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第64話 最終決戦! 旧魔王Vs.異界魔王!

 魔王姫城の地下にある広大な人形工場。

 旧魔王ユーシアと異界魔王エメルディアによる、巨人人形と巨大石像の戦いが始まっていた。


 エメルディアの操るスリムな体躯の古代巨人人形エンシェントギアドールが俊敏な一撃で持ってユーシアの召喚した闇魔神石像ダークゴーレムを床に倒した。


 体長18メートルを超える巨体であるため、倒れただけでも衝撃は大きかった。



 エメルディアの幼い声が響く。

「やったのじゃ! 邪魔な魔王をやっつけたのじゃ!」


 が、舞い上がった土煙の中から、ずんぐりした黒い巨体が立ち上がる。

 肩には相変わらずユーシアが乗っていた。ただし埃をかぶっており、髪は乱れている。

「ふふん、やってくれる――この巨体をこうも迅速に動かすとは、指示を出して動かすゴーレムでは対処が難しいな」



 巨大人形ギアドールから勝ち誇った声が響く。

「当然なのじゃ! ギアドールは妾の最高傑作! かなうものなどおらぬのじゃ!」

「果たしてそうかな? 指示での対処が難しいなら、こちらも直接動かせばよい」

「な、なんじゃと……っ!」


 ユーシアは不敵な笑みを浮かべつつ背中のマントへと手を突っ込む。


 そして2本のレバーがアンテナのように立つ、四角い鉄の箱を取り出した。箱の正面には三つのダイヤルがついている。



 ユーシアは高笑いしながらレバーを握りつつ、ダイヤルを回す。

「フハハハハッ! これこそがゴーレムを素早く動かす魔法の品! 由緒正しきリモコン28号だ!」

「そ、そんなボタンとレバーの少ない道具で何ができると言うのじゃ!」


「なんでもできる! ――いくぞぉ!」

 ユーシアは満面の笑みを浮かべつつ、リモコンを操作した。


 ゴーレムの背中からロケットのような炎が噴射される。

 先ほどとは別格の速度でギアドールへ肉薄する。

 至近距離で左足を踏み込み、右腕で殴る!


「な、なんじゃと! 早い!」 

 ギアドールは戦斧の長い柄を両手で持ってパンチを防ぐ。


 ガァンッ! と甲高い音が響いて戦斧の柄が曲がった。



 ゴーレムの肩の上でユーシアがのけぞって笑う。ガチャガチャとリモコンを操作しながら。

「フハハハハ! どうだ見たか! この非常識な強さは!」

「なぜ、そんなに動く! ――くぅ! まだなのじゃ!」


 ギアドールは一歩後方へ引くと同時に、使用不能になった戦斧を投げつける。

 ゴーレムは片手で払った。しかし正面ががら空きになる。


「もらったのじゃぁ!」

 ギアドールは左肩部に設置されていたプログレッシブナイフを抜き放って突進した。

 ナイフの刃が微細に振動して輝きを放つ。



「ほう、なかなか――だがこんなこともできる」

 ユーシアは肩の上で、格好つけながらリモコンのダイヤルを回す。

 

 ゴーレムの胸や腰のあたりから白い蒸気が噴き出して、直立姿勢のまま横移動した。

 ギアドールの突進は難なくかわされてしまう。


 エメルディアの悔しげな声が響く。

「くっ! ホバー移動じゃと! どこまででたらめなゴーレムなのじゃ!」



「我輩のゴーレムが普通なはずがない、フハハハハッ! ――さあ、今後はこちらから行くぞ!」

 ユーシアがリモコンのレバーを倒した。

 ゴーレムはギアドールの後ろから掴みかかると、思いっきりぶん投げた。


 石柱を何本もへし折って巨大人形ギアドールは倒れる。すさまじい轟音を立てた。

「ぐぅっ!」

 エメルディアの苦し気な声が響く。



「ふんっ。乗り込み型の弱点は横転しただけでも操縦者にダメージがいくことだ。しばらくは動けまい。――これで終わりだ」

 ユーシアは残忍に笑ってボタンを押した。


 ゴーレムの背中から炎が噴き出し、天井近くまでジャンプする。

 そして、膝からギアドールの腹に落ちた。


 ズドゴォォォ――ンッ!


