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第2話 許さんぞ、盗っ人ども!

 午前中の清々しい日差しが緑の森を照らしている。

 森の中にある屋敷前の広場に、二人のコボルトと一列に並んだ人形兵。

 そして乱れた修道服からおへそをさらすアンナがいた。


 ただコボルトはアンナの腕と足を掴んで押さえつけたまま、広場の端の藪を見ていた。


 そこには黒髪黒目に黒マントを羽織った男――魔王ユーシアが立っていた。

 身なりだけなら紳士の服装。しかし身にまとう雰囲気は、抜き身の刃のような怖さを放っている。



 コボルトはアンナから手を離しつつ、訝しそうに眉をしかめる。

「誰だ、お前?」


 ユーシアは、むっとして眉を寄せたが、すぐに笑みを浮かべた。

「そうかそうか。下の者たちまでには、我輩の顔と名前は伝わっておらんようだな。それも何年かは知らぬが封印されていた我輩の落ち度。いたしかたあるまい。無礼は許そう」


 その尊大な態度がコボルトを苛立たせる。

「いや、知らねぇが。ひょっとして魔王さまの部下ですかい?」

 尋ねながらも腰のナイフに手を掛ける。



 ふっ、と鼻で笑うとユーシアは黒髪を掻き上げた。

「部下だと? この偉大なる姿を見て気が付かないのか! 我輩こそが魔王の中の魔王、ユーシアさまだ! どうだ、恐ろしくて声も出まい! ふはは、褒め称えるがよいぞ!」


 二人のコボルトは犬面を見合わせていたが、突然ぎゃははっと笑い出した。

「魔王さま、だってよ! こいつはおかしいや!」

「いつから俺たちの可愛らしい魔王姫さまが、こんな薄汚い男になったっていうんだ!」



 ユーシアは鋭い犬歯をぎらつかせつつ唸る。

「おい、貴様たち『俺たちの魔王さま』とはどういうことだ?」


「俺らの魔王さまはエメルディアさまだ!」

「異世界の魔王姫にして『混沌の人形姫(パペットプリンセス)』の異名を持つお方!」

「エメルディアさまの生み出した人形によって、この世界はすべてエメルディアさまのものになるのだ! ぎゃはは」



「な、なんだと――ッ! おい、女! こやつらの言ったことは本当か!」


 アンナは驚き戸惑いながらも、修道服を整えつつ金髪を揺らして応える。

「はい、異世界から突如として現れた魔王姫エメルディアによって、世界のほとんどが征服されてしまいました。恐怖、圧政、弾圧。支配下の人々はとても苦しい生活を強いられています……」


 ユーシアは怒りで打ち震えながら、ギリギリと奥歯を噛み締める。

「ええい、敗者のことなど知ったことではないわ! それより世界を征服する、だと!? この世界をもてあそんでいいのは、ただ一人、我輩魔王ユーシアだけだ! 我輩が封印された隙にかっさらうとは、ただの盗っ人ではないかっ! エメルディアとやら……許さん、許さんぞ……っ!」



 コボルトたちが屋敷入口前にいるアンナから離れて武器を構える。

「あ? 魔王姫さまにたてつこうってのかよ」

「こんな奴でも『材料』にはなるかも知れねぇ」

「魔王姫さまのために、やっちまおうぜ」


 ユーシアが低い声で唸る。

「我輩が、魔王だ」

「まだ寝言言ってやがるぜ、こいつ!」

「やれ、やっちまえ! エメルディアさまの素晴らしさを思い知らせてやる!」

 コボルトは広場で一列に並んでいた人形たちの後ろへ移動した。



 人形兵は武器を構えると動き出す。

 ユーシアを取り囲み、いっせいに襲い掛かった。

 ぎこちない動きからは想像もできないほどの早い突きが繰り出される。


 アンナが叫ぶ。

「ああ! お逃げください――いやぁっ!」


 ズドドドッ!


