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第59話 夢3と王都攻防

 薄暗い魔王姫城の地下。

 雷巨人のヤルンストラがユーシアを背負って長い階段を上っている。


 一方でユーシアは死んだふりをしながら、封印された瞬間に見た記憶を思い返していた。

 昔々の懐かしい日々の記憶。

 あるいは夢を見ていたのかもしれなかった。

 それはこんな情景だった。



 暗雲立ちこめる平原。

 ドラゴンに乗ったユーシアは黒マントをなびかせて軍団を引き連れて暴れ回っていた。

 今よりも若々しい顔。その分、刃物のように鋭い危うさがあった。


「ふははははっ! 壊せ、燃やせ! この無意味な世界など消しさってしまえ!」

「魔王さまが楽しんでおられる!」「次はあの街を標的とするようだ!」「悪逆の限りを尽くせぇ~!」

 千人を超える軍団は野蛮な叫び声をあげてユーシアの後に続いた。



 しかしユーシア率いる軍団の前にまばゆい光が現れる。

「まぶしっ!」「何者だ!」「またかよ!」


 光は女性の形を取ると、激しく怒鳴った。

「なにをやっているの、ユーシア!」

「ん? また邪魔しに来たのか。こりんやつだな、光の神オーロラ――見てわからんのか? 世界征服だ、ふははははっ!」


「せっかくみんなで作った世界をめちゃくちゃにして! なにがおもしろいのよ!」


「面白いとも! つまらぬ世界を面白く作り替える! 最高だぞ!」

「ほんとにあなたは、なんでもダメにしてしまうことしかできないのね」

 オーロラは美しく輝く顔に呆れた表情を浮かべた。



 ユーシアはぎらぎらと目を光らせて、凄惨な笑みで見返す。

「言ったな? 我輩の作る世界が本当にダメかどうか、身を持って教えてやろう、フハハハハッ!」


「――っ! そんな勝手は許しません! 平和な世界こそが生きとし生けるものすべてが望むものなのです!」

「ほほう? だったら止めてみるがいい。フハハハハッ!」


 オーロラはぎりっと奥歯を噛んで睨みつける。

「話し合いは無駄と言うことですね。いいでしょう、私は平和な世界のために戦いましょう!」

「こしゃくな! 我輩の前にひれ伏す通いわ!」



 ユーシアは黒いオーラを全身から放った。

 そしてドラゴンの背を蹴ってオーロラへと襲いかかる。

 

 対する彼女は体を包む光を増してユーシアへとつっこんでいった。

 光と闇がぶつかり、激しい衝撃波を生み出す。

 巻き込まれた軍団が情けない声を上げて巻き込まれていった。



 回想を終えたユーシアは薄目を開けて前を見る。

 果てが見えないほどだだっ広い部屋。階段を上るヤルンストラ。

 階段のずっと上には大きな扉が見えていた。


 ――魔王姫を倒すのはもうすぐ。

 世界を手に入れかけていた魔王姫を倒すことによって、この世界は我輩のものとなる。

 神々どものやってきたもとは無駄だったな。


 くくくっ、とユーシアは笑いかけて、すぐに死んだふりに戻った。


 ヤルンストラは少しだけ首を傾げたが、すぐに長い階段を一歩一歩、ゆっくりと登っていった。 


       ◇  ◇  ◇


 一方その頃。

 人間の国、アルバルクス王国では。

 午後の日差しが暖かく降り注ぐ中、王都フェリクは混乱の極みの中にあった。


 原因は王都の南方に上がった土煙。

 次第に近づいてくるにつれて人々が慌てだした。


「敵襲だ!」「人形だ!」「魔物! ――巨人までいるぞ!」

「門を閉じろ! 戦闘態勢に入れ!」


 ゴゴォ――ォン……!


 大きな音を立てて西や南の街門が閉められる。

 しかし、まだまだ人通りの多い午後。

 入れなかった人が少なからずいた。



 西門の外側に取り付いて叩く人々。

「開けてくれ!」「中に、中に入れて!」

「北門はまだ開けてある、急げ!」

 弓を構えた兵士が街壁の上から叫んだ。 


 また南門の内側では番兵に向かっておばさんが涙ながらに叫ぶ。

「まだ外に子供が! うちの子が!」

「魔王姫軍が撤退するまで待て!」

「そんな!」



 南門の前に集まった人々は北側に回ることもできずにいた。

 魔物の群れが襲い掛かる。

「来てる!」「魔物が来てる!」「――いやぁ! 早く入れて!」


 先頭を駆けていた六本足の魔獣や翼の生えた魔物がよだれをたらして叫ぶ。

「ごちそうだぁ~!」「皆殺しだ!」「ひゃっはー!」



 ――と。

 人々の頭上に影が差した。


 ――ゴウッ!


