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第52話 設営撤収!

 獣人国ベスティエにて、ユーシアは危険なネズミと戦った。

 だが異次元ダンスホールでおこなわれたダンスバトルに余裕を持って勝利した。



 ユーシアはダンスホールの中央でポーズを決めて立っていた。

 そこへ、ぬいぐるみの姿から元に戻ったゲバルトとリスティアが小走りに駆け寄ってきた。


 ゲバルトはユーシアの足元で膝をついて頭を下げる。

 隣ではリスティアが泣きそうな顔で立っていた。

「役に立てず、申し訳ない」

「ごめんなさい~。あたしもお役に立てませんでしたぁ~っ」



「いや、よい。お前たちのおかげで敵のルールが早く分かった。褒めておこう」

「失敗したのに責めないどころか、褒めてくださるとは……! ありがたき幸せ!」

「ユーシアさま、ほんとに優しい。大好きですっ!」

 リスティアは華奢な肢体をよじりながら、すみれ色の瞳を感激で潤ませた。


 ユーシアは不敵な笑みを浮かべると、腕を組んで胸を反らす。

「優しい? 勘違いするなっ! ――1人でできることは限界がある! 戦いもダンスも事務仕事も全部完璧にこなせるようになれ、などというのは人員を無駄に消耗させるだけだからな! 一人ひとりは自分のできることをすればよい! それらをまとめ上げることこそ上に立つ者の務め! 魔王たる我輩の偉大さの証明だ! フハハハハッ!」


 アンナは両手を胸の前で合わせて感嘆する。

「さすがユーシアさまですわ……みなさんの能力を引き出し、またそれ以上の結果は求めない。これでこそ本物の勇者さまです……!」



 その時、ピシィッ! とガラスの割れるような音が響いた。

「ん? なんだ?」

 ユーシアが頭上を見上げると、高い天井のダンスホールに亀裂が走っていた。


 観客のネズミたちが声をそろえて騒ぎ出す。

「「「あ……!」」」

「負けたでちゅ!」「やばいでちゅ!」「危険! 崩れまちゅ!」「ぴっぴぴりぴりぴ~なのらっ!」



 ユーシアはさっき脱いだ黒マントを羽織りながら言う。

「ほう、結界にひびが入ったか。生み出された異次元は消えるようだ」

「どうすればよろしいのでしょう?」

 アンナが大きな胸を押し付けるように寄り添いながら不安そうに尋ねてきた。


「お前たちは我輩のマントの裾を掴んでいろ。こいつらは異次元と一緒に始末する!」


 ユーシアの言葉に観客ネズミたちが叫ぶ。

「「「えええええ!」」」

「ひどいでちゅ!」「ダンスはよかったでちゅけれど!」「結界が壊れた瞬間、みんなで逃げればいけるでちゅ!」



「逃げるだと? もう遅い。――最初にステージを歩き回るラインダンスを選んだのは間違いだったな」

「なに?」「なんだって?」「どういうことなのら?」


 ふんっ、とユーシアは鼻で笑いつつ観客たちを見渡す。

「我輩が何もせずにただステージを踊り回ったと思っていたのか? ――異次元の結界が緩んだ今、貴様たち偽物は次元の彼方へ消え去るがいい! ――起動! 異界混沌門カオスゲート!」



 ユーシアの詠唱とともに、ステージ上に魔法陣が光った。

 ステップを踏んで歩きながらも、床に刻み込んでいたのだった。


 魔法陣が黒く光り始めると、その底には宇宙空間が広がった。 


 ゴゴゴゴゴッっと辺りの空気が渦を巻きながら吸い込まれていく。

 人形化した魔獣ネズミが、一匹、また一匹とその渦に飲まれた。

「うわぁぁぁ!」「吸い込まれるでちゅ!」「逃げ、逃げ……なのら!」



 魔法禁止の時空で魔法を発動した反動か、周りのダンスホールに走る亀裂が瞬く間に広がっていく。

 ユーシアは両腕にアンナとリスティアを抱き寄せた。

「巻き込まれるでないぞ!」

「は、はい」「目にゴミが入っちゃったぁ~」「くっ、これしきの風……!」


 次の瞬間、大爆発とともに眩い光が満ちた。



 そして、ユーシアたち四人は元の平原に立っていた。

 さんさんと降る日差しが眩しい。

 のんきな風が吹いて、それぞれの服を揺らしていく。



 ユーシアは辺りを見渡した。

 ネズミは1匹も残っていなかった。

「ふんっ。なかなか楽しませてはくれた――が、やはり我輩の敵ではなかったな。ふははははっ!」


「さすがですわ、ユーシアさま」

「ダンスまでできちゃうなんて、すごいです!」

「戦いや指導だけでなく芸術まで身につけておられるとは……感服しかない」


「ふはは! 当り前だ、我輩は魔王ユーシア! 魔王たるもの、何事にも最高の才能を持っておらねばならんからな! でなければ世界を従えることなどできぬわ! フハハハハッ!」


