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エピローグ

 晴れた青空に白い鳩が飛ぶ。

 アルバルクス王国の王都フェリクは華やかな喧騒に包まれていた。

 ユーシアたちを乗せた屋根のない馬車は大通りをゆっくりと進んでいく。


 道の両側には大勢の人々が詰めかけて声援を送る。

「魔王姫を倒してくれてありがとう!」「すごいです、ユーシアさま!」「ユーシア様のおかげで世界は救われました!」

 ユーシアは手を振ることもなく、脚を大股に開いて泰然と座っている。


 肩にはまだエメルディアを担いでいる。逃がさないためかもしれなかった。


 民衆に答えないユーシアの代わりに、部下のリスティアやシルウェスが必要以上に笑顔で愛想を振りまいていた。



 パレードは進み、街の中心にある城へとくる。

 ユーシアは城の中庭に詰めかけた民衆に対して、二階のバルコニーから相対する。

「フハハハハッ、世界を我が手に取り戻したぞ! エルフ国も獣人国も魔族領すら我輩の傘下になった。この偉大なる我輩を称えるがよい、愚民ども!」 


「「「ユーシアさまぁぁぁ!」」」

 愚民呼ばわりされた意味を理解しているのかどうかも怪しい勢いで歓声を上げた。



 ユーシアは片手を上げて静かにするよう伝える。

 人々はしつけされた犬のように、ピタッと口を閉じた。


「貴様たちは我が配下としてよく戦い抜いた。困窮しながらも諦めなかったその心意気、褒めてつかわす。よって、我輩は褒美として貴様たちに約束しよう。我がユーシア帝国は史上最も繁栄する国になると!」


「「「おおお!」」」

「ありがとうございます!」「なんとお優しい!」「我らにもねぎらいの言葉を下賜されるとは!」

 人々は喜びで沸き立つ。



 またざわめきが収まると、ユーシアは肩に担いでいたエメルディアを手に持った。

 エメルディアが眉根を寄せて怪訝な顔をする。泣き止んではいるものの、頬にはまだ涙の跡があった。

「ん? な……なんじゃ?」


 バルコニーに片足をかけて、首根っこを掴んでぶら下げたエメルディアを高々と掲げる。

「その繁栄の源こそ、この化け物! 魔王姫エメルディアだ! 喜ぶがいい!」



「「「ええええええ!」」」

「倒したんじゃなかったのかよ!」「いったいどうゆうことだ!?」「ほんとにあの子が魔王姫? うそ、やだ、殺される!」


 魔王姫がまだ生きていると知って、人々は悲痛な叫び声を上げた。怯えた顔で逃げようとする。

 しかし庭へ満員電車並みに詰めかけていたため、逃げ惑うこともままならず、ますますパニックに陥る。


 まるで戦場のような惨状。



 それを安全なバルコニーから見下ろして、ユーシアは愉快そうに高笑いする。 

「ふははははっ! 見ろ、人がゴミのようだ! よいぞ、よいぞ~、その怯え逃げ惑う姿。我輩の支配下で安寧に過ごせると思った大間違いだ。これからも地獄を味わい続けるがいい! フハハハハハッ!」


「なんてことをされるのですかっ、ユーシアさま!」

「妾は化け物ではないのじゃっ」

 アンナとエメルディアが猛烈に抗議したが受け入れられなかった。


 ただ、参列していた元国王にして現在は宰相を務めるセーラム7世だけが「ほほう、なるほど。さすがはユーシアさまだ」とほほ笑んでいた。



 そして凱旋祝賀会もそこそこに、ユーシアによって傷ついた国土の復興がおこなわれていくことになった。


       ◇  ◇  ◇


 ある晴れた日のこと。

 見渡す限りの田畑の片隅で、白いドレスを着た幼女が泣きそうな顔で粘土をこねてはマネキンのような人形を作っていた。

 形ができると魔力を注いで動かしていく。


 エメルディアだった。

 作った人形は農地へと向かい、畑を耕していく。


 人形の出来を確認しては、ぐずっと鼻をすすりあげる。

「ひどいのじゃ……人使いが荒すぎなのじゃ……今日中にあと500体なんて無理なのじゃぁぁ」

 


