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第23話 城の探索

 王都フェリクの王城にて、ユーシアはリスティアを連れて内部を見回っていた。

 石で作られた堅牢な壁や塔。

 砦としての機能を持ちながらも、宮殿のように華やかな場所がくっついていた。

 戦乱期に建てられるも、国を平定したあとは役所や宮殿としての機能を持たせるために増設したのだろう。



 リスティアは何を見てもすごいすごいと大はしゃぎだったが、ユーシアの顔色は変わらない。

 ――まあ、城としては可もなく不可もなく、といったところか。



 それから上階にある王族用の部屋へ行く。

 セーラム王の居室。

 4部屋あってどれも広かった。

 私的な応接間、支度部屋、私的な居間、そして寝室。


 見て回ったユーシアが言う。

「ふむ。ここが一番マシだな」

「元々王様の部屋ですもん。とっても広いです! ユーシアさまにぴったり! ……キングサイズのベッドですし……っ」

 頬を赤らめてモジモジするリスティア。



 ユーシアはバルコニーへと出た。

 夕焼けに赤く染まる王都を一望でき、さらに平原と南に続く大河が見えた。

 眺めていると風が黒髪を揺らしていく。


「ふむ。ちょうど良いな」

 ユーシアはバルコニーの手すりを掴んで黒いオーラを流した。

 手すりの上に付いた丸い玉のような部分が怪しげに光った。



 すると傍へリスティアがやってきた。

 風でめくれそうになるスカートの裾を押さえている。すらりと細い健康的な足がちらちら見えた。

「わぁ~。すごい眺めですっ! 見えるかな~? ――あ、ユーシアさま、この川をずっと南に行くと、あたしの故郷・死の山があるんです! 砂漠地帯のど真ん中に!」


「ほほう……なかなか、そそられる名前をしておるではないか。どれぐらい死なのだ?」


「すごいですよっ! 温泉がいっぱいあるんです! 地獄温泉とか黒死温泉とか! 湯治客で賑わってて、即死まんじゅうが名物です! とっても甘くて、死んじゃうぐらいおいしいんですっ! きっとユーシアさまも気に入りますよ!」

