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第34話 二人目の四天王(大森林防衛戦その1)

 湿地帯のジャングルにあるエルフの国、フトゥーラ王国。

 広大な森の中に隠れるようにして王都はあった。

 高い木々に張り巡らされた板やはしごを使って、その上に家が建築されている。

 樹上都市ともいうべきエルフの町。



 そんな町の一角にある大きな屋敷の中、鏡を前にして一人のエルフが叫んでいた。

 見目麗しい姿に薄絹のドレスを着ている。

「お待ちください、ディアボロスさま! これ以上の木材供給は、森の生産能力の限界を超えます! 森が枯れれば来年度からの供給は不可能になってしまいます!」


 鏡の中に映る、美しい女性は長髪を揺らしながら言った。

「来年? そんなこと考えなくてもいいでしょう。今は、人形の材料を供給することだけを考えればいいのです」

「そ、そんな!」



 そこへ、怪我をしたエルフの女性が駆け込んできた。

 ローブを着ただけの半裸の女性。シルウェスだった。

「お母さま、大変でございます!」


「まあ、どうしたの、シル!? そんなにボロボロになって! あなた、参戦していたのではなくって?」

「はい! ですがどうしてもお伝えしたく! 飲まず喰わずで帰還いたしました!」

「ええ!? いったいどうしたと言うの!?」



 シルウェスは鏡をチラッと見ながら言う。

「女王さま、そしてディアボロスさま。シャルル率いる第四軍は壊滅いたしました!」

「ええ、知っていますよ。異常に強い男が一人で壊滅させていました」


「その男こそ、魔王ユーシア! 恐るべき魔王が復活したのでございます!」

「ま、魔王ユーシア。……神々に封印された旧世界の魔王! なんてことでしょう!」


「ほう。あのものはユーシアと言うのですか」

 鏡の中のディアボロスがほっそりした顎を撫でる。



 シルウェスは女王へ真剣な顔をして訴える。

「魔王ユーシアはエルフの国を落とそうと考えています! もうこちらへ向かっています!」

「な、なんですって!?」

 驚くエルフ女王。


 鏡の中から冷静な声がする。

「詳しく聞かせてください」


「はい、ディアボロスさま。ユーシアはアルバルクス王国を手に入れると、次の目標をエルフの国に定めました。近いからだと聞きます。しかも今日中に滅ぼすと!」



 ディアボロスは楽しそうに、くっくっくっと笑い出した。美しいがどこか歪んだ声色。

「それは好都合ですねぇ……あの男は早めに始末しないといけません……いいでしょう。アイヒマン率いる第二軍を派遣します。エルフたちはアイヒマンの指揮下に入り、ユーシアを倒しなさい」


 女王が美しい顔を歪めて鏡にすがりつく。

「戦争になれば国土が崩壊します! そうなると木材の供出も……」

「ユーシアを倒せば免除にいたしましょう。全力で倒しなさい」

「お、お待ちください! ディアボロスさまっ!」



 鏡の映像は途切れ、ただ女王の取り乱した姿を映しこむばかり。

「うう……っ。わたくしはとんでもない間違いをしてしまったのではないでしょうか……ああ、森の精霊たちになんとお詫びしたら……」


「お母さま……」

 シルウェスは痛む体を両手で抱きつつ、泣き崩れる女王を見ていた。

 その顔は驚きと苦しみに満ちていた。


 ――しかし内心で思う。

 ユーシアさまの考えたとおりに事態は進んだ。怪我をした姿を見せただけで、ここまで簡単に発言に対する信憑性を与えてしまうとは……。

 なんという恐ろしいお方なのだ。


 寒気が走ったのか、ぶるっと傷ついた肢体を震わせた。


       ◇  ◇  ◇


 夕日に染まる頃、エルフの住む大きな森に魔王姫軍第二軍がやってきた。

 樹上に張り巡らされた王都の広場にエルフの手によってすでに陣が張られていた。

 椅子と作戦台が置かれている。上座以外にはエルフの重鎮が座っていた。


 大きなローブに包まれたアイヒマンが入ってきた。背中が丸い。

「やれやれ。実験の途中でしたが。困りますねぇ」



 女王がドレスを優雅に揺らして立ち上がり、上座を勧める。

「ようこそ、フトゥーラ王国の王都シルバへ。エルフ一同、魔王姫軍に全面協力させていただきます」


「くふふっ。当然ですよ――長生きしたいのならね」

 アイヒマンが眼鏡を指で押し上げながら陰湿な声で笑うと、体を軋ませながら歩き、作戦台の上座に座る。

 カツッと硬い音が響き、アイヒマンの膨れ上がった背中がモゾモゾと動いた。



 女王の顔に不安が過ぎる。

「……兵の配置はどのようにされますか?」


「相手は魔王と名乗っているそうじゃないですか。まともに戦っては第四軍の二の舞なので小隊で波状攻撃しつつ、指定地点へ誘い込み、そこで毒ガスを発生させて殺します」


 女王が目を見開いた。

「ど、毒ガス!? ま、まさか森の中で使用するのではないですよね!?」


「第四軍の被害を見ていないのですか? 平地に兵を展開させても無意味です。だからわざわざ私どもが乗り込んできたんでしょうに。侵入経路から王都までの間の森――できれば、くぼ地になっているような場所に装置を設置してください。どんな者でも確実に殺せる魔法毒と物理毒の混合ガスですよ」



「うう……そんなことをしては森が……」

 顔を歪める女王。


 アイヒマンは眼鏡を取ると、布できゅっきゅっと磨く。

「何を勘違いされてるのか知りませんが。私はここ王都シルバに仕掛けるのが一番だと考えていたのですがね? 相手が勝利したと思って気が緩んだ瞬間を狙えば、100%間違いなしなのですが。……これでも譲歩したとおわかりいただけるでしょう?」



「う……っ。わかりました……」

「ではエルフ200名を小隊長に任命、わたくし特製の人形50体ずつ率いて装置の設置。その後、波状攻撃してください」


「……はい」

 女王は力なく肩を落とすと、家臣のエルフにぼそぼそと話しかけ、アイヒマンの指示が実行された。



 シルウェスは小屋の中からうかがっていた。

 華奢な体に包帯を巻いている。

 傷病者として戦争参加を免れていた。


 秀でた額には脂汗が浮かび、小刻みに震えていた。

「ど、毒ガス!? なんという恐ろしい方法をおこなうのか……しかも最初は王都シルバに仕掛ける予定だったなんて……殺戮の処刑人形の異名を持つアイヒマンは冷酷だと聞いていたが、ここまでとは」



 ――と。

 王都がにわかに騒がしくなる。


 伝令役のエルフが本陣へ飛び込む。

「森の南に目標が出現しました! 黒いトカゲに乗り、凄い速さで北上しています!」


 アイヒマンは頬杖を付きながら、くっくっと笑う。

「では魔王姫さまに逆らう愚か者を殺そうではありませんか――実行してください」


 作戦台に座るエルフたちは暗い顔をしながらも、従順にうなずくしかなかった。

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