 そこへ黒いトカゲ――リスティアに乗ったユーシアが黒マントを翻してやってくる。

「ふんっ、どうしたこわっぱ。手が動いてないぞ」

「多すぎるのじゃ! 手が痛い、足が痛い、もう働きたくないのじゃ!」


「ほう、もう弱音を吐くか。我輩と対峙した時に、光とともに出した山のような人形の群れはどうした?」

「あんなこと毎日やってたら死んでしまうのじゃ!」

 ちっちゃなこぶしを握ってぶんぶんと振る。まるで駄々っ子だった。



「まあ、やれるだけやればよい。ここは新しい農地なのだからな」

「くぅ……人使いが荒いのじゃ」 

 ぷくっと頬を膨らませては、また粘土をこね始める。


 リスティアが目を細めて笑いつつ言う。

「まあまあ。今はどこも人手不足だから、人形の手伝いは助かっちゃいます」

「納得がいかんのじゃ」


 ユーシアがリスティアの背中でしたたかに笑う。

「なんせ荒らされた農地の復興と、街や街道の修繕は急務だからな! まだまだ人形を作ってもらうぞ」


「魔王の生きざまを教えるなどと甘言で誘ったのは、妾を国土の復興に使うためではないのか!?」

「それも策の一つだ、ぬかったなエメルディアよ、フハハハハッ!」

 ユーシアは胸を反らせて高笑いした。


 高い空へと豪快な笑い声が響いていく。


 こうして着実に世界は元に、いやそれ以上に繁栄していった。

 単純労働力が無尽蔵に手に入るのだから当然と言えた。



 そして、このエメルディアを生かして復興に利用させると言うことが、ユーシアの名をさらに高めることになった。

 魔王を倒すだけでなく、改心させて従えてしまった史上最高の勇者として。

 実態は全然違うのだけど。


       ◇  ◇  ◇


 それから月日が流れて国は発展した。


 ユーシアは今日も隠れ家的な魔王城(孤児院)で朝食を食べる。

 子供たちと食堂に囲みつつ、山盛りのコーンフレークに牛乳をかけて。

「我輩にとっては人心掌握や世界征服なぞ、朝食に等しい――フハハハハッ」

 スプーンで豪快にすくって、バリバリと音を立てて食べる。


 その迫力に子供たちは手を止めて呆然と見つめる。

「さすがユーシアさま~」「豪快なのです」「つおい!」



 するとアンナが修道服を揺らして傍に来た。デザインが少し変更されている。ユーシアの名前の頭文字が縫い付けられてあった。

「ユーシアさま、お急ぎくださいませ。今日はユーシア教の設立セレモニーですわ」


「ふふん。世界を助けなかった神々どもへの信仰なぞ、すべて我輩が奪ってくれる! ユーシア教こそ、邪悪なる世界への第一歩だ!」


「はい、ユーシアさまこそが信じるにたるお方ですわ」

 アンナは大きな胸に手を当てて慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。



 すべてはユーシアの名のもとに。

  

 ただ魔王として世界征服したはずが、どこまでも勇者としてあがめられた。

 が、ユーシアは特に気にしなかった。支配したらおんなじことなので。



 世界はユーシアの豪快かつ大胆な発想によって繁栄していく。

 そして今日も世界のどこかで高笑いが響くのだった。

 


 『旧魔王VS.異世界魔王!~世界のすべては我輩のものだ!~』完


お疲れさまでした。これにて終了です。

途中、五か月ほど間が空いて申し訳ありませんでした。


ちょっと書籍化の仕事や私生活が忙しかったのもあるのですが、急に書けなくなるもんですね。

でもなんとか完結させられてよかったです。


ユーシアのキャラクターはやっぱり書いてて楽しかったですね。

エメルディアもこれから可愛くなりそうな予感がしました。いや、たんに僕がのじゃロリが好きなだけかな。


さて、今は新作を書いています。

「おっさん勇者の劣等生!~勇者をクビになったので自由に生きたらすべてが手に入った~」

https://ncode.syosetu.com/n8256gj/


評価されなかったおっさん勇者が、他人のために生きるのを辞めて自分のためだけに生きたらすべてが好転していく話です。


それではよろしくお願いします。

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旧魔王VS.異世界魔王! 世界のすべては我輩のものだ!
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