第40話 魔王3分クッキング(第一章エピローグ)
春の空からさんさんと太陽の降るアルバルクス王国。
エルフの国を手中に収めた魔王ユーシアは、王都フェリクへと戻ってきていた。
が、シルウェスの国王代理就任挨拶もそこそこに、ユーシアは別のとこへ。
お城の広い厨房。
ユーシアがいつもの黒マント姿に白のエプロンをつけて、調理台の前に立っていた。
横には、エプロンを着たアンナ、リスティア、孤児院の少女ティセがいる。もちろん城の料理人もいる。
ユーシアは胸を反らして偉そうに言う。
「さて、今からおぞましき食べ物、コーンフレークを作る! 皆のもの、覚悟するが良いわ! ふははははっ!」
「はい!」「頑張ります~!」「わーいわーい」
彼女たちの明るい声を聞きつつ、ユーシアは調理台に向かった。
「まずは、コーン粒を蒸す!」
水を張った蒸し器にコーン粒を入れた。
「はいっ」「あれ、その器具ないです?」「ほよー」
アンナとリスティアが自分たちの調理台を探したが見当たらなかった。
8歳ぐらいの少女ティセが不思議そうに首を傾げる。豊かな髪が可愛く揺れた。
ユーシアは動じずに別の蒸し器を取り出す。
「そしてこれが1時間以上蒸したコーンだ!」
蓋を取ると、白い湯気が沸き立つ。
蒸されて茶色くなったコーン粒。2倍ぐらいに膨らんでいる。
しっとりと湿った粒を、指で押すと簡単につぶれる。
「はぁ」「なるほど」「ふわふわ」
アンナは首をかしげ、リスティアとティセは興味津々に目をキラキラさせていた。
ユーシアは調理台の側面にあるオーブンの扉を開けた。
蒸した粒を中へと入れる。
「次は蒸したコーン粒を低温のオーブンで乾燥させる!」
「はい」「なるほどなるほど~」「たいへんそー」
そして隣のオーブン扉を開けた。
「1~2時間ほど乾燥させたコーン粒がこれだ!」
湿っていたためくっついていた粒がバラバラになっている。
「……」「すごいです、ユーシアさま」「はやいっ!」
ユーシアは作業台の上に広げた布にコーン粒をぶちまける。
「続いてこれを、平らに広げて布を被せ、のし棒で延ばす! 粒をできるだけ極限まで薄くするのが肝心だ!」
「はい」「わかった」「やってみたーい」
しかし子供たちの声を無視して別の布を広げる。
そこには平たくなったコーン粒があった。
「これが延ばした粒だ! フレーク状のこれをフライパンで炙るように焼く!」
かまどの火にフライパンを置いて、その上にひらたいコーン粒を流し込む。
器用に振って満遍なく焼く。
「軽く焼いたら、水に溶いた砂糖をかける!」
しゃわっ、と砂糖水がかかると、すぐに水分が飛んで雪がかかったように白くなる。
「…………」「おいしそー」「いいにおい~」
「焦げないように注意しろ! 水分が飛んだら籠に開けて冷ませば完成だ」
ざらっと籠にコーンフレークを開けた。
ほかほかと湯気が立つ。
そして当然のように、隣にある籠には冷えたコーンフレークが入っていた。
ユーシアは手づかみでそれを取り、皿に入れる。
上からたっぷりと牛乳をかける。
白い牛乳に茶色のフレークがひたひたと浸かった。
おもむろにスプーンを手に取り、一口食べる。
クワッと目が見開かれた。
「うまいっ! うまいぞぉぉぉ!」
テーレッテレー!