 暴風が駆け抜けて人々の髪や服を揺らす。


 体重の軽い子供は耐えきれずに地面を転がった。

「え……なに?」

 転んだ姿勢で見上げる先には、銀色の光を放つ大男。


 振り下ろした巨大な剣は先端が地面に刺さっていた。

 辺りには真っ二つに切断された魔獣や魔物が転がっている。


 ゲバルトが街壁の上から飛び降りざまに大剣を振るったのだった。

 彼は大剣を構えつつ、肩越しに振り返る。



 一拍遅れて、可愛い少女が飛び降りてきた。

 片手には開いた傘を持ち、もう片方は広がりそうなスカートをしっかり押さえていた。

「とうちゃ~く」

「リスティア、人々を街の中へ」

「あいさぁ~!」


 傘を手の中へ吸い込むように消すと、転がっていた子供を抱え上げた。

「ふぇ? なにを」

「黙ってて。舌噛むから」

 両足で地面を蹴って飛び上がる。

「うわぁ!」


 壁を蹴ってさらに上へ。

 水直の壁を走るかの如く一気に登った。



 そして街壁の上で子供を降ろした。

「はい、終わり。町に隠れててね」

「あ、ありがとう、お姉ちゃん……」


「さあ~て、残りもやっちゃうよー」

 リスティアはまた気軽に飛び降りた。



 その間にもゲバルトの大剣は空を切る。

 そこにあった魔物胴体ごと。

 分厚く巨大な刃は、魔物たちをバターのごとく切っていく。

 


 すると、瘤だらけのトロールがゲバルトの前に立ちはだかった。ゲバルトより頭一つ大きい。

 四本の手には丸太を削り出したようなこん棒を持っている。

 ゲバルトを見下ろしつつ耳障りな低音で喋った。

「突撃師団長まで上り詰めたお前が裏切るとはな」


 ゲバルトは大剣をゆっくりと持ち上げつつ、鋭い眼光で睨む。

「魔王姫に心まで捧げたつもりはない。俺や世界を救えるのはユーシアさま、ただ一人」

「ほざけ、いぬっころが!」

「散れ」


 ゲバルトは大剣を素早く振って横殴りに切りかかる。

 しかしトロールは一本の丸太で大剣を払うように動かし、もう一本でゲバルトの頭を狙った。


 ところがゲバルトは急に手を引いた。剣撃の描く弧が小さくなる。

 その隙をついてトロールはこん棒で追撃した。ゲバルトの頭にこん棒が迫る。

 トロールの顔に勝利を確信した笑みが浮かんだ。


 ――が。

 顔をしかめたのはトロールだった。

「ぐっ! 目が!」

 トロールの顔にどす黒い血がついていた。

 

 ゲバルトが大きく踏み込みつつ言う。

「今切った毒トカゲの血だ。しばらく眼も開けられまい」

 剣についていた血を飛ばして目潰しをしたのだった。


「く、くそぉ!」

 トロールはむやみやたらに2本の丸太こん棒を振り回したが、大剣一閃。

 頭から股まで真っ二つになって倒れた。



 彼の後ろから場違いなほど明るいリスティアの声が飛ぶ。

「ゲバルト、全員退避させたよ~」

「うむ。俺たちも一度戻ろう。」

「あいさぁ~」

 リスティアがゲバルトを背負うと、また壁を駆け上がって街の中へと戻った。


       ◇  ◇  ◇


 激しさを増す戦いの中。

 年老いた宮廷魔術師長モンターニュは王都を囲む街壁の上にいた。


 戦いに来た様子ではない。

 しわだらけの顔に呆然とした表情で押し寄せてくる魔物の群れを見ている。


「は……話が違う……ユーシアを封印した後は攻めないはず……いや、邪魂封印が失敗したのか!? 問いたださなくては――」

 彼はふらふらとした足取りで町へと降りる階段へ向かう。



 すると下から上がってくる金髪のシスターに声をかけられた。

「モンターニュさん、お怪我はありませんか?」


「聖女どの……っ! いや、ワシは大丈夫じゃ……そ、それより、大変な事態になってしまいましたな、あはは」

 モンターニュは額に浮かぶ汗を必死に拭いながら答えていた。



 しかしアンナは静かな声で言った。

「モンターニュさん、疑いたくはないのですが……もしかして、魔王姫軍と取引をされてたのですか?」


「な、なにを言う! ワシは国を裏切るようなことはしておらん! ――ぬ? この魔力は……さらばじゃ!」

 モンターニュは年に似合わぬ素早さで階段を駆け下りていった。



「ちょ、ちょっと、モンターニュさん!」

 アンナは首をかしげた。


 その時、城のほうで爆発が起こった。

「え? ユーシアさま!?」

 アンナもまた、階段を下りて城へと向かった。

表紙が公開されました~!

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