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第33話 エルフ国をどう攻めるか

 春の日差しが荒野を照らす。

 決闘を終えてエルフのシルウェスを真紅三席トリオストルムに任命したユーシア。

 

 ユーシアの足元には獣人ゲバルトがひざまずいていた。

「ユーシアさま。先ほどの戦いぶり、お見事と言うほかなかった。どうか俺をお傍に」


「うむ。弟を救いたいと言っておったな。よかろう、手伝ってやる。代わりに我輩へ忠誠を尽くし、全力で仕えるがよい――毛深いな」



 ユーシアはゲバルトの体を見ていたが、全身がつややかな銀毛で覆われている。

 ゲバルトは右肩の毛をどけた。

「肩の辺りに古傷が……」


「ふむ。ここは毛がないようだな。よし――我輩の右手小指は黒の三番。ゲバルトズィーガーを漆黒三席トリテネブリスに任命する――召喚従者契約ギアス!」


 右手小指をゲバルトの肩に押し当てると黒い光が貫いた。

「ぐっ! ――ありがたき幸せ」

 ゲバルトは深く頭を下げた。



 リスティアが傘を差しながらみんなの前に出てくる。

「ゲバルトさん、シルウェスさん! あたしは漆黒古竜、漆黒筆頭カプトニグレードのリスティア! よろしくね!」


「ああ、よろしく頼む」

「漆黒古竜の娘……? まさかな……」


「がんばって魔王姫を倒して世界を征服しちゃいましょ~」

 荒野に立つリスティアは、くるくる回った。仲間が増えて喜んでいるようだった。



 ユーシアが言った。

「シルウェス、こちらへこい」

「はい、ユーシアさま」


 シルウェスがすらりとした片足を引きずりながら傍へと来る。

 服が破れて下着のような姿になっていて、その上からローブを着ていた。

「ほほう。痴女みたいだな。なかなか似合っておるぞ」


「くっ――こんな格好にさせたのはあなたではないかっ」

 シルウェスがかぁっと顔を赤らめた。ローブの前をぎゅっと合わせる。



 アンナが微笑みながら言う。

「それで、どうされますか、ユーシアさま? エルフさんの国は攻めないということですが。帰られますか?」


「いいや、行く」


 シルウェスがユーシアの袖にすがりつく。

「は、話が違う! 私が頑張ればフトゥーラ王国には手を出さないと――」

「ふん。勘違いするな。平和にはしてやる――我輩の名の下においてな!」



「そ、そんな……」

 翡翠色の目を見開くシルウェスだったが、ユーシアは彼女を掴んで覗き込む。


「ただし、少し考えが変わった」

「考え?」

「エルフの国は自治を認められているという。なぜだ?」



 ユーシアの試すような視線に、シルウェスは、はっとして真面目な顔を作った。

「一つには人形の材料である木材を供給する取引をしていること。二つにはフトゥーラ王国は攻めづらいこと」


「攻めづらい?」


「フトゥーラ王国では密林の木々に魔法を掛けて鋼鉄のように硬く火にも強くして、木の上に家や村を作っている。そのため――」


「戦争になると、大軍を派遣しても木が邪魔で小隊ごとの進軍となり、ゲリラ戦のようになるのか」

「その通り。さすがユーシアさま。それで魔王姫軍も攻めあぐねて、停戦調停を結んだ。木材を供出するかわりに自治を認めると」



「ははぁん。なるほどな。それで人間の国が最後になったのか」

「どういうことでしょう?」

 アンナが首を傾げた。金髪がさらりと揺れる。


「北の針葉樹林帯と西のジャングルでの材料供給を急務としたから、人間の国が一番最後になったのだな」


「な、なるほど! 人の国をじわじわ苦しめる考えではなかったのですね」

「さすがユーシアさまですっ。なんでも気がついちゃう!」



「ふふん。当然だ。我輩は魔王ユーシアなのだからな! ――それに理由がわかればますますエルフの国を手に入れなくてはいけなくなったな」

「どうしてですか?」

 リスティアが不思議そうに首を傾げた。


「おそらく魔王姫軍は失った人形以上の兵――10万以上の人形を作れる木材を集めようとするはずだ。エルフ国には相当な負担がかかるだろう。逆に、エルフ国を奴らから奪えば、再軍備は大幅に遅れる。現存兵力で戦うしかなくなる」