とでも聞こえそうなほど、凄惨な笑みを浮かべて笑った。
広い調理場に声が響き渡った。
リスティアとティセが物欲しそうに指を咥えている。
だが、ユーシアのスプーンは止まらない。
「この甘み、この独特の香ばしさ! これでこそ力が漲るというものだ! ふははははっ!」
「あ、はい。ユーシアさまが楽しそうで何よりです」
アンナが真顔で言った。
子供たちは目をうるうる潤ませている。
「た、食べたい……」「おいしそ~」
ジロッとユーシアが鋭い目で睨む。
「働かざるもの、喰うべからず!」
「「「えええええ!」」」
アンナが声を上げる。
「わたしたちにも作らせてくださいませ! 特に子供たちが食べたがってます!」
「3、2、1、0」「モウガマンデキナイ!!」
「ふんっ。今のは手間がかかって難しいから、ここの調理人が作ればよい。――お前たちには作るのが簡単な方法を教える」
「まあ、そのような調理法もあるのですか?」
「そうだ! こちらの粉にしたコーンを使う!」
どんっ、と調理台に白い粉を置いた。
彼女たちが嫌な予感を瞳に走らせ、目配せしあった。
ユーシアは気にせず堂々とした態度で言った。
「お前たち、この粉を水と合わせて耳たぶぐらいの硬さにこねるのだ!」
「は、はい!」「よかったぁ~」「わーい」
それから簡単なコーンフレーク作りが始まった。
アンナが真剣な表情でこねていく。
リスティアは、なぜか顔に白い粉を付けながらぐいぐいとこねる。
ティセは小さな手で、うんしょ、よいしょと生地をこねていた。
「う~ねうね、こ~ねこね~」
「うむ。頑張っておるな。その調子だ」
「はぁ~い。魔王さま」
ティセは子供らしい純真さで笑った。
練った生地を、布に挟んで薄く延ばす。
それをオーブンで焼き、砂糖水をかけて、乾燥させればひとまず完成。
さらに、皿に入れて牛乳をかける。
ユーシアと子供たちはコーンフレークの入った皿を持ち、調理場の隅にある椅子に並んで腰掛けた。
「では、いただくとするか!」
「「「は~い」」」
一口食べたアンナが目を見開く。
「んっ!? サクサクして、香ばしくって、甘くて、とってもおいしいです!」
リスティアは足をぱたぱたさせて喜ぶ。
「なにこれ、ちょーおいしい~! 元気出ちゃう!」
ティサは、ほっぺが落ちそうなほどに、にへら~と笑った。
「頭からメンズビームも出ちゃう~」
「いや、それは出ないから。あたしたち女の子だから」
冷静にツッコミを入れるリスティア。
「元気が出るか! そうだろう! コーンフレークは最高にうまいっ! 毎朝食べれば一日の元気と健康の元になるのだぞっ! ――ふははははっ!」
ユーシアは颯爽と一口食べると、背筋を仰け反らせて笑った。
アンナたちは笑顔を輝かせ、夢中で食べ続ける。
料理人たちは正式なコーンフレークを作り続ける。
調理場には心から楽しそうな高笑いが響き続けた。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
暗い次元の狭間に漂う魔王姫城。
ピンク色の可愛らしい部屋の中で、魔王姫エメルディアが床の上でじたばたと暴れていた。
壁に掛かった遠見の鏡には、エルフ国の戦いが映っている。
「なんなのじゃあ、あの男はっ! 負けてしまったではないかぁ~っ! うぅ……! アイヒマンは人形の素晴らしさを一番に理解してくれる部下であったのにぃ~! ふぅぅ~!」
エメルディアはスカートがめくれているのにも構わず、ごろごろと暴れ続ける。
すると、部屋に美しい女性――ディアボロスが長髪をなびかせて入ってきた。
エメルディアのあられもない姿をガン見しながら、優しく諭す。
「エメルディアさま、お気を確かに」
魔王姫は、くわっと下から睨み上げると、彼女に走り寄った。
小っちゃな拳を振り上げてディアボロスのお腹をぽかぽかと叩く。
「ディアボロス――ッ! そなたの言ったとおりにしたのに、負けてしまったではないかっ! わらわの可愛い人形たちを、どうしてくれるのじゃあ!」
ディアボロスが妖艶な笑みをたたえて、姫の頭を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ、大丈夫です。――まだ奥の手があるじゃないですか」
「お、奥の手……? ――あ、まさかっ!?」
「ええ、魔王姫軍第3軍を……魔獣人形部隊を使いましょう」
エメルディアが可愛らしい唇をわなわなと震わせる。
「あ、あれらは世界を滅ぼすほどの恐ろしい者たちぞ! もし世界が消滅してしまったらどうするつもりじゃ!」
ふふふっ、とディアボロスは姫を抱き締めながら耳元で囁く。
「心配ありませんよ……必ずうまくいきます」
「本当かのう……? わらわは不安でたまらぬのじゃ」
「うふふっ。例え世界が消え去っても、エメルディアさまにはわたくしがついているじゃありませんか。むしろ二人だけの世界で……いえ、なんでもありません。ですから、もう泣かないでください」
「むぅ……わかったのじゃ……約束じゃ、絶対なのじゃぞっ!」
エメルディアは不服そうな顔をしながらも、ぎゅっと抱きつく。
頬を赤らめたディアボロスは、次第にはぁはぁと息を荒くして、幼い姫を抱く腕に力を込めていった。
「旧魔王Vs.異界魔王!」第一章 終
とりあえず、一区切り。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
やっぱりポイントが増えていくのは嬉しいです。
応援してもらえたおかげで毎日更新。書きづらいシーンも頑張れました!
次章はまだプロットが未完成なので、少し時間が欲しいです。
ただあっちの2巻の書籍化作業が入ってきたので、ちょっと大変。
新作も書きたい気分。
最大でも2週間後までには更新開始します。
新作はこちら。
「おっさん勇者の劣等生!~勇者をクビになったので自由に生きたらすべてが手に入った~」
https://ncode.syosetu.com/n8256gj/
評価されなかったおっさん勇者が、他人のために生きるのを辞めて自分のためだけに生きたらすべてが好転していく話です。