 リスティアは目を輝かせて力説した。



 ユーシアは一歩離れながら、半目になって彼女を見る。

「リスティアはもう少し、我輩のことを学んだほうがよいようだな」

「ふぇぇ~! ごめんなさいっ!」


 泣きそうになるリスティアに別の事を尋ねる。

「魔王姫軍に占領はされてないのか?」

「あ、されてますよ。でも重税とか弾圧はないんですけど、よくわかんない仕事押し付けられてるんです」

「なんだ?」


「黄色い石を集めて収めてます。みんななんでこんな石集めるんだろーって不思議に思ってます。税金代わりだから助かってますけど」



 ユーシアの目がギラリと光る。

「ほう……硫黄か。つまりまだまだ奥の手は残してあるということか」

「え!? 今ので何かわかっちゃったんですか!? さすがユーシアさまです、すごいです!」


「そうだろう、そうだろう! 我輩には知らぬことなど何一つないわ! ふははははっ!」

 王都を望むバルコニーから高笑いが響いた。

 街の人々はビックリしながらみんな城を振り返った。


       ◇  ◇  ◇


 王都の片隅にある酒場。テーブル席が20ほどあるそこそこの広さ。

 しかし椅子の数以上に人々が詰め掛け、テーブルに腰掛けたり壁にもたれたりして、いつになく騒いでいた。


 だれかれともなく大声で「ユーシアさま、ばんざい!」と叫んでは、乾杯の流れとなっていく。

 絶望の淵から一転しての勝利、しかもこの上ない大勝利にみんな浮かれていた。

 そしてユーシアが勇者か魔王か、など関係なく喜んでいる。


 その酒場の隅のテーブルでは、頭からすっぽりとフードを被った人物が二人いた。体格から考えて、小柄な女性と大柄な男性だと思われる。

 エルフの姫騎士シルウェスと、狼獣人の豪傑ゲバルトだった。

 二人は息を殺して人々の会話に耳を傾けていた。



 酒場の中央当りで酔っ払いたちが楽しげに騒ぐ。

「もう、あの数見たときゃ、絶対死んだと思ったね!」

「何体倒そうが、次から次へと壁に群がってくるんだもんなぁ。ほんとに人形は怖いぜ」

「知り合いがいたよ……本当にもう、戦いたくねぇ……」


 別の誰かが言う。

「でもよ、もう安心だ。なんてったって、勇者ユーシアさまが来てくださったんだから」

「そうだな。一人で全部やっつけちまった!  ――親父、酒もう1杯!」


「しかしよ、ユーシアさまが魔王さまって本当なのか?」

「本人が言ってるだけだろ。魔王みたいに強いって意味だぜ、きっと」

「そうそう。魔王ユーシアなんて、聞いたこともないもんな」


「まあ、助けてもらえるなら、なんだっていい! ユーシアさまさまよ!」

 男は運ばれてきた木のコップを持ち上げた。


「「「かんぱーい!」」」



 その騒音に紛れて、シルウェスは愕然と目を向いていた。

「な、なんだと……! 闇の魔王ユーシアっ! そんな、ばかなっ!」

「知っているのか?」


「エルフでも昔話になって言い伝えになるぐらい古い話だ。他の種族など、とうに忘れていよう。かつてこの世界を支配し、地獄の惨状に変えたという恐るべき魔王! それがユーシアだ!」

「なぜ、今頃になって現れた?」


「わからん。魔王ユーシアは神々と戦い、最後には封印されたはずだ! ……だがそれなら闇と混沌を軽々と使いこなしたことにも説明がつく! ――なんてことだ! 獅子を倒そうとして、狼を呼んでしまうとは!」

 シルウェスは美しい唇を噛み締める。すらりとした細い指で握るコップが震えて酒が零れた。



 ゲバルトが素朴な口調で言う。

「俺も狼だが」

「そういう意味ではない。エルフに伝わることわざで、比喩みたいなものだ」

「そうか。よくわからんが、すまん」


 ゲバルトは骨付き肉を手に取り、むしゃむしゃと食べた。

 シルウェスは憂いに満ちた目でそれを見ている。

「エメルディアは世界を滅ぼすが、ユーシアもまた世界を滅ぼす。もう世界は終わる運命にあるのかもしれん」



「しかし、本当に魔王なのか? ユーシアはわれわ――魔王姫軍を倒したのだぞ……それに、どちらかといえば、人形兵だけを倒そうとしているようだった。なぜだ?」


 シルウェスは肩をすくめた。右腕の傷に触ったのか、美しい顔をしかめる。

「魔王の考えていることなどわからんよ……ただ、もう少しだけ調べてみようかと思う」

「何を調べる?」


「ユーシアの考えだ。この世界をどうしたいのかを。壊すのか、守るのか」

「ふむ。方法があるなら教えてくれ」

「ああ、まずは……」



 その時だった。

 酔っ払いが二人のテーブルに近付いてきた。

「よーよー、お前ら、陰気くせーぞ! ぱあっと騒げよ、大勝利なんだぜ?」


 シルウェスは酔っ払いを無視して言う。

「出るぞ」

「わかった」


 

「うひょ。すげー、綺麗な声! 美人な顔も見せてくれよ~」

 男はフードへ手を伸ばしたが、横からゲバルトに掴まれた。

 そのまま立ち上がる。頭1つか2つ分、高い。戦いで鍛え上げられた体は、分厚い壁のようだった。


 酔っ払いはびびって愛想笑いを浮かべた。

「へへっ、冗談だよ。そんな怒んなよ~」

 ゲバルトは手を離すと酔っ払いは店の奥に逃げていった。


 その間にシルウェスが机に金を置き、風のように二人は出て行った。

 浮かれ続ける酒場の人々は、誰も気付かなかった。

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