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第7話 魔王さまの望む『強い』少年!

 二階建ての大きな屋敷。

 教室ぐらいの広さがある食堂に、ユーシア以下、子供たち全員が揃っていた。

 十人がけの大きなテーブルに全員座っている。


 アンナが皿を持って厨房から出てくる。

「さあ、ユーシアさま、お召し上がりください」

「ほう。これがブラッドソーセージか」


 黒いソーセージを載せた皿が目の前に置かれた。

 ユーシアはフォークで差して、しみじみと眺めつつ口へと運ぶ。

 ぱくっと食べて数回噛んだ。



 次の瞬間、ユーシアの目が落ちそうなほど限界まで見開かれる。

「ふぉぉぉ!! なんということだ! ねっとりと濃厚でありながら、臭みが消えて上品な味に仕上がっておる!」


 アンナは微笑みつつ、パンの入ったバスケットをテーブルに置く。

「パンと一緒に食べられても美味しいですわ」

「ぬ。パンもあったのか」


「いつもは一日一回なのですが、大量に食料補充ができましたので」

「ふふん。飢えては戦いにならんからな! 皆の者、たらふく食べるがいい!」



「「「わーい!」」」

 今までユーシアに遠慮して手をつけていなかった子供たちが、笑顔でご飯を食べ始めた。

 パンにスープに肉料理。


 一番小さな少女フルールも太いソーセージを頬張って噛みちぎる。

 ユーシアも両手を使って豪快かつ器用に食べた。


 血のソーセージだけではなく、レバーソーセージなどもあった。

 これら保存の利かない部位の料理で、食卓はいつになく豪華。

 にぎやかな笑顔が続いた。


       ◇  ◇  ◇


 お昼を過ぎた屋敷の前。

 ユーシアとアンナが立っていた。


 入り口前に並ぶ子供たちが手を振った。

「いってらっしゃいませー、魔王さまー」「いってらっしゃい、おかーさん」「早く帰ってきてね」 



「後かたづけお願いね。それじゃ、行ってきます」

 アンナは優しく微笑んで手をふり返した。


 ユーシアは腕組みしながら子供たちを見渡す。

「我輩の作った言語表と数字、そして計算方法などをしっかりと勉強するがよいわ! ふはははっ」

 紙の束に書き連ねていたのは、勉強の内容だった。


「うん!」「がんばる~」「こわいよう」「でも、やらなゃ!」

「ふはははは! 我輩が不在でも恐怖の影響は残るようだな! 我輩の影に怯えて暮らすが良いわ!」

 ユーシアは豪快に笑いつつ、黒いマントを翻して歩きだした。



 ――と。

 広場を出て森の小道を歩いていくと、途中に少年サジェスがいた。

 穴を掘ったらしく、掘り返した土の山を穴にかけている。


 ユーシアがうなずく。

「ふむ。あのコボルトどもの死体を埋めているのか」

「はい、ユーシアさま。血の匂いで魔物が寄ってきちゃうから」


 アンナが微笑んで誉めた。

「まあ、よく気づいてくれましたね。偉いですわ、サジェスちゃん」



 しかしユーシアの目が鋭く光る。

「――で。鎧と剣はどこにやった?」


「え?」「あ……っ」

 驚くアンナと、ビクッと体を震わせるサジェス。


「我輩の目をごまかせると思ったか? 穴の規模に比べて土の盛り上がりが少ない。コボルトの鎧をはずしたな」



 サジェスは青ざめた顔で震え上がる。

「ご、ごめんなさい……」


「謝る必要はない。我輩は、鎧と剣をどうした? と聞いておる」

「取りました。二つの鎧を合わせれば修理できそうと思って……コボルトの体格なら僕のサイズにもぴったりだったから……」


「剣と鎧を欲したのは、なぜだ?」



 サジェスは震え上がりながら、ぽつぽつと話す。

「守りたかった……さっき、見てるだけで、何もできなくて……だから、強くなりたくて……僕は、今まで見てるだけで。……誰も守れなかった……から」


 アンナが美しい顔を悲しげに歪めた。

「サジェスちゃんは、両親と村を魔王姫軍に……」



「そうか――だが」

