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暁の刃を振りかざせ  作者: kiyama
第1章 異端児たちの学園生活
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セイル王子の日常生活

 レンディアナ王国第3王子セイル・カルバール・レンディアナの日常生活は、魔力と運動能力を母親のお腹に忘れてきた天才少女と頭脳を姉に根こそぎ持っていかれた色々バカ力な少年の双子姉弟で終始している。


 出会ったのはアカルが先だが、打ち解けたのはナナトが先だ。

 今となってはどちらも良いお友だちなので優劣があるわけではないが、同性である分ナナトの方が比較的付き合いやすいのは否めない。


 レンディアナ王室に産まれた王子王女は、よほど能力に劣っていない限りはこのナーガ魔法学園に在籍して学問に励む。

 過去の在籍者を確認すれば、2人の兄王子も父王もこの学園で生徒会の役員を担っていた実績を見ることができた。


 同じようにセイルも生徒会役員の一角を担うことを期待されている。

 学力ランクはアカルに及ばず次席ながら、魔力ランクは入学以来学年主席を譲ったことがない。そのアカルも味方につけているとなれば、同学年内では向かうところ敵になりそうな相手はいなかった。

 残念ながら歳上を見ればやはり手の届かない相手はいるので、最強の肩書きも同年代に限るのだが。


 そんな生い立ち境遇のセイルであるから日常生活も派手派手しいのだろうと、事実を知らない周囲からは嫉妬と羨望を混ぜ合わせた視線を向けられるのだが、事実としてそんなわけは全く無い。

 王家の子息として社交界活動に恥ずかしくないだけの所作と心構えは叩き込まれているものの、そういう肩の凝りそうな舞台は性に合わず極力逃げ回って育ってきた経緯がある。

 そのため、同学年の生徒にへりくだられ敬われられて祭り上げられる事が唾棄するレベルで嫌いなのだ。


 コニファ姉弟はそういった畏敬の態度を全く取らない珍しい学友だった。そのため、肩の力が自然に抜けて付き合いやすい関係なのだ。

 そんな性質でなければ、いくら庶民派を気取っていても敬語すら使わず同等の友人として接してくる彼らを許したりはしなかっただろう。

 一応はこれでも王子である。





 その日の昼食は学食別室で親衛隊の食事会にマスコットとして出席して、親衛隊員たちが素人ながら腕を奮った手料理を取り分けて食べることになっていた。

 こんな日は親衛隊長が迎えに来るまで教室で待つことにしている。


 親衛隊というのはこの学園独特の制度で、高い能力や魅力的な容姿、それに高貴な家柄を併せ持つ学生を対象とし、憧憬や恋慕の情を秘めた生徒たちがより集まって結成するファンクラブのようなものだ。

 ファン対象となる学生からしてみれば、こちらに迷惑をかけず勝手にやっていてくれれば良いとでも言いたいものなのだが、事態は何故かそう簡単には済まない。

 元気の有り余っている年代だからか思春期故か、同好の志がより集まることによって気が大きくなるようで、嫉妬心や独占欲から対象に近づく人間に対する制裁行為が激化してしまう傾向があるのだ。

 自分が理由になって自分の交遊関係にある者に危害が加えられるとなれば放置するわけにもいかず、歴代の人気者があれこれ試して親衛隊結成する学生たちの集団心理傾向と擦り合わせた結果、学則にて定められた親衛隊規定を制定するに至ったのが数代前のことだった。


 結成から活動許可範囲から解散に至るまで細かく設定されている親衛隊規約は以下のようなものだ。

 結成には対象者の許可を必要とすること。親衛隊を許可した対象者は定期的に隊員との交流をはかること。隊員は対象者の交遊を妨げないこと。ただし、対象者に心的物的被害を及ぼされる恐れのある場合は護衛行為を許可する。如何なる場合においても制裁行為は禁止。対象者が親衛隊の解散を望む場合は第三者機関を交え協議すること。

 この取り決めにより、対象者は自らの交遊関係に親衛隊の存在が関与しない保証を得ることができ、親衛隊も堂々と対象者とお近づきになる機会を得ることができた。相互利益享受関係というべきか。


