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第56話 魔王姫軍の奥の手

 謁見が終わったあと、ユーシアは城の中を歩いていた。

 後ろをアンナやリスティア、シルウェスが従っている。


 シルウェスが進み出てユーシアの横に並んだ。

「ユーシアさま。大陸北方の状況についてお話したいことが」

「なんだ?」

「偵察させているエルフたちからの報告です。北方にいる魔王姫軍の魔物たちの様子がおかしいそうです」



 ユーシアはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「ほう。まあ、魔王姫軍四天王が次々とやられている状況だ。疑いの目を持っても当然だろう」

「ええ。謀反とまでは行きませんが、かなりの不満が溜まっているようです」


「ふふん。魔物たちは強い者になびくからな。あと一度、魔王ユーシアの名を轟かせれば、こちらになびく者も出てこよう……くくくっ。盗人エメルディアの思惑など粉々に粉砕してくれるわ! ふははは――ん?」


 広い廊下にさしかかったとき、ふいにユーシアが高笑いをやめて眉を寄せた。

 立ち止まって辺りを見渡す。

 壁に並ぶ大きな窓から午後の陽光が斜めに差し込み、爽やかに照らしていた。

 風が白いカーテンを膨らませるように入ってきている。



 後ろからアンナが不思議そうな声で尋ねた。金髪が風に揺れる。

「どうされました、ユーシアさま?」

「……ネズミが入り込んだか」

「え?」


 リスティアもスカートを揺らして驚く。

「ええ~! あのネズミたちが生きていたんですかぁ?」

「違う。誰かが進入したかもしれんということだ――シルウェスよ、魔法は得意だったな?」



 尋ねられたシルウェスが、姿勢を正して答える。

「はい! 精霊魔法以外にも知識だけはあります」

「ならば、この城や街の魔法障壁がどうなっているか調べよ」


「はっ、わかりました。今すぐに!」

 シルウェスはドレスの裾を翻して足早に去っていった。



 アンナが大きな胸に手を当てて不安そうに近づいてくる。

「ユーシアさま、何があったのでしょう?」

「何も変わりはない。が、どうも気になる……空気の肌触りが変わった程度だが」


「あたし、全然わからないや」

 リスティアが辺りを見渡したが、すぐに両手をあげて降参した。



 ユーシアは顔をしかめた。

「この状況、気に入らんな。こちらから攻めたいところだ。――ヤルンストラはどうしている?」


「二階の客室にいますわ」

「ふむ。行ってみよう」

 ユーシアはアンナとリスティアを従えて廊下を歩き去った。


       ◇  ◇  ◇


 城内二階の角にある小さな一室。

 扉の前にはゲバルトが見張りとして立っていた。

 ユーシアを見て、無言で一礼する。


 ユーシアが部屋へ入ると、ヤルンストラがソファーから立ち上がった。

 不安そうな顔をしている。テーブルに乗る食事は手つかずだった。

「ユーシアさま……何か手伝えることはないでしょうか」


「いい心がけだな。雷巨人たちはどんな仕事をさせられていた?」

「瞬間移動を生かして伝令役を主に……手柄の立てられる役目はあまり受けられませんでした」


「なるほどな。――それで、仲間の居場所はわかるか?」

「いえ、まったく気配がありません」

「ふん……時間をかければかけるほど、魔物たちの心は離れる。ここらで魔王姫軍は仕掛けてくるはずだがな」



 ――と。

 扉の向こうで、ドサッと何かが倒れる音がした。


「ん?」

 ユーシアは立ち上がると大股で歩いて扉を開けた。

 すると、ゲバルトが胸を押さえて倒れていた。


「どうした、ゲバルト!」

「ゆ、ユーシアさま……お気を付けを……毒だ……」

「なに!」



 すると、ドタドタと廊下を慌ただしく走る音が聞こえた。

「た、大変です! ユーシアさま、ご無事でしょうか! 城の者たちが次々と倒れて……」


 部屋を振り返って叫ぶ。

「アンナ! 解毒はできるか!?」


「は、はい!」

「まずはゲバルトを直せ! ――それからそこの兵士、全員に夜まで何も口にするなと伝えろ! 治療の必要な者は中庭へはこべ!!」


「ははっ!」

 兵士はすぐに走っていった。



 胸を押さえて苦しむゲバルトの側にアンナが座ってふさふさの銀毛に手を添える。

万能回復オムニスサナーレ

 手から出た光がゲバルトを包んだ。

 すぐに彼の顔から険しさがとれて、呼吸が穏やかになる。


 体を起こしつつ頭を押さえる。

「うかつだった……助かった。礼を言う……」

「いえ、当然のことですわ」



 その様子を眺めていたユーシアがうむっとうなずく。

「治るようだな。ゲバルト、今朝から何を口にした?」

「城で兵士たちと同じパンとスープをここで食べて……あとは水を少し」


 ユーシアは廊下の窓によって街を眺める。

「ふむ。街は至って平穏だな。ということはやはり城の井戸に毒が入れられたのか」


 アンナが立ち上がって言う。

「ユーシアさま、わたし行ってきますわ」

「ああ、頼んだ」

 修道服の裾をせわしく揺らして走り去った。



 ゲバルトが立ち上がりながら言う。

「俺も指揮に向かおう――それにしてもさすがユーシアさまだ」

「ん? 何がだ?」


「魔王城を別に設定し、信頼できる者たちだけに食事を用意させることによって、毒殺を未然に防がれるとは」

「ふふん。その程度の対策ができてなくて何が魔王だ。我輩はこの世のすべてを敵に回すのだからな、フハハハハッ!」


「ははっ! どこまでもユーシアさまとともに!」

「うむ。では、指揮にあたるがいい。リスティアは走り回って傷病者を運べ!」

「承知した」「あいさ~!」



 全員去って、ユーシアだけになった。

 城内はいまだ騒然としている。

 兵士や官吏たちが走り回っている。


 ユーシアはゆっくりと部屋の方へ振り返る。

 水色のドレスを着たヤルンストラが心配そうな顔をして入り口の側からのぞいていた。


「さて誰もいなくなったな……。ヤルンストラ、一つ聞かせてもらおうか」

「はい、なんでしょう?」


「なぜ、貴様は毒を盛られていない?」

 ユーシアが冷たい眼光で睨みつけた。


「あ……」

 ヤルンストラは凍えるように肢体を震わせた。

次話は21日か22日に更新。

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