 もうもうと煙が立ち込めて、衝撃波が辺りの人形を倒していく。


 ゲバルトやシルウェスが顔を腕で隠した。

「くっ! どうなった?」「ユーシアさま!?」



 煙が晴れると、お腹のあたりから上半身と下半身に分かれたギアドールが横たわっていた。

 少し離れた場所に白い服を着た幼女エメルディアが床に転がっている。

 大勢いた人形たちは、動きを止めるかその場に崩れ落ちていた。


 ユーシアはゴーレムの肩から飛び降りると、どこからともなく櫛を取り出して乱れた髪を整える。

 そして、ゆっくりと床にうずくまっているエメルディアに近づいた。

 大股で一歩ずつ。



 エメルディアは赤子のように丸くなって、ただ泣くばかりだった。


 傍までくるとユーシアは見下ろしながら言った。

「ただの子供が我輩相手に善戦したことは褒めてやろう。しかし、狙いが悪かったな」

「ね、狙い……何の話なのじゃ……」

 大粒の涙を流してユーシアを見ようともしない。


「ギアドールの性能は良かった。あとはゴーレムとまともに戦うのではなく操縦者を倒すか、もしくはリモコンを破壊すべきだったな。さすればゴーレムは力を出せず、負けていただろう」


「そ、そんなこと言われても、どうせおぬしは倒してしまうのじゃろ」

 恨みを込めた目でユーシアを見上げてくる。



 ユーシアは不敵な笑みを浮かべた。

「ふんっ、当然だ。我輩こそが最強にして最悪なのだからな!」

「本当に最悪じゃ……妾はもう、何もかも失ってしもうた……」


「そうだな。しょせん、貴様は魔王の器ではなかったということだ」

「ぐっ……では、どうすればよかったのじゃあ! あと少しで手に入れられた世界がこの手から零れ落ち、部下には騙されていた! おぬしだって妾の立場になればどうしようもなかろう!」



 ユーシアが思案しながら顎を撫でる。

「ほう? では聞こう。次点の策は?」


「じ、次点……?」


「大人子供関係なく、貴様は魔王姫軍を従える最高責任者! 部下の失敗や失策があっても、常に最悪の事態を考えて、次の方向を示さねばならん。失敗を挽回させるのか、それとも死地は捨てて別の地で優位を得るのか。そういった次善の策が用意できてこその王であり、真の魔王だ!」

 黒マントを翻してユーシアは大見えを切った。



 エメルディアは呆然と見上げていたが、次第に幼い顔がくしゃくしゃに歪んでいく。

 最後には涙をボロボロこぼしながら、張り裂けるように叫んだ。


「そんなこと……。そんなこと……っ! 誰も妾には教えてくれなかったのじゃぁぁあ!」


 うわぁぁん、と床に丸くなって全力で号泣した。



 ユーシアは腕組みをして泣き叫ぶエメルディアを見下ろしていた。

 すると、アンナが修道服を揺らして傍へ来た。

「ユーシアさま、どうされるのでしょう? この子を倒されるのでしょうか?」

「倒しても別に構わん――が、それではただの勇者になってしまうな」


 ユーシアはおもむろに手を伸ばした。

 泣きわめくエメルディアを掴むと、軽々と肩に担ぎ上げる。



 エメルディアが細い手足をバタバタと動かして暴れた。

「何をするのじゃ!」

「学べばよい」


「え……っ?」

「知らなかったというのならば、我輩の背中を見て魔王とはなんたるかを学べばよい! 最初にして最高の魔王ユーシアさまが貴様に魔王としての生き様を教えてやろう! フハハハハッ!」



