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第22話 魔王の支配

 平原の中に建つ王都フェリク。

 ユーシアが魔王だったことは瞬く間に、街の人々に伝わった。


 魔王姫軍が倒されて浮かれていた気分は落ち込み、これから始まる地獄の日々に恐れおののく人たちがいた。

 しかし一方で、ユーシアなんて魔王は知らないので、きっと何かの勘違いだと楽観的に考える人がいた。

 むしろエメルディアを倒してくれるなら誰でもいいと願う人たちが一番多かった。


 そのためあまり混乱は起きなかった。

 人々はせっせと王都の復旧に励んだ。

 圧倒的な強さを誇る救世主の出現によって、王都に久しぶりに笑顔が戻った。


       ◇  ◇  ◇


 ユーシアは玉座にどっかりと座る。傍にはリスティアが控えている。

 謁見の間には新しくユーシアの配下となった者たちが集められて並んでいた。

 セーラムや大臣も一緒に並ばされていた。

 膝を付き、頭を下げている。


 見下ろしながら恐ろしい声で言う。

「よく集まった、新しき配下の者どもよ。我輩が闇を統べる真の魔王、ユーシアである。面を上げよ」

  人々は恐る恐る顔を上げた。



「さて。まず始めに言っておこう。我輩の君臨に対して異議があるものはいるか?」


 誰も何も言わない。



 ユーシアは頷く。

「まあ、前任のセーラムが賛同した手前、表立って反対できぬだろう。であるからして、我輩の命をいつでも狙うが良い」


 ざわっと人々が身じろぎした。

「ど、どういう意味だ?」「何かの暗号か?」「誘い受けかもしれん」


「我輩を気に入らないのであれば、いつでも実力で排除しても構わん。許可する。――なぜなら、毒や暗殺で死ぬようなら、我輩はその程度の存在であったということだ! だがしかし、我輩は誰にもやられぬ。何千回襲い掛かられようともすべて撃退して我輩の偉大さを知らしめてやろう! ふははははっ!」


 ユーシアの高笑いに、人々は震え上がって身を小さくした。



 続いてユーシアは段の下を見下ろした。

「では、簡単な人事といこう。セーラムよ、貴様を宰相に任命する。内政を取り仕切るが良い」


「え!? よいのかの?」

「当然だ。お前はまともそうだからな。隣に立ち、進言すること許す。そして官僚や役人たちも同じ職務を続行とする。まあ、つまりはそのままと言うわけだ」



 リスティアが首を傾げる。

「それでいいんですか? 何も代わらないですけど……」


「今は下手に国家制度をいじって無駄な時間を使うべきときではない。国名やその他も今までどおり。書類上の変更が煩わしいからな。早急にエメルディアの場所を特定して叩かねば成らぬ。内政面の改変など、エメルディアを倒したあとでいくらでもできる」


「な、なるほど……! ユーシアさまのお考えは本当に深いです! あたし、感動しちゃいます!」



 セーラムが、どっこいしょ、どっこいしょ、と段差を上がって玉座の横まできた。

「ユーシアさま、わしが内政を担当するということじゃが。軍事への支出も今までどおりかの?」

「ほう、鋭いな。今、軍需物資の貯蓄はどの程度してある?」


「今は5万の敵兵に対して1週間戦える量ですな」

「15万の敵に全力で戦って1日もてばよい。あとは浮いた費用を減税に回せ」

「な、なんと! この戦時下で減税とは、自殺行為ですぞ!」


「別に1%でもいい。減らしたという事実が重要だ。それに敵は我輩がすべて倒すからいらぬ! 一日あれば我輩はどこにいても帰還できよう」

「そ、それは凄いのですが……」


「次に、エメルディアの魔王姫城に関する情報をまとめて提示せよ。捜索もしろ。ただ兵員は割きすぎるなよ。情報収集がメインにだからな。おそらく出現ポイントになんらかの法則があるはずだ」

