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第48話 死へ誘う夢の使者!

 昼過ぎの明るい日差しに照らされた、王都北の平原。

 まばらに生えた草を踏みつけ、土煙が迫ってくる。


 泰然とした態度で、ユーシアは魔王姫第三軍を待ち受けた。

 傍には聖女アンナが修道服を風に揺らして立っている。金髪が風になびいていた。


 と、そこへ竜少女リスティア、それとゲバルトがやってきた。

「ユーシアさま! 逃げ遅れた子供たちの避難、しておきましたぁ!」

「獣人の女子供は鉱山へ、男の九割は城に立てこもって大声を上げています。すべて指示されたとおりに」


「うむ、よくやった。それでこそ我輩の忠実なる部下だ。褒めてつかわす」

「わーい、ほめられたぁ~」「ありがたき幸せ」

 リスティアはスカートがめくれるの構わず、両手を上げてぴょんぴょん跳ねた。

 ゲバルトは片膝をついてかしこまっている。



 しだいに敵の姿が見えてくる。

 家ほどもある巨体の動物。四本の足で大地を蹴り、鎧に覆われたような全身を躍動させて進んでくる。


 リスティアが首を傾げた。黒髪が柔らかく揺れる。

「あれは……大きいけど、ただのネズミじゃ?」

「ふむ。人形化はしてあるが、やはりネズミだな。数も少ない。100匹程度か?」



 先頭を走るネズミが叫ぶ。

「あ! あいつは偽魔王ユーシアでちゅ!」

「なにぃ!」「第二軍も第四軍もあいつにやられた!」「気をつけるでちゅー!」


 ネズミの集団はすぐ目の前までやってくると警戒して止まった。ミスリルやオリハルコンで強化されているのか、体は金属的な光沢の鎧におおわれていた。



 ――と。

 ネズミたちが左右に割れて、一人の人型をしたネズミが前に進み出てきた。

 黒い体に丸い耳。赤い半ズボンをはいて、手には白い手袋をしていた。


 まるで友達のような笑いを浮かべてユーシアを見る。

「ハハッ! よくこそ、夢の国へ! 君が夢の国に招待されたユーシアくんだね。今日は特別、ファストパスなしでも待たせずに連れてってあげるよ!」



 アンナが両手を胸の前で握り合わせた。

「まあ! なんてかわいらしいお人形さんなんでしょう! まるでマスコット人形ですわ」


「でも、笑い方がイラッとしちゃいます」

 本能的に何かを感じたのか、リスティアがいやそうに眉をひそめた。



 一方ユーシアは口を開けて凝視していた。唇がわなないている。

「な、なんだと……!」


「どうされました、ユーシアさま?」

 アンナののんきな問いかけにユーシアが拳を握りしめながら破棄捨てる。


「こいつは危険だ……」

「え? このかわいらしいかたが、ですか?」


「見た目に惑わされるな! 我輩の本能が訴えておる。こやつは世界を滅ぼしかねない存在だと!」

「そ、そんな化け物さんだったのですか!」



 ネズミは外人のように大げさに肩をすくめた。

「化け物なんて心外だよね。僕は本物のキュートでポップなアイドルさ、ハハッ!」

「ふん、ネズミの分際で偉そうに。貴様の名はなんだ?」


 ネズミは目を細めて最高の笑顔で言った。

「名乗っていいのかい? 僕は名乗るだけでこの世界を消してしまうのさ、ハハッ!」



 ユーシアはにらみながらも尋ねる。

「そんなめちゃくちゃなやつがどうして魔王姫なんかについている?」

 それだけの力があるなら魔王姫に従う必要などないはずだった。


「ハハッ! 僕は夢を与える存在なだけさ! 要請があればどこにでも現れるんだよ!」

「夢を与えるだと? 夢を金で売ってるの間違いじゃないのか?」



 ねずみの目がすうっと細められる。

「ハハッ! 君は知りすぎてるようだね! 僕たちの必殺技、エレキテルパレードで倒してあげるよ」


「どこまでも危険な奴だ。さっさと倒しくれる! ――暴帝黒闇波タイラントエクシディ!」


 ユーシアは手を前に出すなり、いきなり魔法をとばした。

 攻撃に移ろうとしていたネズミたちには避けれない。


 百頭の巨大ネズミたちが一瞬で黒い光に包まれた。

「ちゅちゅー!」「熱いちゅー!」「死ぬちゅー!」


 ドゴォォォン!

 黒い光が爆発した。



 もくもくと煙が立つ。

 リスティアが両手を揚げて飛び跳ねた。スカートの裾がチラリとめくれる。

「やりましたぁ~! さすがユーシアさまです!」

「いや、まだだ」

「えっ!?」



 立ち上る黒煙が晴れると、先ほどと同じく巨大ネズミの集団がずらりと整列していた。


 ネズミは大げさに肩をすくめて笑った。

「ハハッ! 残念だったね。これではアトラクションには採用できないよ」


 ユーシアはネズミと、その地面の様子をじっくりと見つめる。

「防いだ様子はない……実体がないのか? いや、先ほどは大地を蹴って土煙を上げていた」


「悩んでるようだね! うんうん、その気持ちわかるよ! ハハッ!」

 同情するようにうなずきながらも、どこまでも上から目線でしゃべるネズミだった。


「ユーシアさま……」

 アンナが不安そうに、ユーシアの後ろに隠れた。丸い胸がユーシアに押し付けられる。


「ふんっ。案ずるな。この程度の手品、すぐに解いてくれるわ! ふははははっ!」

 ユーシアの高笑いが殺風景な平原に響く。


 しかしユーシアは内心、別のことに気がとられていた。

 ――なぜだ。何かがおかしい。何かがずれている。


 答えのつかめぬまま、ユーシアの黒マントがバサバサと音を立てて風になびいた。


       ◇  ◇  ◇


 一方その頃。

 魔王姫城にある子供部屋のような広い一室で、幼女エメルディアがちっちゃなこぶしを握りしめて鏡を見ていた。

 鏡にはユーシアとネズミの戦う風景が映し出されている。


「ディアボロスよ、圧倒的ではないか! さすが妾なのじゃ! 妾の技術をすべてつぎ込んだ魔獣人形なのじゃ!」


「ええ、そうです! 寿命が近付くたびに世界を捻じ曲げ、アカシックレコードに干渉して延命をはかる、恐るべき化け物ですよ! 獣人の国ベスティエに来ていたのは予想外でしたが、逆に好都合でしたよ!」

 ディアボロスは床に頭をつけてエメルディアの後ろから覗き込みながら言った。



 するとエメルディアは幼い顔を複雑そうに歪めた。

「じゃがの。あの男には剣も魔法も今のところは効かぬ。……果たしてこのまま倒せるであろうか?」


「難しいかもしれませんね」

「じゃのう。早く可愛いダンスを見たいものじゃ」

「あの偽魔王が踊ることを許可してくれたら、ですから難しくもありますが」


「だがあの踊りこそ奴の本性。必ずや、やってくれるのじゃ!」

 エメルディアはくすくすと楽しそうに笑いながら、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

 何かが見えたらしく、ぶふっと鼻血を垂らすディアボロスであった。

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