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第8話 魔王姫軍大隊長アンドロポフ!

古竜少女の名前をリスティアに変更。何パターンか書いて普通な性格が一番よさそうなので、これで。

第6話も微修正しましたが内容はまったく同じままです。

 午後の日差しが肌に暖かく降る。

 森の南にある村にユーシアとアンナは来た。


 村といっても百軒以上の家があり、大通りには役所や村長宅、宿屋や商店が並んでいた。

 村はずれには穀物倉庫もある。


 地方の行政や物資の中継拠点となっている村だった。



 ユーシアとアンナは村の入口に立っていた。

 入口から続く大通りの両側には、人形の兵士がずらっと並んでいる。


 それらを眺めたユーシアは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「なるほど……理にかなっておるな」

「え? どういうことでございましょう?」



「大通りだけではなく、路地裏の四つ角にも人形兵を立たせておる。住人を家に閉じ込めて自分たちが我が者顔で振舞えるようにし、また同時に、敵の襲撃にはすぐに気付いて対処できるようになっているな」


「さ、さすがユーシアさま。見ただけで布陣の意味を理解してしまわれるなんて……」


「ふふっ、我輩の洞察力の鋭さは、偉大すぎて自分自身でも怖くなるぐらいだ、フハハハハッ!」

 胸を反らして高笑いする。

 村の上に広がる青空にユーシアの声が響き渡った。



 アンナが不安そうに首を傾げる。そよ風を受けて金髪が横になびいた。

「でも、どうやって人形兵に見つからないようにしながら、魔王姫軍の本隊を叩くのでしょう?」


 ユーシアは怖い笑みを浮かべてアンナを睨んだ。鋭い犬歯がギラリと光る。

「ふんっ! 何を勘違いしておる? 我輩だぞ? なぜ偉大なる我輩が、そんなこそ泥みたいなマネをしなくてはならんのだ! ――こうすれば良い!」


 ユーシアは黒いマントをなびかせて颯爽と村へ入るなり、思いっきり腕を振るった。


 ガッシャァァンッ!


 陶器が壊れる音に似た澄んだ音が、そこそこ広い村に響き渡った。



 アンナは青い瞳を丸くして慌てふためく。

「はわわっ! なにをなさっておいでですか、ユーシアさま! それでは敵に見つかってしまいます!」


「見つかるのではない、見つけさせるのだ! ――すべての物事は我輩の思い通りにしか進んでゆかぬ! ふははははっ! ――それ!」


 ガシャンッ! グワシャンッ!

 と、ユーシアは立て続けに人形を破壊していった。



 人形兵は敵の出現を認識して動き始めたが、最強の魔王たるユーシアの前にはでくの坊同然。

 往来の中央を突き進むユーシアに襲い掛かるも、なすすべもなく破壊されていく。


 突然開始された戦いに、アンナは眉尻を下げて怯えていた。

 震えながらユーシアの背中にぴったりと寄り添う。柔らかな巨乳が押し付けられて潰れた。

「ひゃああ~! もう、わけがわかりませんっ!」


「凡人が我輩を理解するなど一万年早いわ! ふははははっ!」

 意気揚々と高笑いしながら、ユーシアは群がってくる人形を破壊し続けた。

 


 ――と。


 バタンッ!


 と大きな音を立てて、村の大通り中央にある宿屋兼酒場からオークやゴブリンたちが群がり出てきた。

 傘を持った華奢な少女リスティアも後から出てくる。すみれ色の瞳は驚きで見開かれていた。

「え、嘘!? ……片手で人形兵を……すごいっ」



 大通りの中央に立つユーシアと、魔王姫軍が距離を置いて対峙する。


 一番太って大きい豚魔族――オークのアンドロポフが豚の悲鳴のような鋭い声を上げた。

「き、貴様ァ~! 何をしている! 魔王姫軍に逆らってただですむと思っているのかっ!」


 ユーシアは作業のように人形兵を叩き潰しながらも、くいっと右眉だけ上げて偉そうに睥睨した。

「あん? もちろんわかっておるぞ? 我輩の理解力を見くびらないでいただこうか」



 アンドロポフは太った巨体を揺らして地団駄を踏む。

「な、なにぉ~! 貴様、許さんぞ!」


「ハッ! その程度のありきたりの反応しかできないお前に何ができる? ――だが、一応聞いておこう……お前が部隊長だな?」



 アンドロポフは、意表を突かれたのか、ぐうっと唸ったが、すぐに下卑た笑みを浮かべる。

「よくわかったな。俺様が魔王姫軍大隊長アンドロポフさまよ! 聞いたことあるだろう、魔王姫軍一番槍にして、女に容赦しない男だと! 俺様の名を聞くだけで、女はみんな腰を抜かして逃げ惑うのよ、げへへっ」

 アンドロポフは粘っこい視線で、アンナの丸い胸や尻を舐め回す。


 ユーシアはアンナを背中に隠しつつ鼻で笑う。

「ふんっ、クズなことなど貴様の顔に書いてある。我輩の理解力を見くびるな、と。――まあ、無駄だと思うが一応尋ねておこうか。貴様は異界の魔王姫エメルディアの居城を知っているか?」



