるアカルとも気心の知れた友人関係を築いてくれたセイル王子の存在が大きい。

 昼休みの一件でもその一端を示したが、つまりは友人にとっての生き字引的存在になり得るならばアカルの存在価値も上がるのだ。ならばもっともっと使える生き字引になってやろう、というわけである。


 もちろん、彼女自身の知的好奇心が背景に大きく占めるわけだが。


 その図書室の書庫が、珍しく外側から開かれたのに気づき、アカルは不思議そうに顔を上げた。

 アカルが残っているのに気付かずに玄関に鍵をかけてしまう職員も少なくないこの図書館で、書庫の扉を開ける人間は数が限られるのだ。珍しいこともあるものだ、とすら思う。


 扉の向こうからひょっこり顔を出したのは、身に纏う色も基本的な造りも自分にそっくりな双子の弟だった。


「あら、珍しいお客さん」


 にこりと笑って迎えたアカルは、目の前に開いていた分厚い装丁の古めかしい年代物の書物をパタリと閉じた。手招かれて出していた書物を書架に戻し書庫を出る。

 書庫の扉を開けはしたものの足を踏み入れないナナト曰く、図書館というだけでも鳥肌ものなのに貴重本書架なんか近づけるか、だそうだ。


 ナナトに呼ばれて向かった先は技師科の学生向けに解放された工房タイプの実習室だった。

 金工、木工、彫金、裁縫など必要に応じて使い分けられるよう複数の実習室が用意されており、放課後はどの部屋も学生でいっぱいである。

 そのうちの軽細工実習室がナナトの目的地だった。同じく技師科に属する男女取り混ぜた友人たちがナナトの帰りを待って雑談していた。


 ナナトと親しく友だち付き合いをしている友人たちはコニファ姉弟に対して落ちこぼれと蔑まない貴重な人材でもある。

 真相を突き詰めるなら、ナナトと成績は大差ない落ちこぼれ仲間だからハブる必要がない、という関係なのだが。


「おー、来た来た。コニファ姉久しぶりに見た」


「バッカ、おま、今日図書館で相変わらず派手にスッ転んでたろ。気づいてなかったのか!?」


「マジか! 相変わらずどんくせぇなぁ」


 ワイワイと騒ぐ友人たちを押し退けて、ナナトがその中心に突っ込んでいく。

 代わりに騒いでいた集団からひとり抜け出してきてアカルに椅子を勧めてくれた。


 何の用で呼ばれたのか聞いていないアカルは始終不思議そうだ。

 ちなみに、どんくさいなどと無遠慮に貶されている点については幼い頃から言われ続けて慣れきっているおかげで意に介していないスルーっぷりである。


「それで、ご用はなぁに?」


「姉ちゃんにプレゼント!」


 言いながら、どう見ても作業中の座業机を引っ掻き回す。あれぇ、と首を傾げながら。

 そんなナナトを放ったまま、椅子を勧めてくれた少年がアカルに1本の羽ペン風の万年筆を差し出した。


「はい、どうぞ」


「って、ああっ!! ソレ! プレゼント!!」


 顔を上げてビシッとナナトが指を指す。対象は万年筆。


「万年筆に羽を付けた感じだけど。まさか幼等部生の工作じゃ……」


「なわけないっしょ! 姉ちゃん専用の魔道具です!」


 はい拍手、と強請られて友人たちが素直に手を叩く。

 この万年筆がどんなものかを理解している彼らだからこそ、態度の割に本気で称賛しているのだが。


「えー。コホン。ご説明いたしましょう。ただいまミツシからお渡しした万年筆、ただの万年筆じゃあございません」


「まぁ、色々省略すると、ナナトの魔力を使ってコニファ姉が魔術を使えるように作った魔道具だ」


「ちょ、ミツシ抜け駆けダメ!」


 カッコつけて滔々と説明を始めたナナトを遮って、アカルの隣からあっさり省略した概要を教えられる。

 へぇ、とアカルはそれを掲げ見た。


 ナナトの説明を遮った彼は同じ地元の幼等部一般教育校に通っていた幼馴染だ。名をミツシ・ウォーラーという。学園16学年技師科所属で学力も魔力も真ん中ほどをウロウロしている容姿も平々凡々な男子生徒である。

 普段ナナトと共に成績最下位常連者グループに混じって一緒にふざける仲間扱いされているが、ナナトを一歩引いた立場から弄るのが趣味というちょっと腹黒いところを隠しもしない。


 このナーガ魔法学園は10歳からの教育を担当する全寮制学園だが、この国の教育制度に照らすとこれは高等部専門教育校にあたる。一般的な国民は地元の高等部一般教育校に10歳から5年間自宅から通っており、この学園が全寮制なのは国内全土から身分の高い令息令嬢あるいは成績優秀な学生を集めているためだ。

 どちらに進むにせよ、4歳から10歳までの幼い子どもたちが通うのが地元の幼等部校だった。こちらは王侯貴族以外全員身分に関わらず同じ教室で机を並べる。それによって子どもの頃に身分制度による選民思想を緩和させる狙いがあるのだ。うまくいっているかは別として。


 国内では有数大企業に分類されるコニファ家の直系子息と幼馴染としてほぼ対等に付き合っているミツシは、身分制度と家計収支レベルからみれば対等には程遠い、零細企業に分類される魔防具工房の一人息子であり技師科奨学生である。

 魔力はどうにもならないが、翌年の奨学金支給を決定する目安となる年度末試験では毎年技師科内で学力ランク1位を叩き出してきた。明らかに中間試験では手を抜いていることを示す事実だが、元々技師科の学生は学力よりも技術力重視という特有の身内内評価が根付いているため誰かから物言いが入ったことはない。


 そんなミツシの抜け駆け同然の説明から、手元にやって来た万年筆をシゲシゲと眺めていたアカルは、すいと隣に立ったままだったミツシを見上げた。


「試してみても?」


「そのために俺たちも残ってたんだ。それ、俺らみんなで作ったみたいなもんだからな。出来が気になる」


 ウンウンと頷くナナトと仲間たち。

 それならまずは魔術向け実習室を借りなければとアカルも立ち上がったところで、普段このグループにいるはずだが姿の見えなかった最後のひとりが部屋に駆け込んできた。


「技師科の実験部屋で一番頑丈なところ借りてきた!」


 すでに下準備は万全だったようだ。


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