 人形の持つ剣や槍がユーシアに当たった。


 しかし、ユーシアは不敵な笑みを浮かべるばかり。

「ん? 何かしたのか? マッサージには丁度いいな、フンッ!」


 

 コボルトたちの目が驚愕で見開かれる。

「お、おい、何やってんだ! 本気で殺せ!」

 人形たちはますます激しく攻撃を繰り出す。

 けれども、とす、ぱす、ぱか、と気の抜けたよう音しかしない。


 ユーシアは攻撃されながらも堂々と大股で歩いた。

 人形程度の攻撃ではまったく傷つかない。


 一匹のコボルトの前まで来ると見下ろして言う。

「貴様。我輩に刃を向けた以上、覚悟はできておるのだろうな?」

「ひ、ひいっ! 寄るんじゃねぇ!」

 コボルトは犬歯を見せて威嚇しつつ、錆びたナイフを抜いて切りかかる。



 ユーシアの輪郭がぶれた。

 瞬時にしてコボルトの横に立つと、その犬のような頭を片手で掴む。


「敬意が足らん」

「ほぇ?」


「我輩に対する敬意が足らんというのだ、この下郎!!」


 掴んだ頭を兜ごと地面に叩きつける!


 グシャァッ!


 滑稽とも思えるふざけた音が響き、兜ごと頭が潰れた。

 茶色い大地に、赤い血が花のように広がっていく。



 残るコボルトは逃げ出しながら命令する。

「ひ、ひいっ! 倒せ、倒せ!」

 命令を受けた人形兵がさらに襲いかかる。 

 周りを取り囲んで、剣で切りつけ、槍で刺す。


 しかしユーシアは眉をひそめるのみ。

 体はいっさい傷つかない。


 おもむろにぼろ雑巾になったコボルトの死体を片手で持ち上げる。

 そのまま無造作に振り回した。


 ガシャガシャシャァンっ!


 派手な音を立てて、すべての人形は木っ端みじんに砕けた。



 その間に残りのコボルトはだいぶ遠くへ逃げていた。草を掻き分け、転びながらも走っていく。


 ユーシアは小さくなっていくコボルトを睨む。

「忘れ物だ――ふんっ!」


 死体を片手でぶん投げる。

 剛速球と化した物体は森を突き抜け、逃げるコボルトの背中に当たった。


 ドゴォォォ……ン。


 大砲に似た鈍い音が森に響いた。驚いた鳥が数羽、木々の間から青空へと飛び立った。

 