「軍事力を低下させることが可能になるのか! なんという策士!」

 シルウェスは驚愕で目を見開いていた。



 晴れた青空の下、ユーシアは茶色の荒野に立って腕組みをした。

 シルウェスとゲバルトを睥睨するように見る。

「ついでだ。魔王姫軍の配置について、知っていることを話すがよい」

「「ははっ!」」


 それから二人は魔王姫軍の軍団や情報収集方法について話した。

 ディアボロス率いる第一軍は北方に展開。

 アイヒマン率いる第二軍は西方に展開している。

 シャルルが率いた第四軍は壊滅した。



「第三軍はいないのか?」

「予備兵力として温存されている」


「ふむ。どのみち西方第二軍とはぶつかるな」

「そ、それでは……」


「国土を戦禍に巻き込みたくないというのはわかった。ならば一度の戦闘で勝敗を決しよう」

「どうされるのです」

「エルフ国を魔王姫軍の一員として参戦させる!」

「え? それではユーシアさまを裏切ることに」

 シルウェスが首を傾げた。赤髪が風で揺れる。



 ユーシアは不敵に笑って指をちらつかせた。

「我輩の破壊力はすでに知られている。またバカ正直に、大軍を平原に展開する愚作をとるとは思えぬ。――とすれば」

「ゲリラ戦……」


「その通り。正確には小隊による波状漸減攻撃だな。……まあ、森の強度がどの程度かはわからぬが、我輩がエルフの国を攻めると知れば、これを好機とばかりに森の中へ陣を張って待ち受けるだろう。そこを内側から強襲する。奴らは確実に、本陣をエルフの王都に敷くだろうからな!」


「な、なるほど! それなら中枢だけを叩ける!」

「問題は、だ。エルフは魔王姫城と連絡は取れたりするのか」

「連絡だけなら取れる」



 ユーシアはシルウェスとゲバルトを交互に見て言った。

「魔王姫城の場所はわかっているか?」

「それはわからぬ。ただ、出現すれば精霊を使って見つけることができるが……」


「そうか。シルウェスだけ国へ入って魔王姫軍と連絡を取れ。ユーシアが攻めてきたと伝えよ」

「――信じてもらえるかどうか……」

 シルウェスは心細そうに、視線を落として地面を見た。



 ユーシアは悪そうにニヤリと笑う。

「だからこそ、回復させずに痛めつけたままにしたのがわからんのか?」


「な、なるほど! 確かにこの姿のままで行けば、命からがら逃げてきたと見ただけで伝わる……なんという、恐ろしい方。いったい何手先を読んでおられるのやら……」

 シルウェスは寒そうに自身の両肩を抱いた。


「くくく……っ。それぐらいできねば、魔王を名乗る資格などないわ! ――では、エルフの国へゆくぞ。我輩たちは森の手前で降りて、シルウェスだけ向かえ」

 バサッと黒いマントを翻して歩き出そうとする。



 その背へシルウェスが語りかける。

「ユーシアさま、お待ちを」

「なんだ?」


「エルフだけが使える森の回廊を通ってはどうか?」

「ほう。どこにある――もしや、それか」

 ユーシアは道のそばに立つ大木を見て言った。

 荒野を駆け抜ける風が枝葉を揺らして奏でていく。



「はい。さすがユーシアさま。理解が早い」

「では、行こうか……作戦は歩きながら伝える」

 シルウェスを先頭に、ぞろぞろと大木へ向かった。

明日は「勇者のふり~」の更新があるので、こちらは更新できないかもしれません。

両作とも、かなり難航しています。すみません。

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