 ユーシアの背中にピッタリと寄り添っているアンナが、不思議そうな声で聞く。

「なぜ無駄なのでしょう? 大隊長ともなれば、かなりの実力者ですが」


「ふんっ! 魔王姫城は所在を明らかにしていない。ということは、よほどの腹心にしか場所は教えていないはず。――この程度のクズ豚に教えているとは思えんな」


「まあ、一目見てそこまで見抜いてしまうなんて……! さすがユーシアさま、本物の勇者さまですわ!」


 アンナは喜んで目を細めたが、ユーシアは鼻で笑った。

「勇者ではない! 我輩こそが真の魔王、ユーシアさまだ! ふははははっ!」



 大通りに立ちすくむアンドロポフは、顔を真っ赤にして怒っていた。

「く、くそぉ! 言わせておけば! ――ああ、そうよ! 俺さまは確かに魔王姫城の場所は知らねぇ! でもよ、四天王さまが指揮を取る最後の王都決戦で、大活躍して出世してやらぁ! なんせ【先陣切りの突進王】の異名を取るアンドロポフさまなんだからよ!」


「どうせ、くだらぬ欲望のために働いておるだけだろうな」

「ぎひひっ、一番に乗り込んで、そいつみたいな美女を、めちゃめちゃにするのがたまらねぇ! 名声も上がり、出世もできる。最高の世の中よ! がはは!」


 アンドロポフの視線に怯えて、アンナはユーシアの背中にますますくっついた。温かな二つの丸みが服ごしに伝わる。



 ユーシアは可哀想な豚を見る目付きで、彼を眺めた。

「アホだな」


「な、なにぃ! どこがアホだって言うんだ! 素晴らしいだろうが!」



 ユーシアはやれやれと呟きつつ、肩をすくめた。

「異名とは何か? 敵対者に対する恐ろしさの宣伝だ。それは敵がいる間だけ意味がある。最終決戦で勝ってしまえば、恐怖の宣伝役でしかない無能のお前など、お払い箱になるだけだぞ?」


「なっ!? そ、そんなわけ……俺は、俺様は……!」

 アンドロポフは悔しさで奥歯を噛み締めた。顔が赤を通り越して青褪めている。

 人を傷つける言葉は誹謗でも中傷でもなく、厳然たる事実が一番の刃だった。



 その時、膝上丈のスカートを翻して、少女リスティアが大通りに飛び出した。

 軍団とユーシアの間に立ちはだかり、可愛らしい澄んだ声で叫ぶ。

「大隊長! 個別に戦っては各個撃破されるだけ! 魔王姫さまから授けられた人形兵を失わないためにも、足並みを揃えましょ!」


 アンドロポフは悔しげに歯を噛む。

「ぬう……! 荷物引きがでしゃばりおって……! くそっ、やれ、やっちまえ!」

 懐から笛を取り出して吹いた。

 それまでバラバラに動いていた人形兵が統制を取れた動きをする。



 リスティアは手に持つ傘を槍のように構えつつ、すみれ色の瞳に決意を光らせてユーシアを睨む。

「魔王姫エメルディアさまのお役に立つことこそが、あたしの使命! 絶対、魔王さまの役に立って見せるんだからっ! ――ヤァァァ!」

 黒髪を後方になびかせ、スカートから細い足をのぞかせながら突進する。


 魔物や人形たちもその背後から、ファランクスのように密集して襲い掛かる。

 大通りを埋め尽くす魔王姫軍。



 ――が。

 ユーシアは美しくも鋭い顔に、にんまりと満面の笑みをたたえた。

「そう。それでこそ我輩の思惑通り。手間が省ける――欲しい情報も聞き出したしな」


 すうっと、大通りの直線状に右腕を伸ばした。


「我輩に刃を向けた罪、償うがよい――暴君黒闇波タイラントエクシディ!」


 ドゴォッ!


 ユーシアの右手から極太の、漆黒の光線が放たれた。


「ぎゃぁぁぁ!」「うぎゃあああ!」「ひぎぅいぁぁあ!」

 黒い光を浴びたゴブリンやオークなどの悲鳴が響く。

 すぐに跡形もなく消え去り、大通りには叫び声だけが残った。



 ユーシアは口の端を歪めて不敵に笑う。

 出力は調整したらしく、ちょうど道幅いっぱいだった。

 道にはみ出た家のひさしを吹き飛ばしたのはご愛嬌。


 アンドロポフが驚愕で顔を醜く歪める。

「そ、そんな、ばかなぁぁあ!!」

 巨体が消えるのに他の者より少しだけ時間がかかったが、それもすぐに粉々になった。


 そして黒い光線を浴びた人形兵たちは、音もなく粉となって消し飛んだ。



 時間にして、数秒。

 村を埋め尽くしていた人形兵と魔物は一瞬にして消え去っていた。


 ユーシアの後ろにいるアンナが、愕然とした口調で言う。

「え……一瞬で……? なんというお強さ……。勇者さまとは思えない強さですわ」

「当たり前だ! 我輩は究極の魔王なのだからな! ふははははっ!」


 ユーシアの高笑いが村に響く。



 その時、別の声が聞こえた。

「う……ううっ」

 ぼろぼろになったリスティアが大通りの地面に倒れ、うめいていた。


 ユーシアの眉間にしわが寄り、鋭い目付きで少女を睨む。

「な、なんだと……? 我輩の魔法に耐えた、だと!?」



「くっ……あたしは……魔王様にお仕えするのが使命……なのよ」


 リスティアは震えながらも手元の傘を掴むと、杖のようにして立ち上がった。

 人通りのない大通りに風が吹き、砂煙を巻き上げていった。

ジャンル別3位、日間6位、ありがとうございます!

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