「ぎゃぁぁぁ!」


 魔物の悲鳴。

 そして二つの死体は重なりあって動かなくなった。



 ユーシアは軽く手を払うと、吐き捨てるように言った。

「ふん。礼儀を知らぬ雑魚どもめ! 貴様等の上司の程度が知れるわ!」


 人形の破片が散らばる中で立ち尽くしていると、遠巻きにしているアンナが言った。

「な、なんという強さなのでしょう……あ、人形は頭と胸を破壊しないと、いつまでも動きます」


「ほう。それは厄介だな――暗黒闇星波ダークグラビトン


 パチン、と顔の横で指を鳴らすと、まるで上から石でも降ってきたかのように、人形の破片は木っ端微塵に砕け散った。


 少し得意げな笑みを浮かべてユーシアは言う。

「これでよいか、女?」

「は、はい! さすがです! なんてお強いかたなんでしょう! ――ひょっとして、勇者さまではないでしょうか!?」



 アンナの言葉に、鼻で笑うユーシア。

「勇者――だと? はっ! そんな神の作り出した役職名で我輩を呼ぶなど! 我輩を愚弄する気か!」


「えええ! そのようなおつもりは、まったくありませんわ! いったいあなた様は……」


 ユーシアはポーズを取って前髪を払った。

「我輩は魔王の中の魔王、ユーシアだ! 魔王さまと呼ぶがよい! ふははははっ」

 胸を反らして高笑いするユーシア。



 アンナは本気か冗談かわからないようでおろおろした。

「そ、そんな! あなたのような勇敢な方が魔王だなんてっ! ……皆さんもこの方は勇者だと思いますよね!?」


 アンナが屋敷を振り返って言う。

 屋敷の入口にはいつの間にか子供たちが顔を覗かせていた。



 子供たちは首を傾げつつ、頭を寄せ合った。

 ユーシアをチラチラ見ながら話し合う。

「え~」「でも~」「あの顔」「勇者じゃない」「と思うなぁ~」


「な、なんてことを言うのですか! 人を見た目で判断してはいけませんっ!」



 一番年長の少年が言う。

「でもさぁ。怖くて格好いいし。魔王さまだと思う」


 それを聞いたユーシアがますます胸を反らして高笑いする。

「ふははっ! そうか、怖いか! 格好いいか! ――やはり常識に凝り固まった大人よりも、素直な子供の方が真実を見抜くようだな! ふははっ!」



 子供たちが外へ駆け出してくる。

 特に年長の男の子が目をキラキラさせてユーシアの傍へ来た。

「勇者なんかよりよっぽど強いよ! 魔王さますごい!」

「ふはは、そうだろう、そうだろう! ――なかなか話がわかる奴ではないか。部下にしてやってもよいぞ?」


「本当? ありがとう、魔王さま!」

「我輩は魔王ユーシア! ユーシアさまと呼ぶことを許そう! はっはっは!」

「「「わーい!」」」

 子供たちはユーシアに抱きついた。


 森の中の屋敷前で高笑いが響き続ける。

 子供とは言え、久方ぶりに自分を慕う存在に囲まれてユーシアはご満悦だった。



 が、アンナは千切られた服を手であわせると、悔しそうにユーシアを睨む。

「私は、あなたが魔王だなんて信じません! 魔王ユーシアなんて聞いたこともない名前ですし。――きっとあなたは神の使わした勇者さまです!」


「ほう、面白い。我輩にたてつくというのか! 女――名前はなんと言う?」

「アンナと言いますわ」


 するとユーシアに抱きつく子供たちが言葉を添える。

「おねーちゃんは聖女だよ」「アンナ母さんは聖女って呼ばれてるんだ」「癒す魔法が得意なの」



 ユーシアは片手で顔を覆うと悪そうに笑う。

「聖女アンナか……くっくっくっ、面白い! 我輩に従わぬものは排除――というのは底が浅い! アンナよ、どちらが正しいか決闘をしようではないかっ!」

「け、決闘!? 私は戦いは苦手なのですが……」


「ふん、そんなことは当り前だ、我輩に戦闘で勝てるものなどいないのだからな! だからどちらが正しいかの戦いだ! 貴様は我輩の傍にずっといろ! そして、我輩の恐ろしさを指をくわえて見ているがいい!」



 アンナは、頬を赤らめる。

「ず、ずっとお傍に、ですか?」

「そうだとも! そして勇者と信じる心を叩き折られて、貴様の美しい顔が絶望に染まるのを楽しんでやろう! ――なんと恐ろしいことを思いつくのだ、さすが我輩! ふははははっ!」


「きっと……きっと、ユーシアさまは勇者さまですっ。私はそう信じます!」


 アンナは睨み、ユーシアは不敵に笑い返す。

 


 子供たちは二人を囲んで抱きつきながらそれを見ていた。

「でもユーシアさまは、これからどーするの?」「魔王姫の仲間になるの?」「ばっか、ちがうよ。ユーシアさまは魔王姫を倒して魔王になるんだ!」


 それを聞いていたユーシアの眉間にしわが寄る。

「ふむ……アンナとか言ったな。今の現状を話してもらおうか? エメルディアとかいう盗っ人の居場所を知っているなら教えるがよい! すぐさま行って――いや」

 ユーシアはお腹の辺りを撫でた。

 空腹だった。



「どうされました、ユーシアさま?」

「飯を用意せよ!」

 空腹のまま強敵と戦ってはいけないと、しっかり学習していたユーシアだった。


「は、はい! どうぞ屋敷へ! 着替えてからすぐに用意いたしますわ……う、美しいと言われてしまいましたわ……」

 最後の方は小声で呟きつつ、アンナは頬を赤らめた。

 そして屋敷の中へ逃げるように駆け込んでしまった。

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