 ユーシアは近づき手を伸ばした。


 アンナが手を合わせて謝罪する。

「魔物を倒したのはユーシアさま。ならば魔物の持っていたものはユーシアさまのものです。それを奪ったのは悪いことですが――どうか、許してあげてくださいっ」



 しかし、ユーシアは口の端を歪めると、サジェスの頭に優しく手を置いた。

「偉いぞ。よくやった!」

 そう言って柔らかな髪を撫でた。


 サジェスは信じられないといった目つきで目を丸くする。

「お、怒らない、のですか?」


「なぜ怒る必要がある? そなたは強くなろうと願うだけでなく、行動に移した。強くなりたいと夢を語るだけで何もしない奴の百倍偉い――そういえば最初に名乗り出たときも強くなりたいと言っておったな」


「はい、強くなりたいです!」



 ユーシアは力強くうなずいた。

「うむ。頑張るがよい。自ら考え、行動するものは強くなる。新生魔王軍最初の隊長にふさわしい男だ」


「あ、ありがとうございます、ユーシアさま!」

 怒られるどころか誉められたためか、サジェスは頬を赤く染めて目を潤ませる。



 アンナもほっとして、大きな胸を撫で下ろしていた。

「さすがですわ、ユーシアさま。自分のものを取られても許すどころか誉めるなんて」


「ふふんっ。欲しいものは自分の手で奪い取ってこそ価値がある! リスクや失敗を恐れて何もできぬダンゴムシなど、生きる資格などないわ!」



「ええ~! ……サジェスちゃん、これからは欲しいものが合ったら、ちゃんと事前に言うのですよ。泥棒になってはいけませんからっ」


「はい、アンナ母さん。ごめんなさい」

 サジェスは真剣な顔で頭を下げた。髪が柔らかく垂れた。

 


 ユーシアは不機嫌そうに眉をひそめる。

「泥棒も極めれば、それも一つの才能なのだがな……まあ、よいわ。それよりサジェスよ。諦めるでないぞ」


「はい! 練習して立派な剣士に……」



 ところがユーシアは静かに首を振った。

「そうではない。たとえ剣術が上達しなくても、それ以外を諦めるでないということだ」


「えっと……魔法使い、ですか?」


「剣と魔法だけでない。この世にはいろいろな『強い』があるのだ。商人や盗賊だって極めれば立派な『強い』だ。――職業だけでないぞ。例えば昔、我輩の部下に剣や魔法どころか、おつりの計算すらできない男がいた」

「はあ……」


「しかしその者には手紙を書く才能があった。我輩が見出したのだ。そして相手を震え上がらせつつ優しい言葉をかけた手紙を送りつけることによって、3つの城を無血開城させた……この男、弱いか?」



 サジェスはふるふると素直に首を振る。

「いいえ、とっても強いと思います」


「だろう? ――つまり、そういうことだ。何に秀でているかわからない以上、一つのことでうまくいかなくても別の道を探ればよい。だから『強い』を諦めるな――期待しておるぞ、サジェスよ」


「は、はい! ユーシアさま!」

 サジェスは感激に目を潤ませて応えた。


 ユーシアは、うむっと深く頷き、大股で歩き出す。

 後ろでは何度もサジェスが頭を下げて見送っていた。



 木漏れ日の差す、深い森の小道。

 隣を歩くアンナがそっと寄り添ってくる。

「さすがユーシアさまですわ。わたしは感激いたしましたっ。――ひょっとしたら今までで一番の勇者さまかもしれません!」


「ふんっ! まだ言うか。我輩は魔王! 魔王の部下としての道理を説いたに過ぎんのだ! これからもおぞましき教訓、格言に震え上がるがよいわ! ふははははっ!」


 胸を反らして高笑いするユーシアを、アンナは頬を染めて微笑みを浮かべる。

「そんなこと……決してありません。ユーシアさまは立派なお方ですわ」


 アンナの呟きは、ユーシアの高笑いに消されて届かなかった。

 まだ2日で7話しか書いてないのに、ジャンル別8位、日間18位に入りました!

 みなさん、ありがとうございます!

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