第4話 新しい部下の任命
本日二回目の更新
異界魔王を倒して世界征服することを誓ったユーシアに、聖女アンナが修道服を乱してすがりつく。
「まだそのようなことを言われるのですか、ユーシアさまは! 正義ですよね、正義と慈愛で世界をお包みになるんですよね!?」
うううっ、と可愛く唸りながらユーシアの黒い服を掴む。
しかし、高笑いによって跳ね除けられる。
「ふあっはっは! いつまでも儚い希望にすがっておるとよいわ! 貴様のその顔が絶望で歪む日がくると思うと、笑いが止まらぬ! ふははははっ!」
「ううっ。きっと勇者的ジョークなのですわ、そうに違いありませんわっ」
アンナは不安そうに、大きな胸を押さえた。
ひとしきり笑ったところでユーシアは、ぴたっと止まって真顔になった。
子供たちを見る。
「さて、そのほうたち。我輩の部下になったのだ。働いてもらうぞ」
「こ、子供たちを戦わせるなんて、そんな恐ろしいこと……!」
アンナは驚愕するが、ユーシアは一切妥協しない。
「ふはははっ! 子供だろうと年寄りだろうと関係なく仕事させ、安らかな日々など決して送らせぬ! まさに魔王の所業! ――とは言え子供にできることなど少ない。仕事は二つだ!」
子供たちはいたって平気そうな顔で頷く。
「なにするの?」「戦うの?」「どーん」
「まずは魔王城の掃除をしてもらう!」
「まおーじょー?」「どこにあるの?」
「ふふんっ。我輩の住むところこそが魔王城! すなわちこの屋敷を魔王城とする!」
「「「おお~」」」
アンナが戸惑いつつ言う。
「それならば、普段からさせておりますが……」
ふんっ、とユーシアは鼻で笑う。
「それだけではない! 次の仕事はもっと恐ろしい仕事だ……子供がもっとも嫌がり、苦しむもの! くくくっ、今からもう貴様たちの悲鳴が聞こえてくるようだ!」
「い、いったい何を子どもたちにさせる気なのです!?」
バサァッとユーシアはマントを広げてポーズを取る。
「それは、勉強! 部下になっても安らぎの場所など与えぬ! これこそ我輩の恐ろしさなのだ!」
「えええ! この子たちに学を与えてくださるというのですかっ! や、やはり勇者さまなのでは……!?」
アンナは驚きと、少しの喜びとで目を白黒させていた。
ユーシアは顎を撫でつつ悪そうな笑みを浮かべる。
「くくくっ。しかも頭がよくなれば、より重要な仕事を任せられて苦しむことになる! 未来永劫、休むことなどなくなる! この世の地獄を味わうのだ! 安易な気持ちで部下になったことを後悔するがよいわ! ふははははっ!」
高笑いするユーシアの前に、年長の男の子が立つ。
「僕、頑張るよ! その地獄に苦しんでみる! 強くなりたいから!」
「ふはははっ! もう我輩の恐ろしさに観念したか! 貴様が一番年上のようだな。名はなんと言う?」
男の子は茶髪を揺らして元気に答える。
「僕の名はサジェスっていいます、ユーシアさま」
「ならばサジェスを魔王城守衛隊・年少組隊長に任命する! そしてもう一つ任務を与える!」
「はい! なんでしょうか、ユーシアさま!」
「ケンカやいじめをさせないように見張れ! もちろん肉体的だけでなく精神的な暴力もだぞ! なぜならば、貴様たちをいたぶって傷つけて良いのは魔王たる我輩、ただ一人! ほかのものが我輩の娯楽を奪うことは断じて許さん! 勝手な暴力は我輩の逆鱗に触れると思え!」
黒い瞳を残忍に光らせて、子供たちを見渡した。
震え上がる子供たち。
「はいっ」「こわいよぅ」「わかったの!」「おそろしいよう」「いじめたりしない!」
「ふはははっ! 今ごろ我輩の恐ろしさがわかったか! もっと怖がるがよい、恐れおののくがよい!」
アンナが感心して青い瞳をキラキラ輝かせる。
「仲間内での暴力行為を禁止させるのですね……そこまで子供たちのことを考えてくださるなんてっ。やはりユーシアさまは本物の勇者さまですわ!」
ユーシアは鋭い犬歯を光らせてアンナを睨む。
「その勘違い、いつまで続くかな? ふははははっ」
「きっと、引っくり返してみせますっ! ……ですが、この後はどうされるのです?」
「もちろん盗っ人エメルディアをぶちのめしに行く――が、その前に魔王城の手入れをしておかないとな」
「は、はあ」
こうして森の中の隠れ家は魔王城となった。
ただ名称を変えただけではなく、名実共に魔王城にするべくユーシアは動き回った。