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第60話 エメルディアと裏切者

 魔王姫城の地下と思われる広い内部を、外周の階段に沿ってヤルンストラは上っていった。

 そして数階分の高さを登ると大きな扉の前に到着した。


 彼女の背中に乗るユーシアが、目の前の扉を薄目で見ながら呟く。

「ふふん。感じるぞ、なかなかの魔力を持つ存在を――この奥にエメルディアがいるのだな?」

「はい、ユーシアさま。ここが人形工場です」

「よし、行け。ばれるなよ」



 ヤルンストラは大きな扉を押して中へと入った。

 両側の壁がかすむほど広い室内。石畳の床。柱はなく、天井はとても高い。

 壁際には作りかけの人形が並べられていて、石や木材も無造作に積まれていた。

 倉庫のように殺風景だった。

 

 その作業台のそばに子供用のイスに座っていた幼女が立ち上がる。

「お! ついにユーシアを捕まえてきたのじゃな。よくやったヤルンストラとやら。早く台の上に載せるのじゃ」


「は、はい。エメルディアさま」


 ヤルンストラはゆっくり歩いて広間の中央に一つだけある作業台へと向かう。

 ユーシアはまた白目をむいて意識を失ったふりをしていた。



 作業台の傍には魔法のスクリーンがあって、激しい映像を映し出していた。

 ディアボロスとシルウェスが戦っている。


 ヤルンストラが思わず足を止めて映像に見入ってしまう。

 すると、エメルディアがなぜか偉そうに胸を反らして言った。

「ふふん。今、ディアボロスが戦っておるのじゃ。ユーシア亡き今、人間の国など砂の城のように崩れようて。楽しみなのじゃ」


「まあ……かわいそうです」

「ふんっ。ユーシアなんぞに従った罰なのじゃ!」

 エメルディアは小さな拳を振り上げて、ぷりぷりと怒った。



 ユーシアは作業台の上に寝かせられる。

 薄目を開けて映像を見ていたが、画面に集中しているエメルディアは気づかない。


「さっさと終わらせて、手術のために帰ってくるのじゃっ」

 静かに眠るユーシアと沈うつな表情を浮かべるヤルンストラの中、エメルディアのうきうきした声だけが響いていた。


       ◇  ◇  ◇


 王城2階にある人気のない廊下。

 そこでシルウェスは魔王姫軍四天王にして最高司令官のディアボロスに戦いを挑んでいた。


 シルウェスは風のように軽やかに舞ってディアボロスを切りつける。

 魔獣と化した腕から繰り出される一撃も紙一重で避けていた。

 獣のかみつく攻撃を下から鮮やかにかわして駆け抜ける。

「我が名に従う風の精霊よ、我が剣となりてすべてを断ち切れ!」


 シルウェスの速度が上がった。

 ディアボロスは獣の腕を蛇のようにしならせて攻撃する。


 しかしシルウェスは急に反転した。

「ここだ!」


 ――ザンッ!


 獣の首を真横に斬った。

 醜い頭が宙を舞う。



「やりますねぇ」

 ディアボロスは腕を切られたというのに涼しい顔のままだった。


 シルウェスは不適な笑いを浮かべつつ、ディアボロスめがけて疾駆する。

「その余裕、いつまで持つかな?」


「残念です。切ると増えるのですよ」

「えっ!?」


 とっさに彼女は肩越しに振り返った。

 ちょうど切られたところから2本の腕が伸びたところだった。

 水が噴き出すような勢いで胴が作られて、先端にはただれたような醜悪な獣の顔が形成された。


 呆気にとられたシルウェス。

 その一瞬の遅れが命取りとなった。


 獣の胴が素早く伸びて蛇のようにシルウェスを襲う。

「しまった!」

 シルウェスは逃げるまもなく手足を絡めとられて宙づりとなった。


 カラン……と彼女の持っていた細剣が音を立てて廊下に落ちた。


 獣の首がシルウェスの体を滑っていく。

 ジュルジュルと不気味な音を立てて紫色の長い舌で彼女の肌をなめた。


「いい眺めですねぇ……美しいものをより美しく……次の義体のサンプルにしてもいいかもしれません」

「くっ! 辱めるぐらいなら殺せ」



 そこへ長いローブに足をもつれさせながら魔術師長のモンターニュが駆けてきた。

 息を切らせつつ、しわがれた声で叫ぶ。

「なにをしている、ディアボロス!」


「なにって、見てわかりませんか? 残党の始末をしているのですよ」

「話が違う!」


「ユーシアを倒したら、という約束でしたので。彼はまだ生きています」

 ディアボロスは左手で口元を隠して、くつくつと笑った。



 アンナが金髪を乱して追いついた。はぁはぁと荒い息を吐く。

「や、やはりモンターニュさまは……」


 モンターニュは目を血走らせて叫んだ。

「ユーシアはただの魔王ではない! 世界の法則や存在すらも破壊する魔王だ! あれは生きていてはいけない!」


「だからといって魔王姫軍と手を組むなんて! 間違っていますわ!」

「くっ! やはり魔法障壁を張り直して魔王姫軍を手引きしたのはお前か!」

 シルウェスは悔しげに赤い唇をかみしめた。



 ディアボロスは妖艶な流し目でアンナやモンターニュをみる。

 それからとらえたシルウェスを見た。

「やれやれ。そろそろ人形化手術を始める頃合いです。帰りますので、手を出さないでくださいね。彼女が死んでしまいますよ」


 シルウェスにから編みつく蛇の胴体が締まった。

「ぐっ! ――貴様……王都を攻撃しておきながら……」

「あれはただのおとりですよ。ユーシアの力さえ手に入れれば用済みです――さあ、行きますよ」

 下半身の蛇体を波打たせて歩き出す。



 アンナが目尻を下げて泣きそうな顔でつぶやく。

「ああ……ユーシアさま、いったいどこに……」

「魂はその床ですね」

「えっ」


 床に焦げ付いた魔法陣が刻まれている。

 アンナはそばまで駆け寄ると膝から崩れ落ちた。

 涙目になって床をなでる。

「そんな……ユーシアさまっ。ユーシアさま……! わたしは信じておりますわ……ユーシアさまが勇者だと――ですから、死なないでください、ユーシアさま!」



 そんな彼女を横目でみながら、ディアボロスは笑っていた。

 シルウェスを捕まえたまま、蛇体をずるずると這わせて出ていった。

書きあぐねてます。

次話はできるだけ早く出したいと思います。

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