 ユーシアの心から楽しそうな高笑いが、草のまばらな平原に響く。



 すると、王都のほうから「「「わぁぁぁ!」」」という歓声が波のように轟いてきた。

 城にこもった男獣人たちが手を振って喜びの声を上げている。


 鉱山から戻ってきた子供たちが王都内をはしゃぎながら駆け回る。

「ユーシアさま、ばんざい!」「たった一人で魔王姫軍を全滅させた!」「ユーシアさま、さいこー!」


 ユーシアを褒め称える声は彼の高笑いと交じりあって青空に響き続けた。


       ◇  ◇  ◇


 一方その頃。

 異空間にある魔王姫城の一室にて、魔王姫エメルディアと四天王ディアボロスは絨毯の床にへたり込んでいた。

 呆然と目を見開いて、先ほどのダンスホールの戦いを見ていた。


「ま……負けてしもうた……」

「ば、ばかな……あの恐るべきアレに匹敵する力を持つ死の這音チューバが……」



 しばらく動かなかった二人だが、エメルディアが急に立ち上がった。

「ディアボロス! おぬしが勝てるというから戦わせたのに! いったいどうするつもりじゃ!」


 変態のディアボロスも、さすがに今度ばかりは床の上に正座して頭を下げるしかなかった。

「申し訳ありません、エメルディアさま。かくなる上は一度この世界を放棄して、戦力を補充してから再度――」


「再度!? どこに戦力を補充できる世界があるというのじゃ――ッ! 父上が勇者に倒されてからずっと逃げ続けて! ようやく見つけた新天地ではないかっ! ――もうよい! ディアボロスの甘言に従ったのが間違いであった! 下がれ!」

 エメルディアは幼い瞳を潤ませて訴えた。



 ディアボロスは顔を悲痛に歪めて、ますます伏せるしかない。

「申し訳ありません、エメルディアさま。すべては私の不徳といたすところ。……こうなった以上、私が自ら行動に移します。必ずやユーシアを排除し、この世界をエメルディアさまに捧げましょう」


「ふんっ! そこまで言うなら、やってみるがよいのじゃ!」

 涙を辺りに散らしつつ、つっけんどんな態度で言い放つエメルディア。

 ディアボロスはもう一度頭を下げてから部屋を出ていった。



 部屋の外は窓のない薄暗い廊下が続いている。

 ディアボロスは思案深げに顎を撫でた。

「……まともに戦っては勝てない。異空間を使っても勝てない。ならば、倒すのではなく別の方法で攻めるしかなさそうですね……」


 そこへ1羽の鳥が廊下を歩いてきた。ペンギンぐらいの大きさだが、眼が異様にギラギラしている。そしてくちばしが横に広い。


 ロボペンギンは甲高い機械音声で喋りだした。

「ガガガッ――。ディアボロス、サマ。四天王チューバノ戦闘解析、終了シマシタ」


「おお! 解析班、よくやりました。異次元での戦いでしたので、弱点をあぶりだせたのではないですか?」

「ピ~ガガ~ッ――。弱点アルケド、ナシ」



 意味不明な言葉にディアボロスの眉間にしわが寄る。

「何を言っているのですか?」

「ピピ――ッ。コレ、見テデス」

 カタカタカタと音を立ててくちばしから紙を出力した。


 ディアボロスが解析レポートを読み込んでいくと、徐々に彼女の顔は暗い笑みに歪んでいった。

「なるほど……バカみたいな強さの理由はこういうことですか……危険ですね。このままだと世界が壊れて征服する意味がなくなる……ですが、これは逆に利用できます――ああっ。エメルディアさまと二人だけで過ごせる日々が待ち遠しい……っ」


 よだれをたらしそうなほどに顔を緩ませて、廊下の一層暗いほうへと歩き去った。


       ◇  ◇  ◇


 一方、1人きりになったエメルディアは、自分より大きなクマさんのぬいぐるみに抱きついていた。

 部屋の端から端まで絨毯の上をごろごろと寝転がる。


 しまいに動きを止めて、涙ぐみながら呟いた。

「わらわの……妾の居場所は、いったいどこにあるというのじゃ……」


 広い子供部屋の中、誰も答える者はいなかった。

ジャバリパークからようやく帰還しました。

明日も更新します。

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