 セイルが現在親衛隊長を待っているのも、この親衛隊交流のためだった。

 王子として生まれ媚びへつらわれて成長してきたセイルにとって親衛隊という存在は唾棄すべきようなものとしか受け止められないのだが、王家に生まれた以上生まれながらに王国のマスコット的存在価値を付与されてしまうのは致し方ないというところか。


 普段であれば午前の授業が終わると1分も待たずにやってくる親衛隊長なのだが、今日は何か問題にでも巻き込まれているのか、なかなか姿を見せない。

 昼食を調達して売店から戻ったアカルが不思議そうに首を傾げて声をかけてきた。


「今日はお食事会と言ってなかったかしら?」


「そのはずなんだがな」


 無ければそれで構わないセイルだが、本日の昼食は食事会をあてにしていたので空腹が問題ではある。

 探しに行くか食糧調達に行くか。悩みどころだ。


 困っているセイルをよそに、アカルは購入してきた惣菜パンにかじりつく。セイルの目の前で見せびらかすかのようだが、向いている方向こそセイルの目の前ながらそこはアカルの席であって何ら問題もない。


「……腹へった」


 案外強く匂う揚物とソースの匂いが空腹の胃を刺激してやまない。クテッと机になついてしまった王子様を見下ろして、食べるかとアカルはもうひとつ買ってきた別のパンを差し出してみた。

 それは本来アカルの昼食なので王子としても奪うわけにいかず首を振った。


「もう少し待ってみる」


「探してみたら良いじゃない。サラサ女史なら魔力も強い方ですもの、見つけやすいのじゃないの?」


「むぅ。出来ないくせに簡単に言うなよ」


「私が出来ないのは魔力不足だからよ。セイルくらい魔力があれば簡単でしょう?」


「……魔方陣参照便覧を部屋に忘れてきたんだよ」


 必要な魔方陣が頭にあればアカルに指摘されるまでもなくやっていた、と決まり悪そうに本日の忘れ物を暴露する。

 あら、と少し驚いたアカルは、手に出していたパンを包み紙に戻すと机から食糧を一旦片付けて机の天板をひっくり返した。


 学園の学習机は両面利用できるように作られており、片面は磨かれた木目も美しい木板、裏面は白墨で直接書き込める黒板である。

 魔術の行使には詠唱は省略可能ながら魔方陣は必須であり、どれだけの魔方陣を空中に描けるかで魔術師の能力が8割決まると言われるのだ。故に、魔方陣教育は学園でも強く力を入れている。

 黒板はその魔方陣を描く練習用に用意されているものだった。

 魔方陣が分かっても術を発動する魔力のないアカルには無用の長物的知識ではあるのだが。


 その黒板に実に簡素な魔方陣を書き込んで、セイルの机の上に天板を重ねて置いてみせる。


「探し人の魔方陣ならコレで大丈夫よ。居場所を知るくらいだけれど、今は十分でしょう?」


「アカルさん流石だ! マジ助かるわ」


 無用の長物的知識でもアカルの脳内には既にしっかり収まっていたようで、書き表してくれた見覚えだけはあるそれにセイルは深い感謝を示した。


 斯くして探しだした親衛隊長は職員室にいて動きがなく。

 ついでに探してみた親衛隊幹部は全員食事会の会場に揃っている。これは、隊長は待たずに直接向かってしまった方が早く昼食にありつけそうだった。


「コニファ姉に頼みがあるんだが」


「名前で呼ぶか家名で呼ぶかどちらかに統一してくださると嬉しいのだけど、何かしら? 隊長さんがみえたら先に行ったと伝えるわ」


「助かります、アカルさん」


 頼み事を口にする前に引き受けられてしまって、セイルとしてはもう何も言うべきこともない。素直にお願いして席をたった。

 まったく、このクラスメイトには敵う気がしないのだ。


 学力ランクも学年次席は取ってるのになぁ、とぼやきつつ、食堂会食室へ向かうセイル王子であった。


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