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第26話 アホの子アンナは聖女です!(聖女アンナが勇者を信じる理由その2)

本日2回目更新。

 夜の魔王城とは名ばかりの屋敷にて、ユーシアとアンナは一つのベッドで寝ていた。


 アンナは上を向いて息を吐く。大きな胸が横に流れるように揺れた。

「父が、勇者でした。とても強く、聡明な人でした」


「ほう。そなたが任命したのか?」

「はい……でも、内心では全然そんなふうには思っていませんでした。ですが父からそう言うように諭され、言っていただけです……ですが」


「ん?」

「エメルディアに対して大攻勢をおこなうことになり父は出征しました。でも見送りの時にわたしは『お父さまは勇者じゃありません。だから行かないで』とお願いしました。父はとても悲しそうに微笑んで出て行き、そして帰ってきませんでした」



「ふむ。自業自得といえるな。あの程度の人形どもにやられるとは、弱者の極みよ」


「はい、父は強くなかったのです。でも、嘘を付いてでも、絶望する人々に希望を与えたかったのだろうと今は思います。当時のわたしはそこまで思い至ることができませんでした――あの時、父を心からの勇者だと信じていたら、あるいは……」


 ユーシアは腕を枕にして寝転がりつつ鼻で笑った。

「フンッ、くだらん。我輩を自身の罪滅ぼしに使うなど言語道断! 自分の罪は自分で償え!」



 アンナは素早く動いてユーシアに体を向けた。金髪が垂れて広がる。

「ち、違いますっ。生まれて初めて、びびっときたのです! この方が勇者だ、勇者に間違いない、と! ユーシアさまと目が合うと、ドキッとしますし、ユーシアさまのことを考えるだけで、胸がドキドキするのですっ! これはユーシアさまが勇者だと神さまが教えてくれているに違いありませんわ!!」


 青い瞳を輝かせて鼻息荒く言うアンナ。大きな胸が呼吸に合わせて豊かに揺れていた。

 ユーシアはジト目で愚か者を眺めるように見ていたが、ふいに手を伸ばした。



「……では、こうするとどうなる?」

 すらりとした長い指で、アンナの頭を優しくなでた。指の間から金髪が波のように零れる。


 アンナは息を飲んで大きな胸を押さえる。しかし、その美しい顔は堪えきれない喜びの笑みが浮かんでいた。ほほが赤く染まる。

「ひゃ――っ! ゆ、勇者を感じますわ――っ!」


「これはどうだ?」

 寝巻きの彼女を大胆に引き寄せ、金髪にそっと口づけをする。密着してお互いの体温が伝わった。


 さらになだらかな背中を撫でて、金髪に顔をうずめる。熱い吐息が交差する。アンナの肌が火照ったように熱くなった。

 体がピッタリ寄り添うと、アンナの吐息が首元にかかってくすぐったい。

「か、感じますっ! 頭の先からつま先まで勇者を感じますわっ! 胸がきゅんきゅんしますっ――きっとこれが神さまの啓示――あぁっ!」


 ユーシアが急に華奢な肩をぎゅっと抱きしめたため、アンナは可愛い悲鳴を上げた。

 そして、くにゃっと彼女の体から力が抜けた。はぁはぁと喘ぐような吐息を可愛い唇から漏らす。


 ユーシアが顔を覗き込む。

「どうした? ――気絶しおったか?」


 ユーシアは身を離すと、ごろんとベッドに横になった。

「アホだな。こやつはとんでもないアホだ」



 するとアンナが、がばっと身を起こした。

 ――どうやら意識はあったらしい。


 頬を真っ赤に染めつつも、う~と唇を噛んで睨む。

「アホじゃありません! 神さまが願いを叶えてくださったのです。心から信じれば、願いは叶いますから。神さまが見守ってくれていたのです!」

 寝巻きを押し上げるように大きな胸が揺れた。



 ユーシアはバカにしたように鼻で笑う。

「ふんっ! 世界を見捨てた神に祈ってどうする! くだらん慣習だ!」


「そんなことありません。今まで願いは叶いましたし、これからもきっと届きます――どうか神さま、ユーシアさまを勇者に、世界を平和にしてください…………おん、いあいあ、そわか、あーめんカラメ、ひかりマシマシ」

 手を胸の前で合わせて、真摯な声で祈った。



 ユーシアの目が細められる。眉間にしわが寄っていく。

「……おい、貴様……。いったい、何に祈っている……?」


「ほへ? 天上にお住まいになってる神さまですが?」


 当然といった顔で応えるアンナ。

 ユーシアは、顔をしかめつつ考え込む。


「貴様……今まで、なんの神・・・・に祈ってきた……?」


「なんの? 天にお住まいになってる神さまですが」

「いや、名前があるだろう。光の神オーロラか? 火の神アグリッパか? 水の神ヴァルシスか?」



 アンナは困ったように首を傾げつつも、純粋な微笑みを浮かべた。

「さあ? でも、神さまは神さまです。神さまならきっと願いを聞き届けてくれますから。……世界を滅ぼそうとする魔王姫を、倒してくれる勇者さまをお使いくださいましたし」



 ユーシアはぽかーんと口を開けたが、大声で叫んだ。


「お前は今まで――得体の知れない神に祈ってきたというのかァァァ!!」



「は、はぁ。よくわかりませんが、言われてみればそうかもしれません」

「天然というレベルをはるかに超えておるわ! ありえん! ――いや、だから無詠唱で人智を超えた超回復魔法を使えたのか! なんという女だ! アホにもほどがある!」


「あほあほ言わないでくださいっ。わたしはそこまでアホじゃありませんっ! もうっ!」

 アンナはぷく~と頬を膨らませて横になると、ぷいっと背を向けて寝てしまった。


 ユーシアは不可解な生物を見る目付きでアンナを眺めていたが「アホとは付き合ってられん」とふて腐れたように言い、同じように背を向けて寝た。

 

 そして二人は眠りに落ちていった。

ようやく書きたかったアンナの理由を書けました。とてつもないアホの子でした。

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