 この言葉にはさすがにエメルディアも泣き止んで目を丸くした。

「わ、妾を魔王にする、じゃと!? 今倒さねば、いずれそなたを殺めようぞ!」


「構わん! それもまた一興! いつでも寝首を掻きに来るがいい! ただし我輩は常に最悪の事態を想定して動いていることを忘れぬことだな、フハハハハッ!」


 エメルディアは金色の瞳をまん丸に見開いていた。

 しかし、次第にぐずぐずと泣き出してしまう。

 先ほどまでとは違う、さめざめとした泣き方だった。



 その小さな背中をアンナが優しく撫でる。

「ユーシア様は偉大な方ですわ。今はお辛いでしょうが、きっとうまくいきますわ」


 ユーシアが怪訝そうに眉をひそめてアンナを見る。

「貴様は誰の味方だ? 魔王姫を生かそうとしているのに怒りもしないとは」

「私は……ユーシアさまの味方ですわ」

 金髪を揺らして屈託のない微笑みを浮かべる。どこかしら慈愛を感じさせた。



 ユーシアも不敵な笑みで答える。

「もう我輩を勇者呼ばわりしないのか。ならば我輩の勝ちだな」

「ええ、ユーシアさまは勇者でも魔王でもありません」


「なんだと?」

 眉をひそめて怪訝な顔をしたユーシアに、アンナは屈託のない微笑みを向ける。

「ユーシアさまは既存の概念では定義できない、とても素晴らしいお方ですわ」


 その言葉にユーシアは目を見張ったが、すぐに胸を反らして笑いだす。

「ようやく我輩の偉大さが伝わったようだな! いいだろう、アンナ。貴様を一生傍に置いてやる!」

「まあ! ありがとうございます、ユーシアさま!」

 アンナはユーシアの胸に飛び込んで抱き着いた。ふくよかな胸がたわわに押し当てられる。



 するとリスティアとゲバルトが傍へ来た。

「終わったね、ユーシアさま。さすがですっ」


「このゲバルト、想像を絶する器の広さに感服いたしましたでございます。もう一生あなた様の犬になることを誓わせてください」

 ゲバルトは片膝を突いて頭を垂れた。


「ふふん、よくわかっておるではないか。さすが我輩直属の部下……ん? シルウェスはどうした?」

「えっ、先ほどまで戦っておりましたが」



 きょろきょろと辺りを見回すと、人形のがれきに埋もれるようにしてシルウェスが伸びていた。

 リスティアが口を押えて悲鳴を上げる。

「え? 死んだ!? シルウェスさん、死んじゃった!?」


 ゲバルトが飛ぶように走ってシルウェスを助け起こす。

 エルフの姫はもふもふの銀毛に抱かれて、ぐったりと気絶している。

「大丈夫です、ユーシアさま。息はあります」


「ディアボロスに相当やられていたからな。よく最後まで戦ったものだ。――アンナ、回復魔法で治してやれ」

「はい、ユーシアさま」

 アンナがシルウェスに向かう。



 それから雷巨人族の女ヤルンストラが傍へ来る。

「ユーシアさま、おめでとうございます。素晴らしいご活躍の数々、感激いたしました……この精神操作がなくなれば、必ずやユーシア様にお仕えしとうございます」

「うむ。存分に働くがよい、ふははっ」


 シルウェスの治療が終わるとゲバルトが背負った。

 銀毛に埋もれて気持ちよさそうに寝ている。やつれた頬に燃えるような赤髪がかかっていた。



 ユーシアは荷物のようにエメルディアを肩で担ぎつつ、大股で歩き出した。

「さあ、帰るぞ。偉大なる魔王ユーシア様の凱旋である!」

「「「はい!」」」


 ユーシアは部下を従えて、魔王姫城をあとにした。


 城の外へ出ると、明るい日差しがさんさんと降り注ぎ、青空はどこまでも高く晴れていた。

 すでにもうユーシアをたたえる人々の声が聞こえてくるかのようだった。

次話は書きあがり次第、更新。たぶん夜。遅くても明日更新。

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