「それはわかった。斥候や密偵が得意だったものを少数派遣しよう。我が国が知っていることはすぐにまとめさせ、今日中に届けるよう」



「まあ、あとは任せる。今は街の復興で大変だろうから、それを第一にな」

「はは~、わかったのである!」


「それから怪我人が大勢出ただろう。アンナは治療に当たっているか?」

 広間の端にいる兵士が手を上げて答えた。

「はい、ユーシアさま。聖女様はすぐに町へと行かれています」


 ユーシアは立ち上がった。

「それだけ聞けば十分だ。次の指示は復興が終わってからとする」

「3日あれば簡易な復興は終わるかと思いまする。では――」

 セーラムは下がると、大臣や官僚に指示を出し始めた。



 リスティアが感動して呟く。

「街の人のことを第一に考えるなんてっ。さすがユーシアさまです! あたし、感動しちゃいました! これが魔王の采配ってやつなんですねっ!」


「ふんっ。瀕死の猫をいたぶっても面白みがない! 元気な獅子の鼻っ柱を折るからこそ、楽しいのだ! ふははははっ!」

 ユーシアは高笑いしながら歩き出す。



 広い廊下を歩いていると、リスティアがついてくる。

「どうされるんですか、ユーシアさま?」

「ほかにやることがある」


「なんでしょ~?」

「部屋決めだ」

「ああ~、なるほど。愛の巣作りですかぁっ。恥ずかしいけど、頑張りますっ」

 なぜかリスティアは頬を染めて身をよじった。


 ユーシアはリスティアを連れて城の中を見て回った。


       ◇  ◇  ◇


 一方その頃。

 王都から少し離れた雑木林の中。


 エルフの騎士シルウェスが、木の根元に座り込んでいた。

 怪我をした右腕に左手を当てる。

「我が名シルウェストリスと契約せし、水の精霊アリアッピナよ。我が呼びかけに応じ、恵みの水を与えよ――浄水流アクアフラクトス


 左手から清らかな水が迸り、二の腕の傷を消毒しつつ洗い流す。

 水が触れたとき、美しい顔が苦痛に歪んだ。それでも歯を食い縛って声を漏らさなかった。 

 それから回復ヒールを唱えた。


「折れてては焼け石に水だな」

 当て木をして布を巻く。口と左腕を使って器用に縛った。

 そんな姿もさまになる美しさだった。



 ――と。

 ガサッと近くの茂みが動く。


 シルウェスはハッと息を飲み、細身の剣を抜き放った。

 右腕をだらっと下げたまま、左手だけで構える。

 木漏れ日を受けて刀身が白くきらめく。


 しかし、声は真後ろからかかった。

「怪我したのか」

「く……っ!」



 赤髪を乱して振り返ると、そこには狼の獣人が立っていた。銀色の毛に覆われた背の高い男。


 シルウェスは安堵の息を吐いた。剣を鞘に収めながら言う。

「驚かせるな、ゲバルトズィーガー師団長」


「すまなかった……シルウェス師団長の部隊はどうなった?」

 ゲバルトは近くの木陰にしゃがみながら尋ねた。



 シルウェスは、ふっと自虐的な笑みを浮かべる。

「指揮下の南方師団2万7千すべて失ったようだ。直属のエルフも連絡が途絶えた」

「そうか……俺の北方師団も壊滅。部下達はあの爆発から何人か逃れたようだが」


 シルウェスは俯いて呟く。赤髪が顔を隠した。

「このまま戻れば私も人形変換確定だな……我がフトゥーレ王国の存続もここまでか」

「俺は、人形になりたくない。目的が果たせなくなる」


 朴訥だが力強い言葉に、シルウェスは顔を上げた。

「このまま逃げるのか? どこへ行くというのだ」

「……あの男。あの異常な強さなら、エメルディアすら倒せるのではないか……?」


「寝返るというのか!? いや、しかし……」

「操り人形になるぐらいなら、可能性に賭けたい」

「……なぜ私にそれを言う」



 ゲバルトは赤い瞳に真剣な光をたたえて、じっと彼女を見る。

「俺は頭があまりよくない。戦い以外何も知らずに生きてきた。でもお前は違う。王女として賢く学んできたはずだ。あの男が本当に頼りになるかどうか、一緒に調べて欲しい」

「……いいだろう。どうせ、あの爆発で一度は死んだ身。ともに調べよう」


「助かる」

 ゲバルトは手を差し伸べた。


 シルウェスは動く左手で握手した。

 ただし「あの爆発……闇の力だった気がするぞ……しかも闇より純粋な混沌……」と呟きながら。

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